第123話 ババアも強い
「いえーい!」
「ぐうぅ…」
「カレン! このクソガキ、よくもやったわね!」
横槍ならぬ横ハンマーで壁に叩きつけられたレズカレンさんは瓦礫に埋もれて呻いている。
「何がクソガキだレズカップル共。さんざんっぱら人をアゴで使ってくれやがってしまいにゃいらねえだと? 汁男優の海にブチ込むぞコラ」
「言わせておけば洗濯板が…! くそっ、目に水が」
止まない散水に頭を振って水を飛ばすがいつまで経って降り止まらない。両手が使えないせいか苛立ちを見せた。まあそりゃそーでしょうね。
「なんなのこの水はァ! いつになったら止まるのよ!」
「何言ってるでござるか? スプリンクラーならとっくに止まってるでござるよ」
「…あなた、謀ったわね! 剣はどうした!」
レズシオンさんが周りをよく見るとなんと自分の頭の上からのみ局地的に猛烈な雨が降り注いでいた。吾が輩が携えていた青龍たんはさっきから姿が見えない。誰かが持っているワケでも床に落ちているワケでもない。
「青龍たーん? もっと土砂降りいってみよーう」
「はーい」
「っ?! うしっ」
「はいどしゃーん」
「ああああああああ!」
「ふんっ! おぉおおおぉおおおお!」
「?! うっ、くっ?! つっ、爪が抜けないっ!」
気を取られた隙に刺さった巨大な爪ごと持ち上げ、
「ずぇあッ!」
「わっ、こっちに向けないでください」
ヒョーイ
力いっぱい投げ飛ばす!
「きゃああああああああああああっ!」
「いっとぅわあぁぁぁぁぁぁい!」
悲鳴とともに一番遠い向こうの壁際まで吹っ飛んでいき、少し間を置いてドウンとぶつかった音がした。無事下に落ちたご様子。カッコつけたのはいいけど投げ飛ばした瞬間に両手から爪が抜けてまた激痛が走ったでござる。二度とやらないでござる。
「大将バカだろ」
「吾が輩の力はオリジナルとコピーの二人分、つまり超再生も二人分でござる」
「あんまり過信しない方がいいぜえ?」
「オレっ子スーさんは吾が輩を心配してくれるでござるか? ナデ…」
「ばっ! やめろよそんな血まみれの手で!」
「おっとこりゃ失礼。青龍たん水ちょうだい」
「私は水道ですか?」
なんだかんだ言いつつ水を出してくれる青龍たん。手を洗い顔も洗い濡れて邪魔な髪をオールバックにしてついでに太ももナデ…。
「やっ、ちょっとっ! どこに手を入れてるんですか!」
「内腿」
「ブレねえなあ大将」
「ボクは? ねえねえボクは?」
一つ残念なのは青龍たんは全然濡れてないことでござる。久々に青龍たんのあの露出狂と言われても文句は言えないスケスケ巫女服が見たいでござる。
「さて、冗談はこれくらいにして。そろそろレズカップルさん達にはお縄を頂戴してもらうでござる」
「ぐ…っ、ブフッ。ふふ、ふふふふふふふ」
「何がおかしいでござるか? というかいつの間に戻ってきたのか小一時間」
「くく、あぁんた達まだ気が付かないの? そこの使えないガキも、ここにいる私達も、陽動なのよ。どうせ要求が飲まれないことなんか分かってる。だから核を撃つまでの時間稼ぎの為に…」
「聞こえた? …だってよ。うん…うん…分かったわ」
「ちょっと! そこのクソビッチ! 人が話してるときは静かにしなさい! 人の話は最後まで聞きなさい! だいたいさっきから突っ立ってるだけで戦いもせず何をして…」
「後ろ、危ないわよ」
「バカが、私の後ろは壁………?!」
長方形でとても広く、一番遠い向こうの後ろまで30mはあろうか大会議室のその壁にある、いくつかある大きなの窓。振り返った青い空の彼方から何かがやってきた!
「「「だりゃあああああああああ!!!!」」」
バシャアアアアアン! と豪快に全ての窓を粉砕しながら例の強奪された新型の試作機が倒れ込んできたでござる。その頭をカァン!カァン!カァン! と良い音をさせて踏みつけて現れたのは…。
「核ってのは、コイツのことかい?」
「まったくその辺フラフラして」
「手間ばっかり取らされました…」
「おかえりでござる、三人とも。リエッセさん、映画行きましょう」
「おう!」
武蔵野グループ本社ビル最上階、大会議室。なんで本社ビルの最上階に大会議室でござるか。
「核ミサイルってのはコイツのことかい?」
頭部のアーマーを踏みつけ両手を広げて見せたリエッセさん。平均的な成人女性程度の長さの筒が握られていた。
「なっ」
「なんでそれが…」
「ほら降りなさい、開けてあげるから」
バキバキバキバキ!
