第87話 ドッペルゲンガー

今日も日がな一日ゴロゴロ。こんなんじゃひなたぼっこしてるセイウチと変わらないでござる。まいどおなじみ海洋生物にまとめられてしまうのもあながち否定できない。


(思えばハードだったでござる。木曜日の夜中に撃墜作戦を初めて朝に帰り、他の先生や生徒にバレないように起きっぱなしでそのまま帰路につき日本に到着したのは土曜日。だけど時差の関係で日曜日だったような……)


旅のしおりはよく読もうねっていうことでござるな。


「で、なんでお前は人の家でゴロゴロしてるんだい?」


「お師匠さまのしっぽが恋しいので」


「そこは嘘でも女が恋しいと言うもんさね」


「もふもふで柔らかくて気持ちいいでござる……zzzz」


「だぁっ!このバカ人のしっぽにヨダレ垂らすんじゃないよ!」


「ハッ!!」


なにか聞きたいことがあったような、なかったような。最近は暖かくていい陽気。お昼寝するにはちょうどいいでござる。九尾の狐は文字通りしっぽが九本。枕にするにはうってつけでござる。


「そういえばお前さん、青くなってたけどあれなんなんだい」


「あー、中国のときの。あれは青龍たんと合体したとかなんとかで」


酔っ払ったお師匠さまから電話があったとかそんなこともありましたなあ。怪獣がテレビでやってたってことは青龍たんもテレビデビューしたかもしれないでござるな。


「神剣と融合?何したんだいお前」


「正確には神剣から透け透け痴女巫女が出てきたでござる」


「妄想が過ぎるなら病院行け、私のコネで良い精神科を紹介してもらうから」


「そのうちお師匠さまも会うことがあると思うでござる」


「人間……じゃあないね?まさか」


「ウィ。からだのところどころに青い鱗を持っていて、吾輩の体の中で吾輩の意識と代わったりするでござる。本人は神剣の巫女と名乗っておりますが神剣に巫女がいたなどという記録は調べる限り見当たりません。吾輩の目がおかしくないのならば初めての顕現ではまさに青龍の姿だったでござる」


「そんなヤツが神剣とはにわかには信じられないねぇ……。会いたいとも思わない」


ひどい言われようでござる。砂漠をプールに出来る神剣なんてそうそういないのに。まあでも初めて青龍たんを見たときは吾が輩もちょっと引いたから人のことは言えないでござるな。まさか青い龍が目の前で痴女に変身するなんて誰が想像しようものか。


