第105話 B地区
「は、はは、は…」
「どうした? 笑えよクソ野郎」
もう陽が傾いた校庭に乾いた高笑いが虚しく響く。二人の仮面の戦士を囲むように集まる都市伝説達。人体実験の被害に会った『元』生徒、『元』教師達。そしてこの中にいるだろう、神隠しとされて誘拐されてきた子ども達。
「ただ一つだけ、注意していただきたい」
集まった野次馬に向かって叫ぶ。
「俺は一度もこの人達を『人間じゃない』なんて言った覚えはない!!!」
混乱する野次馬。無理もない。そもそも都市伝説をこんな間近で見たことはない。ましてや全身を見たことなんかない。おまけにほとんどが『人』の形を保ったままだ。
「知ってるよな? 皆あんた達の先祖が加担した人体実験の被害者だよ。老朽化を言い訳に最後のドデカイ証拠を消そうしたから集まってきたんだってよ」
「し、知らん! ワシは知らん! だいたいこんな短時間でどうやってこんな人数……
」
「この姿に変身出来るようになってから速く飛べるようになったからなあ。ちょっと余裕あったからこの辺回ってきたんだよ。どこにいるのか分かればあとはなんてことはない」
「なにぃ?!」
「ああ、そうそう。誰が書いたのか知らんけどこんなもん預かってきたぜ」
「?!」
どこから取り出したか一冊の日記。表紙に『人体実験観察日記』とだけ記されている、ところどころ虫に食われカビている本。
「恐らくカラミティの人間と思われる『誰か』が書いた生物兵器計画が暴露されている。この中にあんた達の先祖が加担したって書いてある。忘れられた頃に全てを隠滅するとも」
「く、くくく…」
「何がおかしい!」
「良いことを教えてやろう小僧…。お前らが地下で得た『注射器』。あれはな、ただの『サンプル』だ」
「なに?」
「計画は頓挫したが研究はずっと続いていたのだよ……。そして『完成』だ、これがなあ!」
懐から一本の瓶を取り出し蓋を開けると一気に飲み干した。
「うふふ、ふふふふふ、ふァはハはハはハはハ! 殺すこロすころす殺すコロスコロスコロスコロスコロコロコロコロコロコロコロコロコロ」
「……、はいパス」
「きゃっ! 貴重な証拠を投げないでよ!」
手遅れだったのか。もはや精神が壊れていたのか。老齢の男は己すらも変えてしまった。悪魔を模した、いびつな異形に成り果てたその男はもう目の焦点が狂っているでござる。
「クソが。命乞いの一つでもするかと思ったら」
「アァガアアアアアアッ!」
「アンタはもう『人間』じゃない」
Evolution Flare
「消し炭も残さん」
夕陽の浮かぶ水平線にもう一つの夕陽が生まれる。一歩進む。また一歩進む。歩くような速さでゆっくりと、天を照らす。真っ赤な太陽の作り出す、幾重にも重なる陽炎の隙間から、神剣が悪魔を捉える。
「
「ギアアアア!!!」
異形のその身を斬り裂く灼熱の業火に、まさに断末魔を叫ぶ。横一閃斬り落とされ頭だけ残すもまだなお息のある悪魔は命乞いをする。
「ア、ア、ア…、タスケテ……」
今まで黙って見ていた鋼鉄の少女が口を開く。
「どうする?」
「潰してしまおうホトトギス」
「分かった」
巨大な鎚を振り上げると、悪魔がふわりと宙に浮き、下に地獄の門が禍々しい音を立てて大きく口を開く。わらわらと無数の黒い手が、頭だけになった悪魔を地獄へと引きずり込まんと掴む。もう逃げることも命乞いも出来ない。
「これでおしまい」
「ッッッッッ!!!!!」
避けることも声を上げることも叶わなくなった悪魔もどきは充血した目を見開き、最期を迎えた。穢れた血潮が辺りに飛び散り、文字通り叩き潰した。地獄の門が骸を嬉しそうに引きずり込み、満足そうに消えていった。
後日。
「おうふ、冷た」
「はあー気持ちいい」
「私が言うのも変だけど、神剣がお風呂に入るってどうなのかな?」
「いきなり水風呂作ってほしいなんて言うからびっくりしたわ。そりゃそのくらいすぐできるけどね? まさか巫女様が二人も出てくるとは思わなかったしってうわ湯気ががが」
全力全開の超必殺技を使い灼熱が抑えられなくなり、水系?の青龍たんに怒られたとさ。
「まさかこんなになるとは思わなかったでござる」
ということでレイミさんにお願いして急遽サロンに水風呂を作ってもらい青龍たん、なずなたん、レイミさんと混浴。一度海までひとっ飛びして浸かってみるも一瞬で辺りが蒸発。お魚びっちびっち。こりゃ無理だってことになって一日北極で過ごし、冷ましながら水風呂建設を待っていたのでござる。
「うーん、ぬるい!」
「今あなたが沸かしたんですよっ!」
スパーン!
