第4話 忍び寄る

「ただいまでござる」


「ただいまー」


妹君の友人達を送り、スーパーに寄って買い物を済ませ、家に帰る。と、なぜか母上は玄関で仁王立ちしていらっしゃった。


「遅い!」


「夕方になるとLIMEしたでござる。いくらSUVでも雪が積もればいつものようには走れんでござる」


「いいからおやつ!」


そう。実は吾が輩、初心者でありながらいきなり大きい車を買ってしまったでござる。もちろんキャッシュで。オプションてんこ盛りだお。フヒヒ。まあぶっちゃけ吾輩の体が大きくて普通のサイズに収まらないだけなんだけど。


「あと二時間もすれば夕飯でござる。今からおやつでは入らなくなるでござる」


「太ましき息子よ、おやつは別腹じゃ!」


「お母さん…」


結局買い物袋ごと奪われたでござる。正直普段ゴロゴロしてて、寝正月もして、この食生活でござる。しかし、美しいプロポーションを保ったままでござる。解せぬ。一度部屋に戻りジャージに着替える。エアコンの暖房を入れてリビングに降りる。部屋に戻ってきてから寒いとかやだし。


「ぬふう、やはりこたつはぬくい」


「お兄ちゃんの方がぬくい」


こたつに入ると妹君が抱きついてくる。大きいリビングに大きなこたつ。こたつは普通こんなに大きくない。そこはやはりあれでござる。特注。だって、普通のこたつに吾が輩は入れないんだもんしょうがないじゃん。


「あらあら、美少女と野獣ね」


「無職だけにプー太郎さんってやかましいでござる」


「自覚あるならアルバイトくらいしなさいな」


「だが断る」


吾が輩からしてみれば株取引のセンスがあるのにアルバイトなぞバカらしいでござる。PCをカタカタッターン!してるだけで何百万何千万と稼げるのにアルバイトなぞバカらしいでござる。株取引のことは父上殿との密約、男と男の約束、家族には内緒。故に吾が輩はただの引きこもりと思われているでござる。


「あ、明日学校休みだって。ラッキー!」


吾が輩に抱きついたままスマホを弄ってるらしい。おおかたクラスの連絡網でも回ってきたんでござる。


「では明日は吾が輩と共に雪かきでござる」


「えー、遊び行きたーい」


「どこかでやっておかないと、このまま降れば明日は良くても明後日マジで家から一歩も出られないでござるよ?遊びに行くどころではんなぁい」


「そうよー、遊びに行くどころじゃなくなるわよー」


「お母さんはどうせこたつから出ないじゃん! お兄ちゃんよりも家から出ないじゃん! …はあ、なんでこんなに降ってるんだろ」


「母、ショック」


母上、それは自業自得でござる。しかしこの大雪、確かに不自然でござる。明日になったら街にくり出して軽く様子を見てくるでござる。

そういえばこの小説、一応ヒーローものでござる。吾が輩のことをちょっと補足説明しておくでござる。吾が輩が近接タイプというのはヘシン!してから分かったことでござる。ヘシン!しても武器とか出てこなかったから近接タイプだろみたいな。あとお師匠さまがいるでござる。お師匠さまとはこの話に関係なく、10年以上前に出会ったでござる。お師匠さまは近接格闘系ではなく、幻術系でござったが、多少の覚えはあるということでそれだけ教わっているでござる。あと吾輩に幻術系のセンスが無かった。


「ヤバい、ねむい…」


「妹君、今寝たら夕飯が食べられないでござるよ。あとトイレに行きたい件について」


「だが却下」


「解せぬ。ほら、離して。帰ってきたらまたくっつけばいいでござる」


「やだー、お兄ちゃんに触られたー、えっちー…、ごうかんま…、ねむ…、おそ…われ…る…」


あーあ、夢の世界へ旅立ってしまったでござる。ていうか誰だ、妹君に強姦魔なんて言葉を教えたのは。あれ? 母上は?


「zzzzzzz」


「時既におすし」


こたつから抜けて覗くと、既にたくさんあったみかんは無惨な姿に成り果てていた。母上、せめてみかんの皮くらいはこたつの上にお願いするでござる。よだれは見なかったことにしよう。恐らく美魔女と呼ばれてもよろしいであろう母上はよだれを垂らして半目で寝ているでござる。


「だが好機」


母上は何でも吾が輩に言えばいいと思っている節があるでござる。この時間ならそろそろ夕飯の支度でござる。

そういえば変身する力についてお師匠様んとことへ相談しに行ったとき、しこたま怒られたでござる。


『はあ? お前今なんつった?』


『お腹空いて死にそうだったからヒョイパクーしたでござる』


『はあ?!何か分からん石食ったのか?! …お前ちょっとそこに横になれ。腹かっさばいて取ってやるから』


『命の危険!』


ダッ!


『待てコラァ!』


吾が輩はデブでござる。動けないとは言っていない。そんなこんなで一時間ほど鬼ごっこをして、ようやくお師匠さまが折れたでござる。


『はぁ、はぁ、はぁ。このデブが…。いいか? 絶対に私以外に喋るなよ?』


『ひぃ、ひぃ、ひぃ。誰にも喋れないから相談しに来た、で…ござ…る…。だいたい普通ならとっくにうんこと一緒に流れているでござる』


回想終了。結局検査してもらった?ところ原石は既に肉体と、というか心臓と癒着しているためもう取れないとのこと。無理に取ろうとすれば逆に危険なんだという。

と、便座に座ったところでLIMEが鳴る。お師匠さまでござる。どーせ油揚げが無くなったから買ってこいとかそんなんでござる。


『ようバカ弟子。お前明日ちょっとツラ貸しなさい』


『明日は雪かきでござる』


『その雪かきの原因がウチに来てんだよ』


『ナ,ナンダッテー(AA略 お師匠さま、ついに油揚げの食い過ぎで頭おかしくなったでござる…』


『ブチ殺す。あと生の野菜をたくさん買ってきな、あと猫缶もだ。もちろん油揚げも忘れるでないよ』


『結局油揚げでござる。して、雪かきの原因がウチに来ているとは?』


『雪女がウチに来ててな』


…、うん? うんん? 今なんて?

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