第86話 実家に勝る安心感はない

「ようカレン、誰が人間やめてるってぇええオイコラ」


「誤射するなら具合悪いんじゃないですか?」


「あ?」


「なんですか?」


「二人ともやめなさい!今はそれどころじゃないでしょう」


先程の弾道は戦っている二人を明らかに無視していた。そりゃあ怒るのも無理ないでござるね。ヤツは巨大な一発で相当なダメージを負って一時的に停止しているようだが、まだ機動兵器は倒せていない。


「ケッ、なんだよこんなもん」


「ってござるくん、また色変わったの?」


「今ちょっと知らない人(?)と融合してまして……。たぶんそのせいだと思います」


「どうして疑問形?」


「吾輩にしか見えないとかなんとかでして……」


「こえーなオイ。そんなワケの分からないもんで甦らせるなよ」


「いやあ、まあそうなんですけど……なにぶん必死だったもので」


「まあいーや、生きてるし。なによりお前のファーストキスはアタシがもらったからな」


「「!!!!!!!」」


唐突に落とされた爆弾を目の前に驚愕を隠せないレイミさんカレンさん。徐々に二人の顔が凄まじく険しい表情に変わっていく。ああ、神様お助けくださいでござる。


「あ、ああ、いえ、あの、ええと、その……」


「なんだよ、いまさら赤くなるなよ」

ぐいっと引き寄せられて再び唇を合わせる。


「ん……」


「んんんーっ!」


空気の読めない機動兵器が動き出す。砲撃を受けて大きく破損した機動兵器はもくもくと黒煙を上げ半ばやっと動いているようだ。


「ええい、雑魚は!」


「すっこんでなさい!」

二人は焔と稲妻の翼を生やし閃光と爆炎が入り乱れる。すいませんこっちのがよっぽど危ないでござる。


「アアアアアアアッ!」


「ハアアアアアアッ!」


哀れ機動兵器。容赦ない二人の合体攻撃を受け海の藻屑となるべく沈んでいく。出番があるかと思ったらそんなことはなかったでござるね。合掌。


「ちょっと!ファーストキス奪ったってどういうことですか!」


「抜け駆けなんてズルいわよ!ノーカンよノーカン!」


「何にもズルくないぜ?しっかり抱き締め合ってしたし、アタシもファーストキスだったし」


「「「えっ?」」」

 「なんつーかその、偉そうなこと言ってるけどアタシもファーストキスだったんだよ……。ほら、こんな性格なもんだから男は全然寄ってこなくてさ……」


顔を赤くしてもじもじしながら言うリエッセさん。なにこの人可愛い。ヤンキー皇女なんて言ってごめんなさい。


「私だって!ファーストキス取っておいてあるんだから!」


「奇遇ねカレン、私もよ」


じりじりと寄ってくる焔と稲妻。


「いや、あの、二人とも落ち着いてください…。ねっ?ねっ?流石にそれはアカンんーっ!ぷはっ!んんんーっ!!!!」


「だあっはっはっはっはっ!」


一週間経ってコタツの中。ダメな人がいるのでいまだにコタツ布団が出しっぱなし。


「はあ、落ち着くでござる…」


「何気に忙しかったわよね」


「『吾が輩』はね。母上はいつもゴロゴロしてるでござる」


ゴールデンウィークの夢も醒め、再び現実との戦いに戻る人間社会。それは父上。ハワイから帰宅後、時差による体のズレを治すという言い訳でゴロゴロしているでござる。


「私も忙しかったわよ? お父さんシバくのに」


「一体何があったと…」


「あれこれ投資でお金稼いでるのってお父さんのへそくりから原資が出てたんでしょ?」


「まあ、元々は父上殿のへそくりをさらに増やすのが目的だったでござるからそりゃあ……」


「そもそもへそくりあったところから知らなかったもん!」


「ああー」


吾が輩悪くないし。


「ハワイって隕石見えた?」


「隕石ってこの間のでござるか?チラッと燃え尽きるときだけでしたら」


隕石についてのことは見事に揉み消されていた。テレビじゃどこもかしこも燃え尽きた瞬間の映像が流されているが、これは完全なる捏造。というか絶対あんな派手なの目撃者多数のはずなのにどうやって誤魔化したのか。


(太平洋上で起きたことなんかテレビはおろか新聞にもネットにも出ていないでござる。噂の一つくらい出るかと思ったけど…)


「そういえばさあ、タケちゃんって今何股?」


「ブフォ! な、なんのことたがさっぱり…」


「だってさあ、お嬢様のレイミちゃんでしょ?秘書さんでしょ?世界を股に掛ける歌姫シオンちゃんでしょ?タマちゃんでしょ? 瑠姫ちゃんでしょ?あとたまにLIMEしてる人が何人かいるわよね?」


(す、するどい…)


普段ゴロゴロしているだけのニートなのになんという観察眼。恐れ入るでござる。しかも当たっている。


「っていうかさらっと姉上と妹君を含めるのやめてください」


「じゃあお母さん?」


「いやいやいやいや」


「あらいいじゃない。私は義理のお母さん、血の繋がってない人妻なのよ?人妻属性なのよ?」


「いやいやいやいやいやいやいやいや」


何言ってんだこの人。薄い本じゃあるまいし、未成年相手によろしくないことを平気な顔で言い放つのやめてほしいでござる。


「タマちゃんみたいに喧嘩強いワケじゃないけどおっぱいの大きさならお母さんの方が大きいしー」


「もはや爆乳の域でござるね」


「やっぱり大きい方がいいんだ……」

「妹君?!」


頭の上から不意討ちを食らい焦って見上げるとパンツ!


「イチゴパンツ!」


「あら、もうこんな時間?瑠姫ちゃんおかえりー」


「お兄ちゃんのバカ!変態!痴漢!ドM!マザコン!幼児退行!」


「ちょっ、そんな言葉どこで覚えたでござるか!」


「うふ☆ミ(テヘペロ」


「母上ェ?!」


何教えてんのこの人ぉ?!

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