第6話 今迎えにいく
「ちょっ、お師匠さまギブギブ!」
「何言ってんだ、人の淹れてやったお茶を淹れてやった人に吹きやがって。いいこと教えてやろうかバカ弟子ィ。英語でギブってのは『くれる』って意味なんだよ。お前はなんだ? テメーの命でもくれるのか? ああ?」
「あの、すいません本当にすいません」
雪女さんがタオルを持ってくる。
「ちっ」
「ひぃ、ひぃ。助かったでござる」
気を取り直して話をkwskしてもらって整理する。雪山から雪山へ引っ越しする際、はぐれた。しかし探しても見つからない。豪雪にしては降りすぎである。もしかしたら、はぐれたどさくさで連れ去られた可能性が出てきた。恐らく犯人は旦那さん。直前に夫婦喧嘩あり。
「ところで、なんで雪山さんが引っ越しでござるか?」
「地球の温暖化です。この辺りはもう暖かくなってきたので、あと10年もすれば住みにくい土地になつてしまいます」
「ありゃー…」
世知辛いというかなんというか。人間がその一端を持っているだけに肩身狭いでござる。しかもこれ夫婦喧嘩のあとの引っ越しってそれ別居。
「なので、南アルプスへ移ろうかとしていたのです」
「そこへにたまたま大雪で、はぐれてしまってその時に旦那さんが連れてっちゃったんでござるね。んで恐らく勝手に連れてこられた娘さんは泣いて大雪に拍車をかけてしまったと」
「正直、行けるものなら私が行きたいんだがな。相手が相手だし。雪が降りすぎて、巣穴が崩れた連中も集まってる…ってコラたぬき! 絨毯を噛むなつってんだろ!」
「雪女さんの旦那さんってどんなお方でござるか?」
「…冬将軍です」
こりは本物の命の危険かもしれんでござる。あかん。
「…冬将軍って、あの冬将軍でござるか」
「はい」
「アイツ、将軍だけに強いんだよ。今ちょうど冬だし戦うにしても向こうが有利でめんどいしな」
「お師匠さま、ついに本音が出たでござる」
「ああん?」
「な、なんでもないっす…。というか、ご家庭の事情なら吾輩が戦うのはおかしいのでは? ちゃんと話し合って仲直りでどうにか」
「駄目です!」
「ひょう?!」
雪女さんが突然大きな声を上げて怒り始めた。変な声出たでござる。
「あの人はいっつもいっつも亭主関白で家のことは何にも手伝わないしこの間引っ越しする時も何にもしないしたまにふらっと出ていったら数日帰ってこないし子育ては私に任せっきりでいっつもあの子は寂しい思いをしてその癖酒癖は悪いし暇があればゴロゴロゴロゴロ離婚しようって言えばグダグダグダグダああぁあぁあああぁああああ(以下略!!!!!!!!!!!!」
こりゃー相当鬱憤が溜まっていたでござる。最後に自分のお茶を一気飲みして、ドン!と湯飲みを叩きつける雪女さん。激おこってヤツでござるな。
「とまあ、こんな調子なのさ。こんなんで夫婦喧嘩されたら日本が雪で沈むわ」
「ふう、ふう、ふう。とにかく、あの人はブッ飛ばしていいから娘をお願いします!」
雪女さん、お師匠さまの悪い口が移ってるでござる。
「まー、このままっていうワケにもいかんでござる。旦那さんの居場所は?」
「さあなー。この辺にいないことは確かだ。気配もないし、動物達にちょっと探らせたが他の街にもいないらしい。だとすると県外か、もしくは気配を隠せる場所か……」
「東京都外、日本全域となったら面倒でござるな」
「取り敢えずテレビでも見るか」
お師匠さまは呑気でござる。しかし、吾が輩が戦うの? 無茶でござる。吾が輩、ヘシン!出来るようになってまだ半年でござる。お師匠さまに鍛えてもらってるのもそのくらいでござる。冬将軍となんか戦える程強くないでござる。
『えー、ここで番組の途中ですが緊急ニュースです。たった今、冬将軍を名乗る謎の鎧武者に国会議事堂が占拠されました!』
「あ」
「あ」
「あの人は一体何をしているの?!」
案外簡単に見つかったでござる。完全に雪で埋もれた国会議事堂が映っているでござる。映っているといっても真ん中の三角屋根がちょっと見えてるだけ。なるほど、一人で占拠とはこういうことでござるか。除雪して突入するまでに国会議事堂見学終わっちゃいそうでござるな。
『冬将軍と名乗る鎧武者は、娘が見たいって言ってるんだからいいだろ! などと叫び女児を人質に立て籠っている様子です』
「アチャー、これはやってしまいましたなあ」
「よし、行ってこいバカ弟子! ヒーローとして名を挙げるチャンスだ!」
「無茶言うなでござる。むしろあんな真っ黒で行ったらさらに状況が悪くなるでござる」
「まっくろ…、とはなんのことですか?」
「吾が輩の変身後の姿でござる。吾が輩、確かに変身出来るでござる。しかし、その…、ヒーロー然とした姿ではないでござる。こんな混乱の最中にそんなん現れたら返ってよろしくないかと」
むしろ邪神かなんかに近いでござる。アーマーの形こそ戦士を彷彿とさせるでござるが、真っ黒でござる。これといった色はなく、また得物や属性、超能力もない。
「だからそれは前に言ったろ。お前が根暗だからだよ。お前の深層意識を写してんだよ」
「吾が輩の能力は超パワー、超スピード、超再生、超変換でござる。ありがちな能力でござる。あと出来ると言えば空が飛べるとか海の上でも立てるとかそんなんでござる。他のヒーローみたいにはかっこよくもなければ、使い道も少ないでござる」
闇の超戦士とか言われそうな単純火力特化型の黒い戦士。それが吾が輩でござる。
「さらに吾が輩必殺技とかないし…。スターダスト・ドライブ、アンリミテッド・チェイサー、天獄ハンマーなどなど。あの7人のヒーローは必殺技とかワンオフスキルとか持ってるでござる」
「7人のヒーロー。ロイヤルセブンのことですね」
「あれ、本当に7人全員貴族なのか?」
「それは噂に過ぎんので吾が輩に聞かれてもも困るでござる。その噂から付いたアダ名が『ロイヤルセブン』でござるし」
「ま、そんなことはどうでもいいや。取り敢えず冬の大将ボコってこいよ」
「いやいやいやいや、お師匠さま人の話聞いてたでござるか?! というか吾が輩が弱いことぐらい鍛えてるお師匠さまが一番知ってるはずでござる! ていうかわりかし近いんだからお師匠さまも来る!」
「結界の維持があr」
「嘘つけ余裕でござる。前に結界解くの忘れて、張りっぱなしでハワイ旅行行ってたですしおすし」
「チッ」
「あの、私からもお願いします。良い油揚げ探してきますから」
「よし行こう! 今すぐに!」
えええええ!軽っ! 吾が輩の命、油揚げより軽いでござる…。ということで次回、吾が輩VS冬将軍! でござる!
「オラ置いてくぞバカ弟子ィ!」
まったく、食欲だけは元気なんだから…。
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