第24話 用意された新生活
「さーて、なににしよっかなー」
「なに買ってもらおっかなー♪」
週末のデパート。ワイワイガヤガヤと家族連れやカップルがにぎやかな中、テレビを買いに電気屋さん来ているでござる。というのも、
『そういえばよー、今度大きいテレビ欲しいんだよねー』
昨日の食事の最中に姉上が唐突に話し出した。大好きな母上特製カツを乗せたカツカレー。カツを頬張ってからガツガツと勢いよくカレーを消していく。性格といい、強さといい、言葉遣いといい、ほぼ男。生まれてくる性別間違ったのでは?なんて言った日には血を見る。姉上、ほっぺたにごはんつぶついてるでござるよ。
『でもお姉ちゃん使ってるのってそんなに小さくなかったよね?』
『姉上が大学に入ったときに買ったからまだまだ現役のはず』
『そうなんだけどさー、あの武蔵野のばーちゃんが用意してくれるっていう部屋が無駄に広くってさー、32だとこたつからじゃ小さくなりそうなんだわ。つーか全然足りねえ』
『どのくらいの広さなの? 用意してもらえるお部屋は』
『今の五倍くらいなんだよ……』
『や、家賃払えないでござるよ? 武蔵野学園都市の家賃相場はこの辺りの比較になるとかならないとかそんなレベルじゃないはず……。というかあそこじゃ高級マンションクラスの広さと豪華さでござる』
この街は落ち着いてる閑静な住宅街でコンビニ、スーパーの類いは少ない。さらに電車の駅からは離れているので全体的にマンションアパートの家賃は安くなっている。そういう関係で広い土地でもそこそこで収まるから家を建てるのはここにしたんてござる。それに対して武蔵野学園都市は日本中はおろか世界中から集められたスーパーエリート達の為にある。エリートのエリートによるエリートのための街。外部から遊びに行くだけなら【通常料金】だけど、内部はスーパーインフレかと思ってしまうほど目玉が飛び出ることになっているでござる。
『家賃ならねーってよ』
『『『え?』』』
そんなバカな。いくらなんでもそれはないでござろう。武蔵野学園都市なんてどこを選んでも一等地扱いで、とても普通の?女子大生が払える家賃ではないし、暮らしていける環境ではない。それがタダ?まさか例のパラジウムのクレジットカードを姉上にも持たせたでござるか。
『家賃払えねーし、んな生活費もねーからいいよって言ったんだけどさー。あたしのアパートに来た営業マンが家賃?無いですよ?何言ってるんですか?ってこっちがアタマおかしいみたいな不思議な顔されたんだよ。マジついていけねー。引っ越しすんのも全部やってくれるってーからアタシにはボケっと突っ立ってろとよ』
『想像よりも上だった。吾が輩はとんでもないお方を助けてしまったでござる……』
『今さらよ、だから凄い人だって言ったじゃない。むしろあんな有名な人なんで知らないの?』
『え、興味無いッス』
『ということでタケ、40インチな。43でもいいぞ?いや50でもイケるわ、いや有機ELなら小さくても55インチか』
『なじぇ吾が輩に振る?』
『お母さんから聞いたぞテメー、なんだよ株だのFXだの先物だのってワケ分かんねーもんで荒稼ぎしてんだってなあ。お前の年収いくらだよ。所得税1000万ってどこの企業の重役かオメーは』
『え、ちょっとなにそれ聞いてない。お兄ちゃんどういうこと?』
『ちょっ、母上ぇ?!喋っちゃダメでしょ?!』
『記憶にありません』
という感じだったでござる。全てを白日の下に晒された吾が輩の銀行通帳はこれからしばらく記帳したくないでござる。せっかく贈与税対策に少しずつ動かしていたのに、いったいいくら使われるか分かったもんじゃない……。
「ところでなんでテレビだけ欲しいの?」
「ほかはチェックリスト渡されてな、全部用意してくれるんだとさ」
「スケールが違いすぎるよ…」
「おーし、じゃあこれ二つだな」
「ウェ?!二つ?!」
「リビング用と寝室用だ」
「姉上、いまさらだけど間取りは?」
「1LDKに決まってた。ベッドからリビングのテレビまで遠くてテレビ見たいだけにそんなに歩きたくねえ。今の1Kなら布団とこたつを合体させて寝たままテレビ見れるのに」
「なんというVIP扱い。いや、あそこならそれでもまだまだの可能性が微レ存……」
「わたしも大きいテレビ欲しいなー。40インチでいいから」
「はーい…」
「あと録画用のHDD1TBも三つな」
「はーい……」
「あ、五年保証も入れとけよ」
「はーい………」
「ああ、配送と設置のサービスもな」
「はーい…………」
結局妹君のテレビまで買い換えることになり、一般家庭としてはテレビとテレビ台、HDDがそれぞれ二つにしてはドン引きな金額がレシートに印刷された。吾が輩、初めて例のクレジットカードを使ったでござる、銀行口座がヤバイことにならないように。後ろから突き刺さる二人の視線に耐えながら店員さんには『この歳でこんなカード何だコイツ……』とビビられながら。改めて身の丈に合った生活をしようと決意。
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