第2話 あなたはだれ?
吾が輩は
ついでに出番もない。ついでに職もない。ついでに筋肉もない。ついでに読者もない。ついでにブクマもない。ついでにポイントもない。脂肪はある。
俗に言うデブヒキニートという存在である。
吾が輩が持っているものは片手で数えられるものしかない。
ことのついでだから、読者の皆さんに吾が輩の自己紹介をしよう。
名は武将でござる。間違ってもふざけてはいない。武将と書いてタケマサ、と読むのでござる。名前はまだ無い、と言ったがそれはヒーローとしての名前がまだ無いという意味である。流石に自分で名前つけたらただの痛い人だし……。
持っているものを紹介しよう。
家、車、自分の部屋、家具、衣服。以上。
ぴったり片手で数えられるものしかない。
ただひとつ、例外として経済力。
父上殿の株取引に横から首を突っ込んでいたら利益が上がったので、任されているのだ。父上殿は転勤族。給料は良いものの趣味が持ちにくいらしく、お小遣いの範囲で貯金して少し稼いではへそくりするのが楽しみだったのだ。そして父上殿のへそくりを増やしているのが吾輩。
その結果がこの家でござる。つまり、この家のヒエラルキーの頂点に立っているのでござる。車を持っているのもこれが理由。しかし、吾が輩はヒキニートである。学生ではござらん。株主、資産家、事業家なども職業ではなく肩書きである。トレーダーなんてフリーターと変わらんでござる。
「ちょっとお兄ちゃーん」
おっと、妹君でござる。ノックもせずに人の部屋に入ってくるとは。妹君はまだ中学生でござる。吾が輩は18でござる。ちなみに高校は通っていない。入ってもいない。これから入るつもりもない。だって行きたくないから。お金さえあれば学歴無くても生きていけるし。
「車で学校まで送ってって」
「だが断る」
「外、雪降ってるんだもん。ヤバいって」
「吾が輩はヒキニートでござる。布団がある。というか母上は?」
「こたつから出てこない」
(親子揃ってこれか……血は争えぬ)
仕方ない。デブヒキニートらしからぬ行動ではあるが可愛い妹の頼みでござる。
「先に玄関で待っているとよかろう。玄関前まで車を回すでござる」
「やった!」
小さく飛び跳ね、ガッツポーズの妹君。可愛い。可愛いは正義。ごそごそと着替え、上着を着る。ジーンズのポケットに入れっぱなしのキーを、上から触って確かめる。送って帰るだけだから洗顔も朝食も帰ってきてからでよかろう。そういえば、吾が輩がどんなヒーローであるか紹介していなかったでござる。では車を回しながら紹介。吾が輩、変身ヒーローでござる。フルプレートフルアーマーのゴリゴリ近接キャラでござる。筋肉ないのにどうやって戦うのかって?そこでござる。吾が輩、変身すると何故か細マッチョイケメソになるでござる。
かつて、って言うほど昔でもないけどとあるリスペクトで長野山中に行ったらマジで見つけちゃったでござる。遺跡の中で、変身アイテム、の元の原石。何故か変身アイテムは棺の中ではなく、また変身アイテムという形でもなく、最奥の祭壇に原石だけで祀られていたでござる。
あの時、お腹空いたからってヒョイパクーしたのが運の尽き。変な封印を解いてしまったらしく遺跡は崩落。同行してくれた同志は頭打って全然覚えていないらしいでござる。しかも同志はその時に記憶が飛んじゃって、恐いからって撮っていた映像やら写真やらなんやらは吾が輩に渡して、カメラやらなんやらはお祓いしてもらって処分してしまったそうだ。吾輩もそのときの記憶はほとんど飛んでいて、しかも後で同志とあれこれ話した結果まるで話が食い違い、二人とも全く違う体験をしていたのでござる。そして家に帰ってきた吾が輩は戦いの日々に明け暮れるのだった…。
って思うでしょ?だが冒頭で言った通りでござる。出番はないと。つまり変身しても部屋に置いてある姿見の前でポージングしてるただの変態でござる。普通なら怪人が出てきてなんちゃらかんちゃらするのがお決まりであろう。しかしなんも出ないでござる。いやまったく、本当に何にも。
さらに言うと、変身ヒーローはもう既にいるでござる。7人も。吾が輩は8人目のヒーローでござる。しかし吾が輩の出番はまだない。ついでに言うと7人は全てうら若き乙女達である。要は皆女性である。コミュ障童貞には厳しいでござる。皆さん、強盗とか立てこもり事件とか近所のご町内とかに精力的に出動しまくってるので吾が輩は出にくいでござる。おうふ、妹君が玄関から出てきたでござる。では、今日はこのへんで失礼。
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