第144話 本の虫
なにがなんだかよく分からないでござる。イメージで兵器を作る? 頭の中で図面?
「やって見せた方が早いだろ」
「そうね、ちょっとこのスケッチブックを見てて。じゃあ教授、適当になんか描いて」
「何にしよっかなー」
森亜さんが顎に手を置いて少しすると、何も書かれてないスケッチブックの真っ白いページを見つめているだけでペンも何もないのに突然線が走り始めたでござる。
「おお、風景画でござる」
「おおざっぱで分かりやすいだろ? これはスケッチブックだけではなくてPCにも使えるから、スクリーンを眺めてるだけでデザインしたり設計したり出来るんだ」
「組み上げる時もこのドームに部品を持ってきてマニュアルを眺めていればその通りに組み立てられるの」
「技術革新どころの騒ぎじゃないでござる」
「ただし、このドームの中でのみだ」
「なん…だと…?」
「壁や天井を見て欲しい」
天井…。立体的な三角面状の板が組み合わせられていて凸凹でござる。この妙な壁や天井はドームをまるっと囲っていて唯一扉とその周りだけが平面でござる。
「こりゃーな? ミ
「ミウラ折りでござる」
おいこら」
「はい正解。よく知ってるね」
「知ってんのかよ人のセリフ取るなよ」
缶コーヒーのBossで見るあのゴツゴツした形状は吉村パターンの研究からきているというお話でござる(Wikipedia参照)。
「この特別なPCCPシェル構造には人の脳波に干渉し、魔法を発生させる装置を仕込んである。その装置によって脳波を読み取り魔法としてあれこれしているんだよ」
「私や君たちくらいになると平気で魔力を物質に具現化できるけどね」
「まあこんな感じで作ってんだよ。弾丸とかサイズの変更とかなんとかが無尽蔵に撃ちっぱなしなのはこれの応用だ。最初に仕込みのモノを作っといて、モノにはこれの小型がくっついててな。無限に撃ちっぱなしや補充されることをイメージしてるんだ。そうすりゃ一から十まで想像しなくていいしチカラの節約にもなる」
なるほどー。
「誰でも物質の具現化が出来るように発展させて、これを小型端末にして普及すれば人類皆が魔法戦争だ」
うんうん、うん? 戦争?
「それは…、どういう?」
「そりゃあ、オリジナルの方の世界と戦争になるらしいから急がないとね?」
戦争? ってその戦争?
「まさか人類全て兵士にするつもりでござる?!」
「それこそまさか。何十億台も生産できないし、装置だってまだこんなに大がかりなんだよ? あとお金が無い」
「え? でもさっきリエッセさんの武器には小型が付いていると。しかも弾丸を出せるってことは物質の具現化でござる」
「キミらだけ特別なのさ。異能力者としての力はどこからどうやって湧いているのか分からないが、それをエネルギーに変換出来ているから可能なんだよ。ロイヤルセブンの分だけゴリ押しして予算をもらったのさ」
「よく分かんないけど使えるから使っとこ! みたいな感じでござるか」
「そう! こまけえことはいいんだよ理論! 色々きっともしかしたらたぶん恐らく厳密には全然まったく違うかもしれない! けどそんなの関係ねえ! そんなの関係ねえ!」
それにしてもこの教授、ノリノリでござる。
「それじゃ戦争はどうなるでござる? 間に合わないんじゃ?」
「すぐの話じゃねーから大丈夫だよ。つーかアタシらが生きてる内かどうか分かんねーし」
「スケール大きいでござるなあ」
「私から言わせてみるとスケールが大きいというより、人間の寿命が短すぎるの」
そりゃー(前職死神と比べたら)そうでしょ。スーさんの工房ってどんなとこかなって思ってたけど、スーパー簡単に言うと適当にイメージしたらその通りになるよ! 的な工房だったでござる。
「ちなみに尺の都合で話していないが実はここまでの階段を降りるのに約二時間ほど要している」
「なんでエレベーターにしなかったんでござる?」
「このドーム建設にその年の予算使い切ったからね。えらーい人達にお前税金舐めてんだろって怒られたのさ。どーせアイツら天下りのクセに」
「金だの自然の摂理だの語ってるけど所詮そんなものは人間の間でしか通じないのにね。神やってる私からしてみればバカなんじゃないの?って話」
言われちゃったでござる。
「エレベーターがないことにはないワケじゃないんだが、搬入用エレベーターでね。深く掘りすぎて維持費が半端じゃないから普通のエレベーター作れなかったんだ」
「片道二時間、往復四時間。今何時でござる?」
「午後四時半。ここまでの車移動の時間含めたら今すぐに帰っても晩飯の時間には間に合わないな」
「なんと。マッハで帰るでござる」
「えー、もう帰っちゃうの? 会えるの楽しみにしてたのに」
「大丈夫、狭い日本にいる限り吾が輩はいつでも会えるでござる」
ヘシン! して二時間の螺旋階段を三分で駆け上がり飛び上がり元の姿に戻らないまま車に飛び乗り、
「あー、おっぱい仮面だー」
「しっ! 見ちゃいけません!」
と言われながらも我が家に帰ったでござる。
「ただいまー」
「でござるー」
「きゃー! きゃー!」
「お母さんそっち行ったよ!」
玄関に入ってすぐに母上と妹君の声が聞こえる。察するにゴキブリでも出たでござるか? まぁまだまだ暖かい季節だから出ても不思議じゃないでござる。
「なんじゃこりゃー!!!!」
リビングに入ると黒い塊がウヨウヨしていてあっちにカサカサこっちにカサカサしているでござる。キモッ!
「なんなんだコイツら」
バシッ!
リエッセさんが一匹ひっぱたくと消えていなくなった? でござる。…………、モミッ。
「なにやってんだお前」
「いやこのへんに黒い虫がどさくさに紛れておっぱい揉むチャンスかなって」
「お前人の乳首が黒いとか言いたいんだろうがアタシの乳首はピンクだぞ」
「そういえばそうでござる」
「にしてもなんなんだこれ。ああん?」
バシッ!
むんずっと一匹とっ捕まえたでござる。ゴリラかな? アマゾネスかな?
「コイツら…字だな」
見れば文字化けみたいな字の羅列がくっついてて頭? と思われる部分が丸く太っていてブンブン振り回しているでござる。
ガブッ!
「いってえなこのやろっ!」
バンッ! びくんびくんっ、バシュッ!
噛まれた拍子に叩きつけられた文字虫は床に叩きつけられると二、三回力なく跳ねて消えていったでござる。
「妹君ー? これどっから湧いたでござるー?」
「あっ、お兄ちゃんおかえりー! 教科書だよー!」
「は? 教科書?」
「ご飯の前に勉強しようと思って教科書開いたら字がわささ出てきてもぉぉぉぉぉ! ってちょっとヤダどこ入ってあっんんっ、やだぁ…」
見るとテーブルこたつの上に開きっぱなしの国語の教科書がある。妹君が変な気を起こして勉強しようなんて思うからこういうことになるでござる。ここは一発消し飛ばす!
「コロナフラッシュ!」
コロナフラッシュとは以下略!
「ぷう」
「あああああー!!!!」
「今度はなんだー」
「教科書が真っ白!」
あれ、吾が輩のせい?
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