第135話 主人公より強い人たちはたいがい化け物
ででーん! でんでんでーん! ←某暴れん坊将軍の殺陣のテーマ(のつもり)。
「そんな重たい話はしておりませんの。ふふふ、人質一人の為によくもまあおめおめと」
「この、人でなしが…!」
「なんとでもどうぞ? 人であろうがなかろうがやることは同じこと。卑怯もラッキョウもありません」
捕らわれた母を人質にされ、なす術もなく一方的に攻められるカレン。単身敵地の館に乗り込むもやはりそれは罠だったでござる。エントランスホールの上から優雅に見下す首魁二人と縛られ口を塞がれた母。
「あなたもこの女も、そして最上位のあの馬鹿な男も消し去ってしまえば全ては闇の中…。あなたは知らなかったのよ。いえ、半ば気付いていて現実を拒否して目を反らした結果なのよ」
そんな筈はない、仮にも私に血を分けた私の父がそんなことをするワケがない。希望的観測どころかもはや妄想に近いソレの為に囚われて国を出た。
「くっ…!」
この悪女、元から疑われていたのでござる。あまりも鮮やかな経歴、目に余る美貌を、人知れぬプライベートが。
「ここであなたを始末してしまえばもはや
脇に立つ男。いつもへばりついていた新人執事。いつも事あるごとに顔を覗かせては気持ち悪い笑みを浮かべていた。
「現最上位を殺し、その後釜に納まった私が再婚し担ぎ上げる。絶大なルージュの権力は我がカラミティのものになるさのよ!」
「その悪事、許すワケにはいかんのう」
「だっ、誰だ!」
どこからか、大きな館のエントランスホールに声が響く。
「どすこいッ!」
突如、扉が蝶番から解き放たれ吹っ飛んだ。破壊され転がった扉に呆然としていると、男が三人入ってきた。
「こやつはお前さんのとこのかの? 話はぜぇーんぶ聞かせてもろうた」
縄を巻かれ引きずられてきた男は盛大に投げつけられ悶絶した。
「なっ」
「クソが…! しくじったのね!」
「大丈夫でござる? カレンさん」
ボロボロにされたカレンさんを抱き上げる。泣いてるでござる。
「お母さんが…お母さんが…」
「ちょっと休んでて」
隅の壁に寄りかからせる。せっかく綺麗な肌が傷付いて、髪もこんなに痛んで。
「ジジイ、ここを誰の館をどこだと思っていらして? 警察呼びますわよ」
「戯け者が! 余の顔見忘れたか!」
「なんだと? 貴様何者だ!」
「余の顔…? あっ、あなたは!」
ようやく思い出したのか、先々代の顔を見て驚愕しているでござる。
「はよう降りてこんかい、どちらが上だと思うとる」
「アンタ達のことは今爺やさんがフランス政府に申し立てているし、ここも外は憲兵隊で包囲されている。さっさと観念して牢屋に入れ」
「くくく、ロワの名を持つお方はもうご隠居なされたのよ。こんなところにいるはずがないわ。そうよ、ここで殺してしまえばただの老人…」
「出合え! 出合え出合え! コイツは先々代様の名を騙る不届き者だ! 斬れ! 斬り捨てい!」
あっという間に館の使用人に囲まれたでござる。コイツらまさかあの悪女のことを知っててそれでもなお付き従ってるのか? 気が知れないでござる。
「少しでも抵抗してみなさい、この女がどうなるか分かる?」
「んん…」
ぐいっと人質を持ち上げる悪女。雑な扱いを受けたのか、服がところどころ薄汚れていて切れてるでござる。ふとも…いや今はやめておこう。
「あまり乱暴されると、あなたの首が飛びますでござる」
「苦しいわねボク。そんな時間稼ぎが通用すると…」
「あなたもあなたでござる。いつまで娘を騙してまで惚けているつもりですか!」
ひゅっ
「ぎゃっ!」
ぬうっと手が伸び、首筋をソードレイピアが掠めた。縛られていたお母上はいつの間にか縄をほどき、それが当然であるかのように立っているでござる。
「惜しかったわ。まさか坊やにバラされる方が先だとは思わなかったけど」
「おおおおお前は!」
「お母さん…?! 朱雀…?!」
「朱雀はもともと私の剣よ。言えば来てくれるわ」
