第19話 裸
「で、いつから行けと?」
「あら、行くの?」
もうヤケクソでござる。この際地球の裏側でもなんでも行ってやろうじゃないですか。
「なら今からね」
「行けるワケないでしょ」
なに言ってんだこの黒髪仮面ツインテール。
「はあ…、今行くって言ったじゃない」
「今からは突然もいいとこでしょう。溜め息するのやめてもらえませんかね、吾が輩が悪いみたいな空気になるでござる」
「善は急げよ? 大丈夫、現地までは所属不明機で送ってもらって飛び降りるだけだから」
「ぜんっぜん大丈夫に聞こえない件について。それ帰ってこれないでござる」
「あなた飛べるんしょ? 自分で帰ってくればいいじゃない」
「いやいやいやいやいや帰り道分からないし……」
「おいっすー」
「いらっしゃーい」
突然ノックされることなくドアが開き、部屋に誰か入ってきた。緑色の仮面…、ロイヤルセブンの狙撃手兼銃火器的火力担当の人でござる。まーた仮面が増えたでござる。
「あたしの出番だって? お、コイツか? 例の新人ってのは」
「ええ、そうです。今回は彼のサポートをお願いします。死にそうになったら助けてあげてください」
「すいません今物騒なこと聞こえたでござる。何死にそうになったらって」
緑色の戦姫。その名を
狙えば外さず、バラ撒けば残る薬莢と死体の山。『的』とみなせば百発百中、銃火器のプロでござる。あまりのハッピートリガーっぷりから火線が流星群に見えると恐れられている。
「よう小僧。アタシのことは知ってるよな?」
「ええ、もちろん。立てこもりやジャック事件があれば大抵呼ばれるのはあなたでござる。茶髪のOL姿に仮面はどうかと思うけど」
「身内でも積極的に顔は出さないってルールなんでね。仕事早上がりしてそのままなんだよ」
「解せぬ。吾が輩だけ顔も名前も知られているでござる」
解せぬついでにもう一つ解せぬでござる。噂が本当ならロイヤルセブンのメンバーは全員貴族かそれくらいの身分の人達のはず。なんでOLしてるでござるか。
「まー、アタシら戦姫始まって以来の初の男だからね。みんなの知りたがるさ。アタシらのこともそのうち機会がある時にな。じゃあ役者も揃ったことだし、ひとっ風呂浴びたら行こうぜ」
「家族には適当に話しておくから、あなたもお風呂入ってきなさい。帰ってくるまで入れないんだから」
「ハーイ…」
裏切りのお師匠さまから家族まで、きっちり外堀まで埋められるんじゃ行くしかないでござる…。
かぽーん
「ああ、めんどくせ。仮面取っちゃお」
「駄目ですよー」
「私は顔も名前も出してますから問題無いですね」
「カレンちゃんはしょうがないよね」
「仮面だと顔洗えないでござるな。ん? カレンさん今なんて?」
「そうだよなあ、蒸れるし。顔出さないルールとかやめちまえばいいのに」
…………………。
「 な ん で い る ? 」
「あぁ? なんでもなにもここ混浴だろ? 裸の付き合いってな。ナハハハハ!」
えー、説明しましょう。 お風呂は一つしかなかったでござる!そしてさっき部屋にいた全員入ってるでござる!つまり全員全裸です。一糸まとわぬ生まれたままの姿です。吾が輩も全裸ですが、女性陣も全裸です。
「あの、すいません、目のやり場に困るので皆さんタオルをば」
「ここ、天然温泉だから駄目です」
「天然?!」
「この住宅街を作るときにこのサロンも建てる予定だったたんだけど、たまたま温泉が出たからここになったんだって。おばあちゃんが言ってたわー。イイお風呂でしょ? 広くて全面檜張り」
「一万歩譲ってシューティングスターさんは一緒に行くからまだ分かるとして、なんで他の三人もいるでござるか」
「「「入りたいから」」」
もうやだこの人達…。誰かどうにかして…。
「はあ、あっつ」
シューティングスターさんがとうとう仮面を消して素顔になってしまった。しまった……しまった………しまった…………。
「あの、すいません、人違いなら申し訳ないんですが、バルト海にある小さな皇国の皇女様でしょうか?」
「おお? お前アタシのこと知ってんのか?」
吾が輩、とんでもない人と真っ裸で風呂に入ってるでござる…。え?なんで皇女様が日本でOLなんかやってんの?というか日本語上手すぎない?
