第18話 こちらから攻めることもある

「レイミさん、腕上げた?」


「なにそのタモリさんの髪切った?みたいなの」


サロンに呼び出されて二階に案内されると、声に聞き覚えのある人が足つぼマッサージを受けていた。え? あれ? なんでここにいるでござるか?


「いらっしゃい、隣にどうぞ?」


「…えっ、ああ、ハイ」


見知った声の、いやしかし、仮面はいつものものとは違うし鎧姿でもない。それにしても私服に仮面、黒髪ツインテとはなんというミスマッチ。突っ立ったまま呆然とした吾が輩は隣の椅子を薦められる。そこにもオイルが用意されていたでござる。警戒しながらも座る。


「状況が飲み込めないのね、戦野武将くん?」


「!」


仮面の女性はやはりファントム。テレビで見るのと実際に見るのは違うとはよく言ったもの。素のままで来ているにも関わらず吾が輩を知っている…。やはり、正体をどこかで掴まれていたでござる。


「なんで私がここにいるのか分からないって顔ね。私もここの『お客さん』だからよ」


「レイミさん?」


「ウチに来る『普通ではない人たち』って、ロイヤルセブンのスポンサーなの。もちろんロイヤルセブンもお客さんよ」


「じゃあ俺の正体を知っててここに招待したんですか?」


「ま、そういうことになるわね。最初に聞いたときはびっくりしたけど」


「正体だけに招待……、ふふっ」


なにわろてんねんハゲ。知ってんだぞ、ロイヤルセブンで一番壁だって。


「ならファントムさんはレイミさんから聞いていたと?」


「個人情報についてだけはね。本人を追っかけることは出来てもちゃんとした住所や電話番号は分からないし、まさか変身したら別人になるなんて想像もしてなかったわ」


「おばあちゃんの勘はまだまだ現役ね」


おばあちゃんはまさか初めて会ったときから吾が輩に目を付けたでござるか? とんでもない人……。だが武蔵野グループが一枚噛んでるなら全てバレていても不思議ではない。


「このことは家族にはどうか内密に…」


「大丈夫よ。喋るつもりもないし、私達やスポンサーはあなたを保護するためにいるから。本人が望むならそうするわ」


「ありがとうございます」


安心したでござる。まさか家族に知られたくはないし、巻き込むことなんて出来ないでござる。


「失礼しまーす」


「ああ、来たわね。カレンは少年をお願い」


「はーい」


「じゃ、本題に入りましょうか」


「えっ? 本題?」


なんのことでござるか? 今日はおばあちゃんが言うからここに呼ばれただけではないでござるか?なんだか嫌なオカン………悪寒だけにオカン…………。


「核ミサイルのニュース見た? 私が話した仕事の」


「え? ええ、まあ」


「どう思った?」


「胡散臭いかなーと思いました。某国のセキュリティは甘いはずないのに簡単に盗まれている。そしてそれをニュースにするという行為。某国らしくありませんね、あっさりし過ぎている」


「そうね。武蔵野の専門部署に調査を頼んでも核心までは掴めなかったわ」


「罠、かどうかは分かりませんが我々はおびき出された…ということでござるか。予定調和というか、言い方は悪いけど茶番じみてるように感じます」


「お兄さん考えるの早いね」


「いやあそれほどでは足の裏に激痛がぁたたたた!」


女の子の手で揉まれるのは気持ちいい、ただし足裏の真ん中を思い切りぐいっとやられたら別。解せぬ。謙遜、というほどではないがこの流れはそれほどでも~のはず。なに? 吾が輩なにか気に障ることでも言った?!


「と、いうことであなたの保護を先にしたの。本当はネタバレするのもっと先の話だったんだけど。でね? やっぱり釣られて欲しいの」


「な、何に?」


「それはもう言わなくても分かるわよねえ?」


「………! いやいやいやいやいやいや。えっ? いやいやいやいや」


「「「……………。」」」


「えっ、mjd?」


うっ、嘘だっ! だってだって、中東って。ここから中東までどのくらいの距離があると思ってるでござるか! そもそも盗み出されたのは北半球でも寒い地域。この時期の夜中なんて-50℃とか平気な国。そこまで返しに行けって言うでござるか?!


「ニュースの通り、核ミサイルは既に中東のどこかに運び出されたわ。概ねの検討はあるけど正確には分からないから。大丈夫、小型化されているから脇に抱えて某国の領地に入ったら放り投げてくればいいのよ」


「脇に核ミサイル抱えるなんてとんでもない! というか吾輩には関係ないと言ったはず! 絶対に行きませんでござる! だいたい、吾輩の能力と個人情報はまだ直結しないレベルのはず。いくら調べがついてるにしても何故吾輩だと決めつ」


「向こうの部屋見える?」


「はい?」


少し後ろの窓から向こうの部屋を見る。見覚えのある『妖怪』が気持ち良さそうにベッドで全裸になってマッサージを受けている。


「……………、ちょっと、あの、むっちゃ見覚えあるのがいるでござる………」


「あなたを尾行したらある林の中で消えたから後日改めて訪ねたの。そしたら全部喋ってくれたわー。まさか九尾の狐に会えるなんてねー、ござるくーん」


「ぬあああああああああ!謀ったな!謀ったなシャア!チィィィキショオオオオあんの女狐があああああ!」


お師匠さま、オイルマッサージは気持ちいいでござるか? そうですよね、吾が輩もぐっすり寝るほど気持ち良かったでござる。


「ちゃんとサポートは付けるわよ。まさか新人に一人で突っ込めなんて言わないから。実際にミサイルを取り返せなくてもあそこの武装組織を潰せられたらそれでいいのよ。ということで、ね?」


「ね? とか可愛く言っても駄目でござる! せめて仮面外してから言って!」


「駄目です(キリッ  断られた仕返しwww」


「ちょっと動かないください、フンッ!」


「ほああああああッッッ!」


どうしてこうなった!どうしてこうなった!

犯人はお師匠さま。自分で他人には喋るなって言った本人が全部喋るとは。

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