第43話 自分の気分>プライバシー

母上のダメさ加減に呆れ、もはや専業どころか兼業と名乗ることすらおこがましいことを確認して夕飯を食べた。お風呂のスイッチを入れて溜まるのを待つ。


「じゃあお兄ちゃん車よろしくね?」


こたつに戻って食後のお茶。我が家にはお茶、アクエリアス、果物ジュースしかない。炭酸は吾輩しか飲めないからあまり置かない。


「車出すなんて言ってないでござる。それに今週末はゆっくりしたいので吾が輩はパースー」


「『だめよ。和を以て尊しとなーすー』、だっけ?」


「正解。一応無職ニート引きこもりを自称しているのでしばらくお休みということで」


「女の子に囲まれるよりこたつがいいっていうの?タケちゃんも枯れてるわねえ」


「枯れ?!」


むしろ女の子に囲まれ疲れたからこたつがいいんです、とは流石に口が裂けても言えないでござる。もしどうしてもというときは口裂け女さんにお願いしましょう。


「父上殿がいないから異性に囲まれている、という意味では今でも変わらないと思うでござーる」


「あ、そういえばお父さん帰ってくるって。ゴールデンウィークに」


「お父さん帰ってくるの? お小遣いのチャンス!」


我が家の大黒柱、父上殿は転勤族。長期連休くらいしか家に帰ってこれないお方。父上帰還と聞いたところでLIMEが鳴る。相手の名前を見てどっと疲れる。


『今ひま?』


シカトしよシカトシカト。


『ちょっと、無視しないでよ』


おまんじゅうなくなっちゃったからお仏壇にまた何か買ってこないとな~。


『もしもし、私メリーさん。今あなたのお家の前にいるの。出ないならインターフォン鳴らしまくって叫び倒すわよコラ』


ゴッ!


「おっあ!」


「ちょっ、何してんの」


「なんでもないでござる!それよりちょっと車に行ってくるでござる!」


「なに?忘れ物?」


「そんなところでござる!」



焦った。頭が真っ白になり一瞬スマートフォンのスクリーンに表示されている文字が読めなくなった。次の瞬間体が反応し、こたつに入っているにも関わらず立ち上がろうとしてしまったでござる。


「な!ん!で!吾が輩の家を知ってるでござるか!」


「それはホラ、聞くべき人に聞いたからよ」


急いで上着を着て玄関から出ると本当にシオン・アスターその人がいた。急いで車に連れて入り、暗いままで話す。わざと後部座席に座りプライベートガラスに隠れる。ねぇなんで変装してないの?ねぇなんで?


「まさか…、変装もしないで一人で来たでござるか?」


「まーね。そうじゃなきゃお忍びにならないし」


「一切忍んでない件について。一体何しに来たでござるか。正直、吾が輩の正体を知っている人に一人で出歩いて欲しくないんですが」


そう。中国政府と日本政府、武蔵野のおばあちゃん、サロンのメンバー以外に吾が輩の正体を知っている人。いや政府は感知してるかかどうか知らないけど。本当はイケメソモードでボディーガードしても良かったけど、どこかで齟齬が生じる可能性があったので仕方なく正体を明かしていたでござる。もっともこの人はこの人で全然変装しないで堂々と出歩くことで有名だし、ついでに毎回騒ぎ起こすってんでも有名な人。


「今日から一週間オフなの。いつでもどこでも呼んでいいんでしょ?なら、デートして?(はぁと」


彼女は首を傾げて可愛く言う。…なんだか嫌なお・か・ん♪絶対にデートではない、もしくはただのデートでは済まされない。他人からしてみたらリア充死ねと言われるかもしれませんが、この人に関わると何かが起こりそうな気がしてならないでござる。

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