「よく知ってんなー。豆粒みたいな国なのに」
「いやむしろ合点がいったでござる。あそこが小国ながら幾度とない侵略戦争を圧倒的に勝ち続けた歴史の背後には、少数精鋭の異能力者がいたという話でござる。まさか皇女様とは」
「知ってるねぇ。オタクかお前?つってもアタシは兄弟姉妹でいっちゃん下だからなー。皇位継承権もないし、自由にやってるよ」
「なぜ日本に?」
「便利な国だから」
即答でござる。まさかそれだけために日本語を覚えたのかこのお方。馴染みすぎでしょ。おまけに皇女様とは思えないほどのガサツさ。テレビでチラッと見たときはこんな人には見えなかったでござる。
「瞳の色、綺麗な緑色でござる。仮面や鎧の色が緑なのはこれだからですかね」
「お前今人のこと単純バカって思ってんだろ」
「思ってないでござる。ただシューティングスターさんは性格が姉上そっくりだなーって」
「本名でいいよ、リエッセで。」
「駄目ですよ」
ファントムさんが止めに入る。一応ルールはルール。自分からはバラさない、ということになっているのだろう。
「お前も取っちゃえよ。風呂に仮面なんておかしいだろ?」
ファントムさんは今日、ツインテールでござった。黒髪の美しいツインテール。色白の首筋からうなじが見えてちょっとウホッいいうなじ…ってなったのは秘密。それを巻き上げているので今はなおさら。さらに今は皆して裸でござる…。
「あ、やば、鼻血が」
「ぶははははは! このスケベ小僧が! 刺激が強かったか? ほれほれ~、見ても触ってもいいんだぞ~?」
「おうふ。おお…柔らかい……、戦場行く前に失血死しそうでござる…」
「ちょっといくらなんでもヤりすぎですよ! ほら隠して!」
「HEY! 隙アリ!」
「きゃあ!」
「「「あっ」」」
吾輩を胸に押しつけたままくねくねと全裸をよじらせ悪ふざけする皇女様。それをお湯船に突っ込もうとしたファントムさんは見事仮面を剥ぎ取られてしまいました。
「見ないでっ!」
「裸は見られてもいいのに素顔は見られたくないとはこれいかに、でござる」
「立ったまま顔だけ隠してるって変だよな。普通ならもっと隠すべきところがあるだろうに」
「隠してるから恥ずかしいと思うの」
「そこはほら、朋美ちゃんもお年頃ですから」
え?
「レイミさん! 名前バラさないでください!」
「あーあ」
「あ、ごめー」
「『ん』をつけなよー」
「ああん、ごめー」
「いや違うでしょwww 喘いでどうするのwww」
おー、ん? あれ?
「…皆さんがロイヤルセブンって呼ばれてるのはご存じで?」
「ああ? ああ、そんなん言われてたっけな」
「その由来が恐らくロイヤリティと呼べる貴族やそういう人達って思われてるからですよね。あくまでもこれは噂というか都市伝説みたいなものでござるが」
「うんうん、当たってる」
「ファントムさんもとい朋美さんは日本人ですよね?」
「そうそう、そんな感じ」
「日本のそういう一族で朋美さんって一人しかいないんですけど…」
「ああもうむちゃくちゃよ! ええそうよ! 私は古代日本からの巫女の一族の天乃宮朋美よ! なんか文句ある?!」
朋美さんはヤケクソになり、素顔を晒して迫ってきた。素っ裸の丸出しで。
「あるのは眼前に広がる楽園だけです(キリッ」
「この変態ッ!」
「失楽園ッ!」
カコーン!
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