「どーせお師匠さまは酔っ払ってたから何にも覚えてないだけでござる」


「二日酔いになってた。知り合いの宮司が良い酒持ってきたもんだから朝までずっと呑みっぱなしさ」


「あ、そうだ。もう一人巫女さんが出てきたでござる。そっちは普通の巫女さんでござる」


「お前さんの周りホント女が多いな」


「うっ……それはまあ置いといて、お師匠さまはなんか心当たりないでござるか?その巫女さんと合体したら今度は白背景の朱色ラインになっちゃって」


「普通の巫女さんねえ」


「吾が輩にしか姿が見えないとかなんとか言ってまして」


「幻か?」


「だからっていつもとは違う能力や鎧の色まで変わるとは」


「違う能力?」


「ほぼ死んでた人を甦らせたでござる」


「んなアホな。バカも休み休み言え」


「いやー、しかし実際生き返っちゃったでござる。夢中だったからよく覚えてはいませんが、自分の命を分け与えるような感じで」


「知らないねぇ……。じゃの道はヘビと言うし、知り合いを当たってみるさねぇってまたヨダレ垂らしてる!どさくさに紛れて人の尻を揉むなぁっ!」


「ぐへへ……柔らかくてなんとも弾力のある……ZzzzzzZ」


吾が輩は英雄ヒーローでござる。そろそろセクハラも覚えようと思う。がしかし執拗にお師匠さまのお尻を揉みしだいた結果足元に包丁が飛んできたのでその日は退散した。



翌日。今日はサロン。日本に帰ったら話す(リエッセさん談)とのことだったので、時差だった体ももういいかと思い温泉に入りに来たでござる。


「さて、なにから聞きたい?」


相変わらず流石良い乳略してさす乳……じゃなかった、良い温泉でござる。


「エンタープライズで会ったあのメタルヒーローについて」


「メタルヒーローってなんだ……? まあいいや。アイツらか、アイツらは『オリジナル』なんだ」


「そう、そこでござる。『オリジナル』とか『コピー』とか一体なんのことでござるか」


吾が輩と同じ姿をした誰か、というよりドッペルゲンガー。普通なら全く同じ人間が存在するなんてありえないのに、確かにあそこにいたのは『吾が輩』と『リエッセさん』だったでござる。


「そーだなー。これと言って証明する手段がないから話しても信じねーかもしれねーんだけどさー。このアタシ達の世界が『コピー』された世界だっつったらお前どうする?」


「コピーされた世界?吾輩達が?」


「その昔、戦争やり過ぎて神様を怒らせたんだってさ。んで神様が何回か歴史をやり直させたんだけど、どうしようもなかったから丸写しして二つに分けたんだとよ」


「ほうほう」


「でな?その丸写しした方にどうしようもない部分を突っ込んだんだってさ。それがアタシ達『コピー』だ」


うん、なるほどよく分からない!どうしようもない部分を突っ込んだって、つまりめんどくさいこと押し付けられただけでござる。


「それがこの間の隕石と何か関係が……?」


「その神様の言う『どうしようもない部分』の表れがサード・アイだったりするんだとよ。アタシらみたいに特殊な人間が生まれるのもそういうことらしい」


「つまり強くなりすぎたと?その結果手に負えないから臭いものには蓋をしたと」


「んー、そんなトコじゃねえかな。異世界とか平行世界なんてSFで聞くけど、アタシらがその『異世界人』なんだ」


なんと……。つまり吾輩達は進化し過ぎて腐敗に向かっていると?ではあのメタルヒーローが本物の吾が輩やリエッセさんだと言うでござるか……。違う言い方をすれば吾が輩達は異次元人ヤプール……。


「んで今『オリジナル』の世界から侵略を受けててな。もう一個世界があるのは気に食わないとかなんとかで。厄介なことにサード・アイはその『オリジナル』の悪いヤツらとつるんでるんだよ」


「うへえ」


なるほど。こちらの世界を滅ぼして世界を一つにしてしまおうと。同じ世界は二つといらないと。


「ちなみに生首になってたアイツらは今修理中だ。次元を越えて同じ人間が同時に存在するとどうなるか分からないから、あのメタルボディにフルダイブしてこっちに来てるんだ。が、それをこの間ぶっ壊しちゃったからな」


「じゃあ、あの『オリジナル』の二人は味方……ということでよろしいのでござる?」


ここは一番はっきりさせておきたいところ。結果的には間違いだったけど、もし敵だったら海にポイ捨てしておけばよかったということになるでござる。軍曹がゴミ袋に入れて持ってったけど……。


「というか機械の体にフルダイブってなんじゃらほい」


「VRゲームにフルダイブするってネタがあるだろ?あれの別バージョンだと。ゲームの中に入れるならハードにも入れるだろとかいうトンデモ理論で、やってることはラジコンと変わんないとかなんとか」


ラジコン式メタルヒーロー……。


「今武蔵野グループでもそれを開発中で、その内アメリカ軍が採用するってさ。戦争して人が死ぬより機械が壊れるだけなら人道的……という建前らしい」


ふーん……。ん?ちょ待てよ?


「ひょっとしてガ○ダムでも応用出来るでござる?」


「ガ○ダムって……あのテレビアニメのか? ああ、その手があったか」


「吾が輩自由な翼で」


「アタシは狙い撃つぜ!だなあ。やっぱかっけえよなあ」

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