第88話 それがなにか問題が?

「いやいや、そこは大艦巨砲主義でござる


「いやいや乱射する火力だって多いに越したことはねぇよ?確かにデュナメスのあの巨大なカメラはロマンだけどよ」


まさか女性と機動兵器で語れる日が来るとはおもいもしなかったでござる。今思えば緑色でスナイパーってそれですよね。


「あーそうだ。なっちゃんに話しとけって言われたんだけどさあ」


「なっちゃんて誰でござる?」


「あ、ええ?アイツの名前聞いてねーの? ばーちゃんの秘書ん中で一番偉い秘書だよ。一緒に中国行ったんだろ?アイツなっちゃんな」


意外と可愛い名前でござるなあの人。


「えーとな。『魔界』っていう、まあまさに異世界があるんだが。あっちはあっちでお怒りでなぁ」


「?」


「何百年か前まで戦国時代だった魔界を織田信長とかいうオッサンが一人で潰して、挙げ句魔王になったらしくてな。なんか本人も第六天魔王とかノリノリで名乗ったとかなんだけどよ、」


「ウチの国の人間がどうもすいません……」


「最近バックレたとよ」


ピャー


「ということでお前魔王やんない?」


「やりません」


バイトにバックレが出て穴が空いたからお前やんない?みたいなノリで言われてもやるワケないでござる。


「そういやお前、龍と会ったんだって?」


「会ったというか、操られてた国家主席のご子息側の立会人が龍さんだったでござる」


「ちっこいのいたって報告書にあったが?」


「ええ、姫様と呼ばれてた幼女がいたでござる」


「そのちっこいのはガチのお姫様だ。族長の娘だっとさ。別にジョークでも誤魔化しでもなく本物の『お姫様』。魔王不在の魔界で上からNo.2!の孫とかなんとか」


「……とんでもないお方を助けてタメ口聞いてしまったでござる」


「まあなんだ、長い人生そういうこともあるんじゃねーの?そっかー、魔王やんねーかー」


そりゃやらないでござる。魔界なんておどろおどしいヤバそうなところの王様なんて死んでもごめんでござる。


「お前さー、最初仲間になるの拒否ったらしいじゃん?なんで戦わない?ヒーローだぜ?チヤホヤされるぜ?」


「吾が輩は静かで心穏やかな何事もない平和な日々が暮らせるならそれでいいでござる」


地位や名声はいらないし、高い意識もいらないし、学歴も興味ないし、人生アガリのお金はあるし。このご時世、働かなくても済むということだけでどれだけ心が楽であることか。安全で安心できる安泰の人生。これが一番でござる。


「枯れてんなあ…。普通の就職には興味ねーの?」


「え?ないでござる」


「じゃなんで変身するんだよ?戦う理由がないじゃん」


「カッコいいから。戦う理由があろうがなかろうが、カッコよければ変身するでござる。あとはまあ、吾が輩の前に立ち塞がる人が悪いでござる。吾輩は悪くないもーん」


「ええ……、意識低い系ヒーローだな…」


ええ、意識海底系ヒーローでござる。それが何か問題が?


「それにしても異世界からの侵略……。吾が輩達はどうなっちゃうんでござる?」


「とりあえず神様からの管理から外れようって話にはなってる」


「管理から外れる?」


管理から外れる…ということはつまり今は管理されているということでござる。つまりここでこうして混浴していることも管理されているということでござる。つまり吾が輩の全裸も管理されているということでござる。


「この世界まるごと仮想世界にしちまってバックレようってな」


「バカな……そんなことが出来るはずないでござる」


「なぜそう言い切れる?」


「だってまだ地球のこともよく分からないことがあるし、宇宙にだって全然行ってないですしおすし。どう考えても科学力が足らないでござる」


人間が自分達のこともよく分からない程度の科学力、と言ったら怒られるんだろうか。しかし世の中はまだまだ謎だらけでござる。果たして人類が全てを知る時は来るのかな?


「こまけえこたあいーのいーの。このまんま滅ぼされるくらいならってそんなところから始まった話だし」


手をひらひらと振る。世界をまるごと仮想世界に変えてしまおうなんて突拍子もない、軽く語られても吾が輩にどうしろと言うでござるか。


「アタシらの世界の神はアタシらなんだ、この世界はアタシらのもんだ。もう一度ビッグバンを起こす、もう一度進化する。もう一度全ての存在が進化する世界、『Re:Evolution』。アタシらが手に入れるべき世界…。気に食わねえ神はブチ殺す。」


その語る目は本気だった。実現可能か不可能かと問うのなら誰もが不可能だと答えるだろう、途方もないこと。だが何故か確信を持っているでござる。


「…そもそも神様なんて本当にいるんだかいないんだか分からないでござる」


「神ならいるんじゃね?」


「はい?」


「実はこの間死んでたとき、神様にお前帰れよって言われて帰ってきたから」


「アイエエエエ?! エエ……???」


一体何をやらかしたんでござるかこの人?


「いやそれがさー。なんでか力が使えるからちょっと試してやろうかと適当にぶっぱなしたら、たまたま閻魔大王とかいうヒゲヅラのおっさんぶっ殺しちゃってよう。そしたら『間違って地獄に落として頭ふっとばされたらたまんないからお前帰れよ』だってさ」


閻魔大王をぶっ殺した…?地獄の三丁目まで回れ右でござる。


「……らしいとは?」

「鬼が電話してた、黒電話で」

黒電話……。あの世に電話ってあるでござるか…。っていうか鬼……。


「あー、でも吾が輩も閻魔さまに『お前の席ねーから!』って言われて帰ってきたことが…」


「え、なに?お前ゴキブリ?」


ヒドス。今まで色んな生物に例えられてきたけどいくらなんでもゴキブリはないでござる。


「ゴキブリ扱いとはなんという仕打ち……。しかしそんな神様じゃこの世界をどうこうしようなんて考えてなさそうでござる」


「アレじゃね?神にも中間管理職とかいるんじゃね?一人じゃねーんだよきっと」


「ストレスでハゲてそうでござる」


やーいお前の神様M字ハゲー。

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