第11話 正体
武蔵野グローバルコーポレーションって言ったらこの世界で指折りの超世界的企業でござる! 大卒の就職でも最も狭き門と言われるあの武蔵野グローバルコーポレーション?!
「あわわノワノ」
「あなた一体どんな失礼をしたの? 助けたとか実は嘘なんじゃないの? 脅迫したの間違いじゃない?」
「吾が輩短い人生だったけど最期は幸せな人生だったでござる、ってそんなワケあるかーい」
「ちょっとタマちゃんに確かめるわ」
言うが早いか、いきなりスマートフォンを取り出し電話を掛け始める。どっから出てきた? タマちゃんとは姉上ことでござる。あの凶悪な猛獣も母上にかかれば家猫でござる。
「もしもしー? あたしあたしー」
『ああ、お母さん。なに?』
「今ござるくんから聞いたんだけど、武蔵野グローバルコーポレーションの会長脅迫したってマジ?」
『は?』
「ちちちょっとちょっと、母上! 吾が輩そんなん言ってないでござる!」
「お姉ちゃんが果物ナイフ取り出して、砕いて見せて脅したって」
『なんとなく分かった。…そこにござるいる?』
「いるわよ? 変わる?」
はい、と手渡されたスマートフォンを震える手で受け取り変わる。母上はリビングの電気を点ける。
『テメーの頭蓋骨スイカ割りしてやっから次会ったときは覚えとけよクソガキ』
「それでも我輩は言ってない」
今まさに、我輩の人生が天国の扉を叩いた瞬間でござる。というか弟にクソガキってオイオイ。取り敢えず冤罪ということだけは主張して、スマートフォンを母上に返す。母上はもう一言二言話して電話を切った。
「週末帰ってくるから首洗って待ってろだって。助けたって話は本当なのね」
「終末(土に)還してやるから(斬り落とした自分の)首洗って待ってろですね、了解でござる。HDDとNASは物理破壊しておくでござる」
とはいえ、まさかご近所にそんな凄いお方が住んでいるとは初耳でござる。
「母上、なんで教えてくれなかったでござるか?」
「いやあ、教えるほどでもないかと思ったしまさか縁があるとはねえ。そういえば生まれがここじゃないから知らなかったか。このおばあちゃんここが地元よ」
なんということよ。武蔵野グローバルコーポレーションって言ったら知らない人はいないって断言できるなんでも手広くやってる、何でも屋みたいな世界中に支店を持つ多国籍企業でござる。
「いやいや母上。武蔵野グローバルコーポレーションといったらこの街の隣にある学園都市まるごと運営してるとかいうアホみたいな企業でござる。世界でも指折りの巨大な企業の中でトップに立っている企業のそのトップがすぐそばに住んでるなんてそんなバナーナ」
「敷地広かったでしょ? この街の外れにあるあの山はこの人の持ち物なのよ」
「…あの山ってめがっさ大きいでござる」
山なんてものの地価はそれほどでもない(はず)でござるが、いくらなんぼなんでも山とか山麓とかを丸ごと家なんて流石桁違いでござる。富豪とか富豪じゃないとかそんなレベルじゃない、もっと恐ろしいものを(以下略。我が家もそうとうに良い暮らしをしているはずなのに霞んで見えなくなってるでござる。いやでも確かにこの間連れてかれたときのあの広さは尋常ではなかった。
「ただいまー」
「お帰りでござるー」
「おかえりー。じゃあ夕飯にしましょっかー」
しましょっかーはいいけどあなた食べる専門ですよね。妹君が学校から帰ってきたでござる。もう6時でござるか。遮光カーテンを閉め、湯飲みや急須を片付けたて夕飯の支度を始める。その後、妹君にもきっちり弄られ笑われましたとさ。夜、机からあるカードを取り出す。パラジウム製というこのカード。表面中央に8枚の翼を背負った十字架のエンブレム。確か今のパラジウムの平均は2750円/gくらいだったはず。高くても3000円/gがいいところ。体重計に乗せてみると約29グラム。ということは29(g)×3000(円)と仮定して、8万7000円? このカード一枚でなんと8万円以上するでござる。
『そのカードは私が個人的にやってる、あるサロンのVIPにのみ発行されるクレジットカード。世界のどこでもいくらでも使える利用限度額、利用制限無しのカード。朝の10時から深夜2時までが営業時間。ござる君が好きなときに好きなだけ使ってちょうだい。お店には私から話を通しておくからね』
『えええ、こんな凄いクレジットカード貰えないでござる』
『ダイエット、した方がいいと思うんだけどねえ。サロンはジムも兼ねてるからちょうどいいわ』
『だだだだ、ダイエットなら間に合ってるでござる』
『ふふ、冗談よ冗談。リラックス出来るからいつでも行っておいで』
8万円…。
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