第42話 そんなときもある
だらけきること数時間。そろそろ夕飯の支度をしなければ……と感じたところで玄関の方から鍵を開ける音がした。顔認証アラートに引っ掛からないということは母上が帰ってきたでござる。
「ただいま」
「おかえ、りー?」
「おかえりでござ………?!」
ドサッ。驚きのあまり硬直し、手からスマートフォンが落ちる。珍しく外出した母上。さらに驚くべきことになんとばっちり化粧して髪はセットされ服装もジャケットにパンツスーツ。これではまるでエリートキャリアウーマン、普段のぐーたらなだらしない母上からは想像もつかないくらいビシッとキメて表情もキリッとしているでござる。
「お母さん、ど、どうしたの……?」
「ちょっとね。夕飯もう食べちゃった?」
「いや、まだだけど…」
「ちょっと待っててもらっていい?すぐお化粧落としてくるから」
「え、あ、はい……」
「誰…?あれ………」
冬になってからは毎日毎日こたつに入り浸り、ご飯とお風呂の時以外はこたつから出ていないんじゃないかと疑うレベル。お正月だってもちろん寝正月。父上殿、吾が輩、妹君は一緒に初詣に行ったけど、母上はずっとこたつでゴロゴロしてたでござる。
「お母さんがお化粧してるの久しぶりに見た。っていうかパジャマ以外の服着てるのも去年の11月ぶり?」
「いやホントに。というか妹君は母上が出掛けるの気が付かなかったでござるか?」
「気が付かなかった……、っていうかまだ寝てたと思う」
オイオイ。
「何時に起きたので?」
「36時だよ」
オイオイオイ。
「夜が24時だから…ってお昼に起きたの?」
「まあね」
こらこら。まあね、じゃないですの。
「朝…はもちろん食べてないとして、お昼も食べてないでござるか」
「まあね」
「じゃあ何も食べてないでござる?」
「お仏壇におまんじゅうがあった」
うんうんなるほど、過去形でござるね。
「週末のゴリラお預けケテーイ」
「いやいやお兄ちゃんそれとこれとは話が違うと思うの」
「ダメです、だらけすぎです」
「あ~、さむいさむい」
そんなこんな話している内に母上がこたつに滑り込んでくる。寒いって言うけど家の中はそんな冷えてるはずないでござる。
「お母さん早くない?」
「何が?」
「ガッツリメイクだったのにものの10分と掛からずにしかしもういつも通りでござる。しかもパジャマにまで着替えて」
まるで ダメな お母さん。略してマダオ。少しでも感心した吾が輩が間違っていたでござる。
「手を抜けるところは抜いてるやるべきところはやってるからいーよいーの。要は気合い入ってるように見えればいいのよ」
「それで今日どこ行ってたの?」
「ナ・イ・ショ(はぁと お母さんこれでも働いてるんだから。今日は会議だったのよ」
嘘だッッッッ!!! 絶ッッッッ対に嘘だッッッッ!!!!
毎日毎日ぐうたらして家事もしないで専業主婦名乗ってる残念な人が働いている?バカな!全国、いや全世界の主婦の方々に失礼極まりない!いつ起きていつ寝てるか分からない人が間違っても働いてるなんて言ってはいけないでござる!
「ところでお母さん、週末友達と映画観に行きたいからちょっとお恵みを…」
「いいわよ」
「やったー」
「ちょっ、ダメでござる母上。まだ宿題の一つも終わらせてないし、夜更かししてお昼に起きておまんじゅう食べてこれから夕飯なんていうのに」
「おまんじゅう、いくつあった?」
「えっ?」
確か吾が輩が買ってきてそのままお仏壇に置いてあったはず。四個入りのおまんじゅう。消費期限は明日だから明日のおやつにでもしようかと思っていたおまんじゅう。
「わたし一つしか食べてないよ?」
「おまんじゅう四個入りのを買ってきたんですが」
「朝食とおまんじゅうは別腹です。つまり私も人のこと言えないのよね~」
やっぱりダメな人だこの人。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます