第9話 カット
さて、雪女さんの件から一週間でござる。実働半日であとはゴロゴロしてただけっていう簡単なお仕事でした。傷の具合があるからもう少し泊まっていけとお師匠さまに言われ、なのに何故か怪我人が家事をしながら傷を癒すというちょっとよく分からない一週間だったでござる。今日も帰る日なのに夕食の支度と買い物をして、それからの帰宅でござる。もう陽が暮れているでござる。
「ただいまー、でござる」
「あ、おかえりー。ねえねえお兄ちゃんが遊び行ってる間に凄いことになってたよ」
「知ってるでござる。8人目のヒーローが現れたでござる。しかも男性ときた」
リビングに顔を出すと妹君がおせんべいを食べながらこたつでゴロゴロ。
「着替えを洗濯機に入れてくるでござる。母上は?」
「呼んだ? あ、おかえりなさい」
こたつの中からにょきっと首だけ生えたでござる。母上ェ…。駄目だこの専業主婦、早くどうにかしないと…。吾が輩のように丸くなった母上など見たくないでござる。
「なによその目は。こたつからは出ないわよ? あ、明日買い物行ってきてくれない? 冷蔵庫が今夜で空になるわ」
「まさかこの一週間ずっとこたつでござるか」
「お母さんはすっかりこたつのヌシだね」
取り敢えず洗濯機に着替えを突っ込んで、風呂の栓を抜いてあるかチェックでござる。リビングから一度出て、右に曲がって突き当たりの左側に洗面所とお風呂でござる。その向かいにお手洗い。
(さて、予想通りなら…やはり抜いてないでござる)
お風呂の栓すら抜いてない。吾が輩より動かないなんてもはや専業主婦と呼ぶことも怪しいでござる。結局そのまま流れで風呂を洗い、洗濯機は深夜に回るようセットし、夕飯も作ったでござる。お風呂と洗濯機はスイッチ押すだけでやってくれるからいい時代でござる。
「やだ、もしかして私の主婦力低すぎ…?」
「待つでござる」
「お?お兄ちゃん珍しく弁護す…」
「最初から無いものを低いと言うのはおかしいでござる」
「る訳ないかー」
「失礼ね、私はエプロンするだけで主婦力MAXなのよ」
そんな専業主婦はいません。そんなこんなで夕飯を済ませ、食器を食洗機に突っ込みお風呂を沸かす。その間はこたつでお茶飲みながらテレビでも見るでござる。ずずっ、と啜るとまた吾が輩のニュースをやってるでござる。ニュースからバラエティー番組まで引っ張りだこの人気者でござる。吾が輩の、と言ってもイケメソモードでござるからまったくの別人扱いでござる。
「この男のヒーロー、凄い怪我ね。バッサリだわ。死んでるんじゃないの?」
まだ人間やってるでござる。
「そういえばこの男の人も仮面してるんだね。しなくちゃいけない決まりでもあるのかな?」
「そういえばそうでござる。でも仮面をしなければ素顔がバレてすぐに個人を特定されてしまうでござる」
「確かに」
外に出るとき、吾が輩をお姫様だっこしてるこの女のヒーローさんが気を利かせて仮面を付けてくれていたでござる。どっから出てきたし。ま、吾が輩の場合顔はおろか体格も身長も変わってるから見られても個人の特定は無理でだからそんなに心配することもないけど。
「この女の人は凄いよね。あんなに大きい男の人をお姫様だっこ出来るなんて」
「きっと鍛え方が違うんでござる。それだけ日々トレーニングに勤しんでいるに違いないでござる。どっかの誰かさんには見習って欲しいでござる」
横目でお前だよお前、と母上を見やる。
「っていなーい!」
「まさか、一番風呂かな。もうお風呂沸いた?」
「まったくこういうことだけは早いでござる」
~母上、お風呂中~
お風呂シーンは男性諸君の
「男の人は若いよねー。ハーレムとは羨ましいなー。麗しき戦乙女の園に男一人。絶対修羅場になるよー」
「昼ドラの見過ぎでござる。吾が輩ならビビって隅でモブキャラに徹するでござるな」
「でももう噂になってるよ? お姫様だっこしてる女の人とされてる男の人の鎧の色、同じだから実はカップルなんじゃないかって」
「あの女の人は黒っぽく見えるけど濃い紫でござる。高貴な色でござる」
「まあそうなんだけど…」
しかしロイヤルセブンは有史以来地上最強の7人とも呼ばれているでござる。そんな7人の痴情のもつれからくる修羅場とか恐ろしいにも程があるでござる。イケメソの正体知ればそんなことはないと思うけど…。
「お風呂空いたわよん」
「じゃあ、妹君入るでござる」
「はーい」
パジャマに着替えた母上が髪を乾かすため、ドライヤーを持ってリビングに来る。ちなみに我が家では女性が先に入るのが基本でござる。解せぬ。吾が輩が一番家事をしてお金も稼いでいるというのに。
~妹君、お風呂中~
残念ながらこちらも男性諸君の
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