第104話 蟹の味噌汁おいしいですよね
思ったけどこれ都市伝説って言うより学校の怪談だよね。青い紙と赤い紙をトイレから引きずり出しようやくおうちに帰れる…と思った矢先今度は『トイレの花子さん』でござる。
「ここは学校の先生方に任せて我々は行きましょう」
「はーい」
加利守さんは青い紙と赤い紙をやっていた黒焦げのハゲオヤジを立たせて歩き始めた。外に車を置いてあるんでござろう。吾が輩とスーさんも続く。
「それにしてもどうして突然こんなに都市伝説や怪談が起こるんでござる」
「それは私達の学校が解体されようとしたからだよ」
黒焦げのハゲオヤジさんが口を開いた。私達の学校?
「おっちゃんもひょっとして『口裂け女』さんの先生?」
よく見ればこのハゲ、学校の先生に見えなくもないでござる。ジャケットにスラックス。確かあの中学校の日記には戦後すぐの日付があった。当時を考えると良い身分でなければこんな格好はできないでござる。
「そうだよ、私は国語の教師だ。皆あの学校が無くなるって知って、そうはさせまいと集まってきてるんだろう」
「じゃあトイレの花子さんも」
「一人だけね、いるんだよ。かくれんぼするときに必ずトイレに隠れる女の子が。必ず三番目のトイレにね。いや、なにもかもが懐かしい」
「…」
しみじみと語るその様子は郷愁と悲哀に満ちていた。もう二度とあの頃には戻れないと、そう言っているでござる。
「私達は幸せだった。戦後間もない時代に小さな学校。豊かでこそなかったが、あの日々はなにものにも替えがたい。確かに悲劇は起こってしまった。しかしそれでもあの学校は大切な思い出なのだよ」
「…どうにかするでござる、全てを」
「子ども達に教える立場だったのに、その子ども達を脅かしていた私に言えた義理ではないことは分かっている。だが、どうか頼む」
「吾が輩は
ギャグなのに真面目な話になってしまったでござる。どうしよ。
<ワイルド! ワイルド!
職員玄関から外に出て車に乗り込もうとしたとき、また電話が鳴った。
「ちょっと失礼。はい、加利守です。…はい、はい。一度署に戻ってから向かいます」
電話が終わりスマートフォンを再び胸ポケットに戻した加利守刑事の顔は重たく深刻な表情をしていた。
「……例の中学校に圧力を掛けていた地主と教育委員会が工事業者を連れて襲ってきているそうです」
「なぬ?!」
吾が輩達の動きが悟られたでござるか。まあテレビで生放送とかすればそりゃバレるよね。悪事が露見しない内に全てを闇に葬ってしまおうとそういうことでござるか。バカも休み休みyear!
「工事業者もグルだったんだ。我々の包囲を重機で無理矢理突破したそうだ。くそっ」
「そ、そんな……」
「こっ、校舎を実力行使で直接破壊するつもりでござるか!」
「ひどい……。こんなのってないよ、にーちゃん」
「俺はこの人を署で保護しなければならない。トイレの花子さんもどうにかしよう。あとから行くから君達は先に行け!」
「ボクもう我慢ならないよにーちゃん」
「我慢なんかいらないでござる!」
勧善懲悪! クソッタレ共は地獄の底まで叩き落としてやるでござる!
「「変身!」」
全力全開でござる、ちょっと頭冷やそうか。
「壊せ! こんなもの壊してしまえ!」
老齢のスーツを着た男が吠える。肥えて太った醜い贅肉の塊。人体実験をしていた校舎を葬りさらんと重機がキャタピラーを鳴らしながら迫っている。
「ちょっと! ここはウチが押さえてんのよ! 勝手なことは許されないわよ!」
「ふん、武蔵野のガキが親の七光りで偉そうに。貴様のやっていることはただの越権行為だ、本来の権限は我々にある! 我々が我々の管理下で何をしようと我々の勝手だろう!」
「チッ、このクソオヤジ……!」
レイミが舌打ちする。素性を隠している以上人前で変身するワケにはいかない。歯軋りをしながら見ているしかないのか。今言われたことは本当のことだ。こちらの動きが察知されたから通すべき手続きが通る前にアクションを起こしてしまったのだ。
(つっても待ってたら完璧間に合ってなかったし……、ああもうどうしよ!)
「なら、全ての越権行為が許される男なら構わんのだろう?」
「だっ、誰だ?! どこだ?! 隠れてないで出てこい!」
「上だよ、上」
「なにっ?!」
太陽の中から現れるは太陽神。燃え盛る焔に身を包みながら急降下する火球。まばゆい輝きを放つ翼を広げ、さらにその速度を増し銀色の流星へと姿を変える。
「人を人として扱わないばかりか、人の思い出も壊してしまおうなんてヤツはチンコ縦裂きの刑だ!」
振り下ろされる神剣は流れ星が大気圏突入によって発火し燃え尽きる瞬きの如く閃く。
「せぇあああああッ!」
あまりのまぶしさに目を閉じ、もう一度目を開いた時には跡形もなく散らかる、機械だった何か。
「ボクを忘れてもらっちゃあ困るねえ」
あとに続く小さな体で巨大な鎚を操る戦姫。森羅万象、万物を自然に還すその姿はまさに破壊神と呼ぶに相応しい。
「天国地獄! どちららに向くか、総ては蟹の味噌汁ってね!」
「ちょっとちょっと、それを言うなら神のみぞ知るね、蟹の味噌汁おいしいけどね」
落ちる鎚が四連打。重機を囲み身動きを奪う。
「キミ達には地獄しか与えないけどね」
隣に立つ太陽神の光を反射する鈍色の仮面。顔のほとんどを覆っているその仮面の上から溢れ出る感情は怒りに満ち満ちていた。
「ひっ、ひぃぃぃぃ」
「ばっ化け物!」
残された運転席から運転手が二人、大の大人とは思えないほど情けない声を上げながら飛び出す。
「化け物? 警察の偉い人から聞いたぜ? その昔あんた達はここで人体実験してたってな。同じ人間なのにそんなことできるあんた達の方がよっぽど化け物だぜ」
「くっ……。でっ、でたらめを言うな! どこにそんな証拠があってそんなことを!」
「証拠ねえ……」
手で顎を押さえ自らの考えに耽る。少し間を置いて答える。
「証拠はないかなぁ」
「ふはははははははは! それ見ろ! はははははははは! 証拠なんてものはないんだ! そんなものは全て消し去ったからなあ! はははははははは!」
「証人ならたくさんいるけど。はいみなさーん、出番ですよー」
「は…?」
吾輩がパンパンと手を叩くと物陰から次々と姿を見せる都市伝説達。口裂け女、マッハババア、赤い紙と青い紙、トイレの花子さん、二ノ宮金次郎像、他にも近くをうろついていた『元』生徒や『元』教師達。実は加利守さんに警察署には戻らないでそのまま周りにいそうな人達を探してもらっておいたでござる。青い紙赤い紙の国語の先生いたからなんのこたーない、簡単に集まった。
「は、ははは、は……」
「どうした? 笑えよクソ野郎」
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