第29話 危険とは

「じゃあ二人とも映画観てなよ。私はちょっと警察や店長とナシ着けてくるから」


バーサーカーもとい姉上は颯爽と堂々とバックヤードへ消えていった。勝手に入っていったでござる。そこお店の人しか入っちゃいけないんですけどというツッコミはもはや野暮というものでござるか。


「あの人、あなたのお姉さんだったのね。あなたは普通なのにあの人はなんなの?」


「なんなのと言われましても姉上は昔からああいう人でござる。この間は素手でナイフを粉々にして恐喝していたでござる。姉上のああいうところを知らないヨソのチンピラなんかいても逃げ出すか漏らすかのどちらかでして」


「なになに、お兄ちゃんとファントムさんって知り合いなの?」


「知り合いも何もこの間不法侵入されますた」


「えっ?」


「ちょっ」


「つい最近は一緒にお風呂入ったでござる」


「ちょっと!!!」


「ガーン!お兄ちゃんにまさかもうそこまで進んでいる女の人がいるなんて!じゃあお兄ちゃんはファントムさんの正体知ってるの?!」


「うんまあね、正体素顔知ってるどころか裸で迫られたしね」


「ちょっ、ちょっと待ちなさいこらぁ!勘違いされるからやめて!」


仮面の美少女戦士が焦る。まあ正体バラす気なんてさらさらないでござるが、これはこれでちょっと面白いかも。


「なんでこれでお兄ちゃんは童貞なのか分からないよ」


「どどどどどどど童貞じゃないでござる!」


「なぁっ?!」


くそう。人のこと面白がってる場合じゃなかったでござる。妹君の童貞暴露に顔を真っ赤にするファントムさん。仮面をしているから口や頬ぐらいしか見えないけど耳まで真っ赤でござる。つまりこれは……。


「とっ、とにかく!わわわわたしは帰るからあの人にはもう大人しくしているように言っておいて!」


プンプン怒りながら影も形もなく姿を消すファントムさん。前回トモミンって呼んだのはリエッセさんが命名のアダ名だそうだ。


「テレビに出る有名人と喋ったのはじめてかも」


「そのうちまた会えるでござる」


結局ゴリラ映画を観て帰りましたとさ。夕方のニュースを見ると姉上のことは一切報じられてないでござる。いったいどういうことなの……。当の姉上はまだ帰ってこないでござる。映画終わってからまだしばらく時間掛かるから先に帰ってろってLIME飛んできたでござる。


「ねえねえお母さん、一緒にお風呂入ったり裸で迫られる関係ってどんなん?」


「えっ? それはもうそういう仲なんじゃない? 恋人以上夫婦未満みたいな。それがどうかしたの?」


「じゃあファントムさんとお兄ちゃんそういう関係なんだ」


「ブッフォ!ちょっ、妹君?!そういうんじゃないからね?!」


お茶、発射。


「あらー、お化粧しとかなきゃ。お父さんにも一度帰ってくるように言わないと」


「母上?!」


「いつ挨拶に来るの?向こうのご両親にはもう挨拶したの?」


「いやいや、何言ってるでござるか。それにファントムさんと二人っきりってワケじゃないでござる!他にも何人かいたし!……んあっ」


「やだー、あなた何人も抱えてるの?意外とヤるわねぇ。一夫多妻制になったら将来楽しみねえ。サッカーチームくらいデキるかしら」


「お兄ちゃんの変態、フケツ、伊藤誠」


「いやこれは誤解でござる! 決してフケツでも伊藤誠でもやましいことでもないでござる!」


「何人もの女の人と一緒にお風呂入ってしかも迫られるなんておかしいじゃん!わたしも一緒に入る!」


「いやそうじゃないでしょ?!」


「じゃーお母さんもご一緒しようかなー」


「母上ぇ?!」


ああもうなんなのこの家族! アレだね、調子乗っていらないこと喋るからだね。口は災いの元でござる。

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