「こりゃあ【
「せっかくカッコいいの考えたのにねぇ」
「あんなのホイホイ使おうとしてたんですか? やめてください死んでしまいます」
「いやもうあなた死んでるでござる」
「そうでした」
混浴で男一人に女四人。絵面で見たら羨ましいかも知れないけど内二人はスピリチュアルなお方でござる。まあ触れるからいいけどね。
「ナレーションしながら自然に太もも撫で回すのやめてくれませんか? このセクハラ大魔神」
「変態紳士とお呼びください(キリッ」
「はあ……転生しようかな」
「ねえ、レイミちゃん。あの日記の正体分かったの?」
「ええ、まあ、はい」
タイトルと中身だけの、どこのだれが書いたのか分からない古ぼけた日記。レイミさんにしては随分歯切れが悪いでござるな。
「一応すぐに分かったんですけど、故人だったんで本当にその人かは裏が取れません」
「して、あの日記の著者は誰でござる?」
「銀座のときのリーマン魔術師覚えてる?」
「サード・アイをクビになったリーマンさんでござるな」
「魔術で日記を調べてもらおうかと思って持ってったら、『この字は曾祖父のものだ』って。科学実験だった人体実験に魔術師は参加させてもらえなかったから書いたんじゃないかって話なの」
「なんと」
案外世界は狭いでござるな。こんなに近いところに答えがいたとは。ということはあのリーマンさんは昔からの魔術師の家系でござるか。
「まっ、あれは正体分からなくてもよかったんだけど。教育委員会も豪族だった地主も工事業者もぜーんぶしょっ引けたし。いやーそれにしてもナイスタイミングだったわね」
「実は日本中都市伝説探し回って5往復くらいしてたでござる」
「はやっ」
「ああそうだ、レイミさんにはハメてくれたお礼をしなくちゃならないでござるなあ」
「えっ? …あれはほら、必要でもあったから、ね?」
「問答無用!!!」
「あっちょっん、んん、あっ、ひゃっ、やだ、ひゃひゃひゃっ」
「お疲れさまでーす」
「おいーす」
一気に両手で鷲掴みにしてマウントを取り動けなくなったところで脇をこちょこちょ。というところでトモミンとリエッセさん。うーん、やっぱりDとFは違うでござるなあ。
「おおトモミンにリエッセさん、お疲れ様でござる」
「なにしてんだ?」
「仕返しのくすぐりの刑。しばらく姿が見えなかったけどどこ行ってたでござる?」
「うん、ただの変態ね。ちょっと調べもので長野に行ってたの」
「そんなに乳首がいいならあたしの胸でいくらでも好きなようにさせてやんのにー」
「あっ、トモミン久しぶり~」
えっ? なずなたんがまるで昔からの親しい仲のように手を振っているでござる。コリコリ。
「やっあっあっ」
「久しぶりなずなおねえちゃん。やっぱりそうだったんだ」
えっ? あれっ? なずなたんとトモミンって初対面のはず……。レイミさんだって今日が初めてだったのに……。おねえちゃん? やっぱりってどういうこと? コリコリ。
水風呂で体を冷やして、そろそろ家に帰って寝るか…なんて考え始めていた矢先でござる。吾が輩の心臓に宿りし美少女巫女なずなたんをおねえちゃんと呼ぶトモミン。コリコリ。
「久しぶりって、えっ?」
「この人がそうなのか。初めまして、ござるの婚約者のリエッセです」
「こらこら。どさくさに紛れて勝手に婚約でござる。いやまあ、正直まんざらでもないというかお付き合いからでしたら…」
「よしじゃまずベッドインからな。その次は挙式な。
「飛ばしすぎィ!」
もはや婚約ですらないでござる!