ビルに突っ込んでボロボロになった機体正面のアーマーを無理矢理剥がすと、泣きべそで顔がぐちゃぐちゃになった好青年が謝りながら出てきたでござる。
「ごめんなさいごめんなさい、本当にごめんなさい…」
「あ゛ー! 私の一兆円!」
「一兆円? なにそれ?」
「ボク達ついさっきなっちゃんから行方不明って聞いたばかりなんだけど」
「どこ探してもいないから南極行ってみたらど真ん中の到達不能極で体育座りで膝抱えて俯いて泣いてたのよ」
なんとまあ可愛い好青年でござる。見れば格好こそ軍人のそれだが顔つきは明らかに一般人と大差ない。まさか新米に核ミサイルなんか持たせたでござるか。
「どうすっかなこれ~。…お前らのツラに叩きつけてやろうか? あ?」
「くっ…」
「私達のオリジナルが来てるっていうからどんなものかと思ったら、ハッ! とんだザコじゃない。ねえカレン?」
「珍しく意見が合うのね。まったく同じ人間、まったく強さから始まっているはずなのにこれじゃまるで『別人』だわ」
「なんですって…!」
「コピーの分際で!」
見下しながら豪気に鼻で笑うシオンさん、それを地面に這いつくばって恨めしく睨むレズシオンさん。そういえばオリジナルだのコピーだのでこれほど優劣がハッキリするものなのか。よくある話じゃたいていコピーはオリジナルに敵わないなんて聞くでござる。
「ていうかそんな危ないものウチの本社に持ち込まないで欲しいんですけど!」
「ホワイトハウスに投げ返していいんだぜ?」
ケタケタと笑うリエッセさんはなんと核ミサイル二本をジャグリングし始めた。
「危ないどころじゃないのでやめてくださいでござる」
「え? なんだって?」
ガァン!
「うわっ!」
「キャアアア! …あれ?」
「これでもか?」
「…爆発しないでござる?」
リエッセさんはもう一発の核ミサイルをわざと床に落っことすが爆発しないでござる。
「信管なんざとっくに抜いてあるってーの」
「おふざけにしては心臓に悪いでござる…」
「さて、これはアメリカに返すとして」
ぽいぽい!
「ばっバカ投げんなババア! 危ねえだろ!」
「誰がババアだクソガキ!」
「あの~、もう終わった?」
割れた窓からひょこっと顔を出すリーシャさん。
「一人足らないと思ったら。なんで一緒に入ってこなかったでござる?」
「私はほら、女の子だから『だりゃあああ!』なんて野蛮なこと叫ばないし」
「さりげにdisってんじゃないわよこの観葉植物。アマゾンに植えつけるわよ」
「観葉植物じゃないもーん、植物系女子だもーん」
「バニーガールの刑けってええええええええ!!!!!」
「なに騒いでんだいあんた達」
「げぇっ、おばあちゃん」
突然入り口のドアが開き会長のおばあちゃんが数人の武装した人を連れて入ってきた。珍しく杖をついているでござる。
「お久しぶりでござる、おばあちゃん」
「あらござるくん、お久しぶり。元気してる?」
「はい、おかげさまで」
おかげさまでしっちゃかめっちゃかな毎日を送っているでござる。
「上でバタバタ五月蝿いから皆びっくりしてるよ」
「うわあああ!」
「あっ! おばあちゃん!」
ズドン!
「ぎゃんっ!」
「ババアを舐めるんじゃないよ小娘」
とっさに襲いかかった赤いレズを杖ではたき落とすおばあちゃん。いやいやおばあちゃんがそんな強いなんて聞いてないでござる。やくざに絡まれてたのはなんだったの?
「はあああああ!」
「あたしをスルーしないでくれる?」
ドッ!
「いああああああ!」
あんまり出番のないレイミさんの【ゼウスの雷霆】。紫電の稲妻を帯びた三叉の槍は真っ白い鎧を鮮血で真っ赤に染めて、右肩甲骨を貫通しそのまま床に突き刺さったでござる。めっちゃ痛そう。
「詳しいことはまた後で。皆帰りの車を用意させるからちょっと待っててね。レイミは残りなさい」
「はーい…」
「やっとおうちに帰れるでござる。今何時でござるか?」
パンツ一枚で連れ去られた散々な1日。お気に入りのオナホは投げられるし、トモミンには襲われるし、心臓は心臓じゃなくなってたし、ストーキングなずなたんは永遠の(8000年と)16歳だし、オリジナルのシオンさんとカレンさんは絶壁だし。
「もうすぐ六時だぜ、相棒」
「いつから吾輩はリエッセさんの相棒に……。外がまだ明るい、夏でござるなあ…。あっ」
「どうかしたか?」
「晩御飯炊くの忘れてたでのござる」
炊飯器の中空っぽで来ちゃったでござる。
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