第23話 天性のカン

吾輩の人生の終末、もとい週末を告げる姉上氏の帰宅。姉上によって雑に放り投げられた上着をたたみ荷物を和室に置いて戻ってくる。


「トドでもセイウチでもいいから片付けろよ」


「ずっと頑張ってるけどこれでもまだ半分も達していないでござる。ついでにトドでもセイウチでもありません」


「じゃあ家畜な」


「家畜ぶひー?!」


もはや人間ですらない?いやセイウチの時点で人間ではない。なんなのでしょう、この扱いの酷さ。常日頃から家計に貢献し、家事を手伝い、家族の送迎もして、絡まれたお年寄りがいれば割って入りともはや無職ヒキニートと名乗れないアクティブニートでござる。


「うおっ、なんだこれ?剣か?またこんなくっだらないオタクグッズ買いやがって。こんなもん堂々とリビングに飾るなよ」


取り敢えず空いている壁際に鎮座する謎の剣。台座の組み立てはテレビ台の組み立て設置と変わらない簡単なお仕事でした。しかし一般家庭に真剣とはまた随分異彩を放つといいますかいやに存在を主張するといいますか。


「オタクグッズではないでござる。この紙の山もその剣も武蔵野のおばあちゃんからでござる」


「ふーん…………」


本当は違うけど、それはまあ物は言いようといいますか言葉のあやとでもいいますか。まさかこの間の国会議事堂の件でうんたんうんたん♪じゃなくてうんぬんかんぬんとは言えないですしおすし。


「で、おばあちゃんを誰がカツアゲしたって?ええ?」


「……、いやぶっちゃけあんなのお年寄りの目の前で見せたら脅迫したも同然でうぎゃあああっはあああああたまが割れるぅぅぅ!!!」


姉上のこうげき!

アイアンクロー!

こうかはばつぐんだ!


「お姉ちゃん何したの?」


「なんもしてないよ。ただヤシガニ組んとこのバカがなんかやってるから、出したナイフ砕いてみせただけだよ」


「なーんだ」


え?そんなリアクション?そんなリアクションでいいの妹君?まるでいつものことじゃんみたいなリアクションではないですか。いや確かに昔からそうだったけど。


「さて、解放してやるから晩飯作れ。腹減ったー」


「ハァ、ハァ、ハァ……。それは吾が輩ではなく母上に言って欲しいでござっア"ー! イッタイメガァー!」


「今日はなにがいいかなー。カツカレーがいいなー」


ギリギリギリギリ!


「やっぱりお肉買っといて正解ですた。昼間の内に仕込んであるでござる。本当は鍋にしようかと思ってたけど吾輩のニュータイプとしてのカンが」


ゴッ!


「凄まじい姉上のプレッシャーを感じてまるで嵐の中にいるようでござる今すぐ準備しますごめんなさい」


アイアンクローからのゲンコツは確殺のコンボ。姉上の好きなものはカツカレー。それもスーパーのお惣菜コーナーにある出来合いのものではなく、家で作ったカツのカレー。


「多い時は三回もおかわりされるでござる。どこにそんな入るのやら」


「どこもなにも腹ん中に決まってんだろ」


フクザツな家庭事情により、吾が輩と妹君は母上と血が繋がっていないでござる。母上と姉上は繋がってるでござる。つまり吾が輩と妹君は姉上とも血が繋がっていないということになる。何が言いたいかというと体質がまるで違うでござる。母上と姉上は太らずに全て胸にいく。


「羨ましいなー。私は食べ過ぎたら普通に太るのに」


「鍛え方が違うんだよ。どっかの誰かさんと違って」


「どどどどっかの誰かさんじゃねーし!」


ちらりとこっちを見るので否定する、全力で。ちなみに我が家のカツは母上特製でござる。なぜか母上の方が上手く作れるでござる。吾が輩とてそんな下手ではないのだが、絶対に越えられない壁がそこにあるのだ。

書類の山は一度段ボールに戻し、また後で戦うとしよう。なんで自分の部屋でやらないかって?そこにこたつがあるからさ。いや吾輩の部屋にもあるけどね。

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