「トモミン、なずなたんがおねえちゃんってどういうことでござるか。確かに似てるっちゃ似てるでござるが、どう考えても歳離れすぎでしょ」
「うーんとね、簡単に言うと私はおねえちゃんの子孫だから」
「子孫?」
「はーい、私ご先祖様でぇーす」
「ご先祖様?」
つまりなずなたんも黒髪ツインテになるってこと? 黒髪ツインテ巫女爆誕?!ん? ちょ待てよ? 長野山中で同志と発見した遺跡でヒョイパクした石になずなたんが宿ってて、んでそのなずなたんが古代から伝わる戦巫女の一族であるトモミンのご先祖……?
「…すいませんちょっと用事を思い出したのでこのへんで」
「逃がさないわよ」
ガシッ!
「ヒョッ!」
乳首コリコリの刑をしたまま風呂から逃げるように上がろうとしたらナニかを掴まれた。ナニというより竿かな。
「あなたが食べた勾玉は見つかっていなかった私の家の家宝なの。見つかれば国宝間違いなしだったわ」
やっぱしそうなるでござるか。ああそう、吾が輩国宝食べちゃったの、へー、そーなのー。
「古代日本で天照大神と人を繋いでいたとされる、伝説でしか存在しないはずだったのに。ある日どっかの誰かさんに『気』が混じってるからおかしいなあと」
「うわー、やっちゃったわねござるくん」
逃げ出したい凄く逃げ出したいでござる。一刻も早くおうちのベッドに帰りたいでござる。きっとこれは夢オチ。
「よく『気』が混じってるなんて分かりますね」
「私みたいに鎧を具現化する境地まで達するだけのセンスがあると、精神世界を共有したり明晰夢で会ったりできるんです」
「へー、トモミンさん凄いですね。ちゃんと鍛えているんですね」
「これでも次期当主ですから」
「待て待てフルアーマーならウチらもやってっからな?」
おおん?! そんなの聞いてないでござる! 青龍たん感心してる場合じゃないでござる!
「あとはあなたの妖狐さんに油揚げ渡して、レイミさんに武蔵野グループの人を貸してもらったの」
いつからお師匠さまは吾が輩のものになったでござるか。いやツッコミどころはそこじゃない。あの年増狐まーたペラペラと…!
「去年の秋くらいに食べたってね。私がおねえちゃんに会えなくなった時期とぴったりよ。おまけに見つかった遺跡は崩れてるし、祭壇まで辿り着くのに苦労したわ」
「あの、ホンット申し訳ないでござる…。あのね、遺跡は石食べたら崩れちゃいまして、というか記憶が曖昧3センチ…でして、あの、その」
「ということでよろしくね、旦那様♪」
ファ?
「私の家まで挨拶に来いって言ってるのよ」
ファーwww
「ところで」
「はい」
「そろそろ乳首離してあげたら? もうボーッとしてる」
「はい」
「…」
「おいレイミ? おーい…、ダメだこりゃ完全にイッちまってる」
後ろから抱えられたまま乳首を弄られ続け真っ赤に紅潮した顔のレイミさん。よだれを垂らして目が虚ろで上の空でござる。
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