第3話 変化の時は

さて、妹君を中学校に送って帰ってきたでござる。雪を被った上着は玄関前で払って乾燥機へGO。こたつに入ると残念美人が見える。とても40代には見えない若さ、スタイル、プロポーション。そしてポニテ女子。いや女子ではない、言うなら美魔女。こたつがぬくい。


「あら、お帰りなさい」


「ただいまでござる。母上、朝食は?」


テレビのチャンネルを回すと大雪のニュースがやっている。ナウい。タイムリー。


「いらなーい。外の雪ひどかった?」


「ええ、それはもう。それでもスタッドレスタイヤで走れる程度には除雪されていたでござる」


「まあいいや。私には関係ないもーん」


収入豊かな我が家では母上は専業主婦である。そして母上の胸囲も驚異的なまでに豊かである(誇張表現あり)。そしてダメな主婦である。こんな何もない、何も出来ない日は何もせずに朝からゴロゴロしているのでござる。まさにこたつむり。いやかたつむりに失礼か。


「テレビ消しちゃっていいわよー? どうせ雪のことばっかだもん」


「もう少し朝のニュースを見とくでござる」


こんなときこたつに入る際気を付けることがある。母上は大抵髪を1つに束ねるか、下ろすかの2択でこたつの外に出しているのでござる。間違って踏みかねんでござる。以前切らないの?と聞いたらぶち殺されかけたでござる。解せぬ。


「あ、ヒーロー登場でござる」


「こんな雪の日まで頑張るわねえ。なにしてんの?」


「手分けして立ち往生した電車の救助と、高速のICとかで缶詰めになってるトラックの人々に食料配ってるでござる」


「みんな若いのに頑張るわねえ」


「…母上は?」


「ざけんじゃねーわよ」


まったく、これでござる。もそもそとこたつから出て冷蔵庫を開く。3パック98円の納豆を1つ取り出す。冷凍室からは冷凍した白飯。納豆にはからしを入れる派なので選んでるでござる。あと10円安いものも探せばあるでござるが、からしは無いし微妙に内容量が少ないでござる。

さて、朝食の準備ができたところで姉上を紹介するでござる。母上の先程のヤンキー遺伝子を十二分に受け継いだ姉上は現在、一人暮らしの女子大生。と言っても市内に大学があるのですぐ近くにいるでござる。そして、

泣くヤクザも黙る伝説のスケバン…


か~ら~の?


泣くヤクザがさらに泣きに泣いて土下座する伝説のレディースでござる…。影で7人いるヒーローの内1人は姉上では?と言われているでござる。どうしてこうなった。

だがしかし、その美貌も母上に劣るとも勝らぬ素晴らしさである。街をあるけば10秒に1回ナンパされてはブッ飛ばし、1分に1回はスカウトされてはブッ飛ばしというレ・ベール。もうね、馬鹿なんじゃないかと。もちろん姉上にこんな口は聞けないでござる。もし口を滑らせてしまったときは哀れな吾輩の死体が転がる。まだ涅槃には早いでござる。

さてさて、朝食も摂ったことだし部屋に戻るでござる。とまあこんな感じで吾が輩の出番はない。ま、どんなヒーローでも出番がなくて平和な方がいいでござる。こんな寒い日には引きこもるが一番でござる。

吾が輩は部屋に戻ると早速PCで株式のチェックでござる。もちろん複数ディスプレイ複数ウィンドウ。本当は駄目なんだろうけど、父上殿の株取引を吾が輩が担当しているのでござる。これは父上殿との密約でござる。吾が輩のそのセンスと吾が輩がニートでいることを取引したのでござる。他の家族には知らせていないでござる。ということでチェックチェック~…、ん?


(なんかおかしい。こりゃ誰かが仕掛けてるでござる…。桁がちょっと個人単位ではござらん…。この会社、成長はあるけど朝っぱらからこんな突然、しかも桁が変わりそうなくらい…。手出さないで下がっとこ。全て売り逃げして戦略的撤退でござる)


少しでも怪しいと思ったら即撤退。これは絶対のルール。例え損益出てでも即撤退。吾が輩、新小岩に飛び込むのは勘弁でござる。個人で細々とやってんだから祭りに飛び込む必要はござらん。下がることを覚えろカス。まれにインサイダーやらかすのもいるしね。

あとは適当に売り買いを繰り返し、保有している企業の業績や動向をチェックし、暇があれば気になる企業のIRを読み漁るでござる。たとえセンスがあっても情報収集は戦略の基本でござる。と、部屋のドアがノックされる。


「ちょっといい?」


「どうしました、母上殿」


「中学校が午前で終わるって話だから、お昼になったら迎えに行ってあげて。ついでに買い物もよろしく」


「アイアイサー。そういえば雪、止まないでござるね。吾が輩、こんなに降るのを見るの

は初めてでござる」


「止まないわよねえ。積もる前に家に帰せってさ」


「学校の先生も大変でござる」


ということでハイ、と買い物のメモをLIMEされる。スクショして保存。と、言うことでハイ学校、ハイお昼。エアコンガンガンに掛けて待っていると、何人か乗り込んできたでござる。


「「「「お願いしまーす!」」」」


「アルェ?」


増えている。解せぬ。


「ちょっとちょっと妹君、聞いてないでござる」


「いいじゃん、車大きいんだし。モテないお兄ちゃんは女の子に囲まれて幸せでしょー?」


モテないは余計でござる! ネトゲではモテてるもん!


「「「「すいません、この雪だと軽自動車じゃ厳しいって親に言われちゃって…」」」」


「スゴいハモり。まあ、この雪はちょっと異常でござるね。歩いて帰るのも危ないでござる。仕方ない、母上には夕方になるとLIMEしとくでござる。買い物も頼まれてるでござる」


こりゃー大変でござる。出発前にLIME。


『母上殿、妹君の友人達も送ることになったでござる。こりゃ夕方まで掛かるでござる』


『おやつないから買い物も頼んだのに…。家畜死すべし』


『理不尽』


この後無茶苦茶買い物した。

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