第25話 全ては机上の空論

結局あのあとさらに姉上にはPS4proとヘッドホンとHDMIケーブルをねだられたでござる。どうやら他の人達に先んじて就職先が決まったから自分だけ暇なようだ。遊ぶ気マンマンだこの人。待て待て姉上は教育実習生のはず。実習どうなったし。んん?武蔵野学園都市に就職なら会長のおばあちゃんが一声掛ければそれで全てが免除されるでござる。


「他の奴らはまだまだこれからだけどあたしは堂々と遊んでられるわwww」


「ダメよタマちゃん、ああいう風になるわよ」


母上、吾が輩を指差して言うのはやめてください。


「失礼な。ああいう風とはどういうことでござるか」


「丸々太ったクマ」


「解せぬ。母上よりも動いている吾が輩はどうして?」


「というかお母さんの方が無職ニートだよね」


「ガーン!」


晩御飯も終わってお風呂が溜まるまでの間、お茶を飲んで食後を落ち着く一時間。母上、ガーンも何もその通りでしょう。冬の間、もはや冬眠している熊と同じくらいこたつから出てこないでござる。しかもあんまり家事やらないし。


「でなー、この間もらったカタログがこれ

なんだ」


「なぜかタイトルがあって金の箔押し加工に厚紙フルカラー30ページ……。無駄に豪華でござる」


「これはもうちょっとした写真集だね」


「えー、どれどれ?あっ、床暖房だって。いいなーいつでもゴロゴロできるじゃーん」


一番最初に目に着くところがそこですか母上…。


「3LDKでオール電化。リビングは20畳、和室が14畳、洗面所と風呂がそれぞれ10畳。他の2部屋は8畳ずつ。フルオートエアコンに床暖房。風呂は乾燥機付きでさらに全自動。対面式IHキッチンにビルドイン食洗機。オートロックに24時間セキュリティ。駐車場は二台まで無料。インターネットはテラビットLAN。コンシェルジュがいるから色んな手配もやってもらえる」


「テラビットLANとかどこの研究施設でござるか」


「あっ、すごーい。洗面所の棚が鏡張りになってる。これ洗面台は天然大理石?ねえお兄ちゃん、大理石に天然とか人工とかあるの?」


「長さ3mのバスタブに高さは50cm、幅1m。足伸ばせていいわねえ。ウチのお風呂もこれにリフォームしましょっかー、ね?ね?ね?」


いやいやいやいや母上、そんなチラチラ見てきてもダメでござる。こんなんにリフォームとかいくら掛かるか分かったもんじゃないでござる。


「床のフローリングは天然だってさ」


「姉上、これでは他の家電や家具も合わせないとよろしくないのでは? これならベッドも買わなければならんでござる」


「もうあるだって」


「…まさか、他の家電とか家具もベッドも?」


「これでも食い下がったんだ。最初は全てお任せください(ニッコリって営業マンにすんげー爽やかな笑顔で言われてな。手続きだって住所変更から電気ガス水道の契約もやってくれるって。引っ越し業者は?って聞いたら専門の部署があるからお任せください(ニッコリだってさ。鍵だけもらえばそれでいいってなんなんだよ、もう」


「いーなーお姉ちゃん。わたしも同じの欲しい」


「妹君、冗談にならないからマジでやめて」


「これで家賃払ってくれるんだっけ? タマちゃんばっかずるーい」


やめて、マジでやめて。間違っておばあちゃんの耳に入ろうものなら現実になってしまうでござる。そもそもなんであんなとんでもない御仁が同じ地元に住んでてデパートに一人で出掛けるでござるか。やろうと思えば、いや黙っててもデパートへ着いた瞬間一日貸し切りになるはず。SPだっていなきゃ嘘でござる。そのくらいのヤバイ人物だとググって分かったでござる。そしてそんな御方に変なこと言っちゃダメ。


「正直今詐欺にあってる気分だよ。こんなにトントン拍子で気味が悪くてしょうがない。何かのまちがいなんじゃねーのか?夢でも見てんのか?寝ぼけてんのか?……おい、ちょっとつねってみ?」


「ウィ」


「ってーなボケ!!!」


きゅっ


ゴッ!!!


「理不尽ッッッ」


「お姉ちゃん泊まりに行ってもいい?」


「おういつでもいいぞー。こんなの一人暮らしにはもて余すわ」


もうすぐ春の引っ越しシーズン到来。こんなにウマ過ぎるバカな話があってたまるかと思うけど、実際起こってるだけに未だに半信半疑。現実に意識がついてこない。何か裏があるんじゃないかと疑ってしまう。


「あとこれ車の見積もりな?キャッシュで組んであるから。やっぱそれなりのところに住むならそれなりの車に乗らなきゃなー」


「ウェ?!」


おおい姉上?!なに、レクサスRXHV65 0万って?!吾が輩は英雄ヒーローでござる。老後の貯金はまだない。もしかして吾輩、抱き込まれているのでは……。

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