不意討ちを外したその女性のそばには、人の姿に具現化した朱雀があったでござる。フランスの実家でどうせお前なんか男の一人もいやしないなんて分かりやすい挑発に乗ったカレンさん。の肩を持つべく渡仏したらまーいつもの展開でして。
「久しぶりね朱雀。鈍ってない?」
「鈍りはしないな。お前の娘、なかなか人使いが荒い。誰かさんの若い頃にそっくりだ」
「きっ、貴様何者だ! どこから出てきた!」
時差ボケも納まらぬ内に殺人が起き、襲撃を受け、カレンさんのお母上が人質に取られてしまったでござる。その背後にはカラミティの影。どうやらあの悪女と優男の執事は裏で繋がっており、さらに
「これは…血? …血よ! よくも私に傷付けたわねえええ! 許さない許さない許さなイ許さない許さナい許サナイユルサナイイイイイイ!」
「おっと危ないわね」
首筋に一太刀食らった悪女は明らかに異常なほど取り乱したと思ったらゴキバキベキと体を怪物に変貌させたでこざる。女性らしい華奢な肉体だった面影はなく、禍々しい巨躯へ。
「フゥゥゥゥゥ! フゥゥゥゥゥ!」
「なんと、もはや人ではなかったか」
お母上がエントランスホール二階から華麗に飛び降りてくる。もはや人ではなかったかというかもはやお前誰やねんの状態。
「どうだ! 恐ろしいだろう! さあ、謝るなら今の内だぞ! 謝ったところで実験動物のエサだがな!!! フハハハハ!!!!」
「バカね」
「なんだと!」
「化け物ならなおさら遠慮せず斬り飛ばせるだけよ」
「言わせておけば! 斬れェェェェ!」
「フンフンフンフンフンフン!!! ジジイを舐めるでないわ!
あれえ! このジジイ強! あっと言う間に雑魚が消えていくでござる。どこぞの天才バスケットマンみたいな残像が見えたけど。
「久方ぶりに血湧き肉踊るわい! ヌゥハハハハハ!」
「朱雀! 私達も負けてられないわよ」
「うむ」
「八極龍天、聖紅の朱雀。一振りすれば火焔、二振りすれば消し炭、三度振れば焼滅
」
「ウワアアア!」
「ギャアアア!」
「八度振ればどうなるか…、言わなくとも分かるわね?」
お母上が構えると朱雀の刀身が妖しく、美しく、紅く灼熱に染まっていく。
「居合い抜き、
凄まじい勢いで雑魚を斬り捨てていく二人。これさ、吾が輩の出番いらなくない? いや、こういうのは思っても言っちゃ駄目なのは分かってるけど、ねえ? 帰っていいでござる?
「っとお! あっぶな! おりゃあ!」
「お、お母さん…?」
漏れた雑魚が露骨にお前は弱いだろと流れてくる。乱戦の最中、一人座り込んだまま呆けているカレンさん。こりゃ無理もないでござる。演技だったとはいえ精神的にやられていたはずなのにこの豹変ぶり。
(必殺の気合いだけで幻を見せるほどでござる。くわばらくわばら…)
「決めるぞい!」
「はい
「「聖紅天焼剣!」」
紅?に跡形もなく消え去る雑魚ども。どのみちコイツらもう人じゃなかったでござる。というか殺さないで生け捕りにしましょう! とか言ってこの二人を止められる気がしないでござる。
「さあ! あとはアンタ達だけよ!」
「ぐううう! ならまずは娘からだ! 死ねえ!」
「しまっ!」
この状況は計算外だったのか、追い込まれた優男の執事は突然拳銃を抜きぶっぱなした!
「おたく人間?」
しかしその瞬間! 弾丸が弾丸で弾かれたでござる!
(なんだ今の?!)
跳弾はカレンさんに命中することはなかった。声がした扉の方を見ると警視庁の刑事さんが立っていたでござる。冒頭からやる気なさそうに気怠げにふっ飛ばした扉のところで突っ立ってただけの人。
「刑事さん!」
「俺の名前は『啓治さん』でも『刑事さん』でもないよ。俺はホランド、ホランド・ロランド。【二度撃ち要らず】のホランドって言うんだって」
「あ、が…」
?! 今のは確かに一発だったはずなのに…。振り返ると優男の執事が眉間に開いた風穴から血を噴きながら白目向いて絶命したでござる。
「アアアアアアアアアア!!!!!!!」
「あ失礼、その人彼氏だった?」
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