第14話 手のひらの上

「私と結婚してくれない?」


何言ってんだコイツ早くなんとかしないと…。じゃなくて!


「あの、申し訳ないんですがあなたの言ってることがよく分かりませんでござる」


どこの世界に初対面の人間相手と結婚する人がいるのか。ましてや美人な女性からそれを言うとはなんなんでござるか。もしや美人局?!


「ま、立ち話もなんだしサロンでゆっくり話しましょ。ほら乗せて乗せてー」


「はあ…」


無事? 異界入りを果たしサロンへ向かう。レイミさんを助手席に乗せて、彼女の案内で到着してみるとサロンは西洋建築で建てられたどこぞの迎賓館を思わせる大きな建物だった。敷地も広く駐車スペースは大きい車がゆうに10台は駐車できるかというほどだ。


(解せぬ、会長のおばあちゃんはなぜ吾が輩をここに招待したのか。霊感やらなんやらが他の人と違うだけならそんなのは世の中たくさんいるでござる。まさか、正体がバレているでござる?)


サロンに入ると正面に受付があり、一人の女性が座っていた。


「おかえりなさい店長。おばあちゃんが言っていたのはそこのお兄さん?」


「そうよ。おばあちゃんの言う通り、一発で全部バレたわ」


「うっそー」


「ホントよホント。車止めて何をするかと思ったら灯籠覗いてんだもん、びっくりしちゃったわ」


受付のお姉さん。長いブラウンの髪を後ろでまとめている。…この人も恐らく日本人、というか東洋人種ではないでござる。染髪には見えないし、瞳は灰色。


「お兄さんホントにすごいんだー、へぇー。私なんて灯籠も見えなかったのにー」


「それはどういう?」


「あの街灯と灯籠、アレの【陣】自体も見えないようにしてるの。多少の感が強いくらいじゃ分からないわ」


なるほど。話の流れからしてみるとこの受付のお姉さんも試されていたということでござるな。


「自己紹介遅れたね。私はリーシャ・エリシオン。よろしくね」


「こちらこそよろしく」


「じゃあカード預かっていい? 希望するなら貴重品も預かることになってるよ」


「ではカード、お財布、車の鍵とスマホをお願いするでござる」


財布からパラジウム会員カードを出し、一緒に諸々を渡す。


「はい、確かに。じゃー楽しんで行ってらっしゃい」


「一名さまごあんなーい♪」


「はーい」


レイミさんに案内されてさらに奥へ入る。リーシャさんが手を振って見送ってくれる。未だこのサロンについては何の説明も受けていないが、ノリで返しておくでござる。何が楽しんでなのだろう。


「今日はキミ一人だけだから部屋を全部案内見せてあげる。って言ってもここに来る人はお客さんで、私達が案内するから本当に見て回るだけなんだけどね」


「その前にここはなんのお店なんですか?」


「お店っていうとちょっと違うんだけど、一言で言うならマッサージサロンね。色んな国のえらーい人達とかスポンサーとか、あとは特におばあちゃんの目に止まる特別な人だけが直接カードを手渡されて招待されるの。ここはそんな人達の秘密の隠れ家ね」


マッサージサロン。吾が輩には縁がないかと思っていたがまさかこんな凄いところに招待されるとは。だって吾が輩デブだし、ニートだし、ゴロゴロしてること多いし、特に疲れることもないでござる。普通のマッサージ店にすら縁がない。


「種類としてはおよそ人体に関わる全てをやってるわ。揉みほぐし・指圧・ストレッチ・足つぼ・オイルとかが中心で、あとはリクエストあればそれもやってるし。あと脱毛なんかもやってるわ」


「ほうほうなんでもござれですね」


「相手が相手だからねー。でもここ、やってるの6人しかいないんだよねー」


「こんなに広いんじゃ掃除も大変でしょう」


「そーなのよねー。あんまり広いのも困りものよー」


ゆっくり話をしながらたくさんの部屋を回る。最後に比較的小さな部屋に通された。あくまでも比較的、でござる。吾が輩の部屋よりまだ広い。


「さて、お茶にしますかー。歩きっぱなしの喋りっぱなしは疲れるでしょう?」


「いえ、こういうところは初めてなので疲れるどころかまったくついていけてませんでござる」


「あはは、それもそうか。座ってて、今淹れるから」


「はい」


あ、どっこいしょでござる。正直言うとめっちゃ疲れてました。デブに歩きっぱなしはキツいです。と、レイミさんが棚を開けたところで部屋の扉がノックされた。扉が開くと深紅の髪の女性が入ってきた。台車を押している。


「リーシャに店長が帰ってきてるって聞いたんで。話をしてるならここかなって、お茶とお菓子持ってきました」


「あらーカレン、グッドタイミング」


「!…… お兄さん、凄いオーラ」


「ウェ?」


「この子はここで一番カンが強いの。少年ほどじゃないけどね」


深紅の髪の女性が吾が輩を見つめる。吾が輩の顔になんかあるでござるか。それにしても真っ赤な髪でござる。ん…?


「その瞳の色、その髪の色。【緋色ルージュ】の方でござるか?」


フランスの名門貴族、緋色ルージュ。普通の赤髪の人とは違い、特徴的な深紅の髪に深紅の瞳という本当に真っ赤な血族でござる。その血族の人は先天的に他の人類とはDNAが違うとかなんとか。


「ええ、まあそうですね」


「ちょっとカレン」


「ああ、はい。カレン・シルバラード・ルージュです」


「い、戦野武将です…」


なんだろう、ゴキゲン斜め?? そっけないというか愛想がないというか。ちょっと恐い感じ。


「じゃあ、何かあったら呼んでください」


「うん、ありがとね~」


カレンさんはレイミさんやリーシャさんとは反対のタイプのお方でござる。静かと重さがあるでござる。


「…ごめんね、あの子ちょっと人見知りするところがあって」


「いえ、謝ることじゃないですよ。あの家系の話は聞いたことがありますから、苦労してるでござる」


テーブルに紅茶とビスケットが並ぶ。…淹れ

てもらっといてこう言うのは良くないでござるが、ぶっちゃけ紅茶は苦手です。


「ま、一通りは説明したから質問あったらいつでも聞いて」


「はい」


「さってとー、本題なんだけど。私と結婚するわよね? そしたらこの紙に名前を…」


「いや本題じゃないから。あの、吾輩まだ18ですしおすし、結婚なんて」


何故かあとは吾が輩が書くだけの状態になっている婚姻届が出てきたでござる。どっから出した。


「えー? ダメ? 参ったなあ…」


「といいいますか、お世辞にも吾輩はカッコいいとは言えない人間でござる。顔も中身も大したことないし、こんな太ってますし吾輩を選ぶ理由がありませんだみつお」


「いやーそれは困っちゃうなー。いやね、実

を言うとここ最近おばあちゃんにお見合いさせられてるの。もー何人もやらされてウンザリだから誰がいないかなーって」


「おばあちゃんはなんと?」


「もういい歳なんだから結婚して子ども産めって」


「早くひ孫の顔もみたいんでしょうなあ」


「だからさ少年、私と子作りしない?」


「なんという直球ストレート」


「つまりセッ「言わせないでござる!!!」なんでよもう!!!!」


何言ってんだこの人、早くなんとかしないと。いやもう手遅れでござる。

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