わたくしと南部先輩はラブラブですわよっ!
「お、お姉ちゃん。ちょっとストップ」
わたくしが南部先輩との馴れ初めについて語っていると、エリカが待ったをかけてきました。おや、少々一気に喋りすぎてしまったでしょうか?
「少し休憩をはさんだ方が良いのかもしれませんね。爺や、わたくしとエリカにお茶のお代わりを」
「お茶なんてどうでもいいよ!お姉ちゃん、やっぱり人として間違ってるよ!だいたいどうしてお姉ちゃんの中の天使と悪魔は、仲良く悪い方向に導いちゃったの⁉」
「エリカ、何を言っているのですか?いったい仲良くする事のどこがいけないと言うのです?天使も悪魔が仲良く手を取り合う、良いじゃありませんか」
「それでおかしな方向に行っちゃうのが問題なの!なんかもう、全部がダメに思えてきた。鳥さん牧さん、どうして止めてくれなかったんですか⁉」
エリカは鳥さんと牧さんを責めますけど、いけませんわ、そのような事を言っては。
「エリカ様、私達が御門様を止められるとお思いですか?」
「特にあの時の御門様はいつも以上に暴走に拍車がかかっていましたから、止めることなど最初から諦めてしまいました」
「……はい、そうですね。お姉ちゃんを止められるはずが無いですよね」
何を当たり前の事を言っているのでしょうかこの子は?何よりわたくしのする事は全て正しいのですから、鳥さん牧さんが止める理由なんてないと言うのに。
「それで、その後どうなっちゃったんですか?まさかその彼女さんに圧力をかけて、無理やり別れさせたんじゃ?」
「……エリカ、アナタはわたくしを何だと思っているのですか?鳥さん牧さん、説明しておあげなさい」
「はい、御門様。エリカ様、ご安心を。実はですね、南部先輩は元々彼女を作っては別れてを繰り返してるお方だったので、彼女さんの方もそこまで本気のお付き合いをしてると言うわけでは無かったのですよ」
「そうでございます。あとは金に物を言わせたら、意外とアッサリ別れて下さいましたわ」
「えっ、そうだったんですか?それは良かっ……たのかな?」
何故かエリカは、まだ納得しきってはいないようですね。そもそもわたくしが南部先輩と付き合ったらみんながハッピーになるって、既に言っていたと言うのに。
「そ、それじゃあその彼女さんの事は置いとくとして、南部先輩は?やっぱりお金で釣ったんですか?あれ、でも最初に、お金目当てじゃないって言っていましたっけ?」
「当たり前でしょう。エリカ、あまり失礼なことを言うと、アナタでも怒りますわよ」
「ご、ごめんお姉ちゃん」
「わたくしと南部先輩は、ちゃんとお互いを愛し合いながら交際をしていますわ。そうだ、これを見たら分かってくれるかしら?この前撮った、先輩の動画ですわ」
そう言ってわたくしは、エリカにスマホを差し出しました。画面に映っているのは、満面な笑みを浮かべる、制服姿の南部先輩。そして。
『御門ちゃん、愛してるよ』
「わわっ⁉」
エリカが思わず顔を赤く染めます。ふふっ、可愛い反応だこと。そうして画面に映る南部先輩は、さらにもう一言。
『御門ちゃん、愛してるよ』
ふう、やっぱり何度聞いても、南部先輩の『愛してる』は心に響きますわ。夕べも今朝もこの声は聞いたと言うのに、今もまた胸がキュンキュン鳴っていましてよ。
「どうですかエリカ、この南部先輩の曇りなき笑顔は?あなたはこれでも、先輩がお金目当てだと言うのですか?」
「確かにこれは……あ、でも笑顔に曇りはちょっとあるかも。南部先輩って確かに格好いいけど、少し目の下にクマができてる」
「はあ?いったい何を仰って……本当ですわねえ」
見れば確かに、クマができておいでですわ。わたくしとしたことが、胸をときめかせるあまり、今まで気づいていませんでした。これは由々しき事態です。南先輩、あまり眠れていないのでしょうか?はっ、もしや夜な夜なわたくしの事ばかり考えてしまっていて、つい寝不足になったとか?いけません、今度エステにでも連れて行って差し上げて、元の奇麗なお顔に戻ってもらいましょう。あ、わたくしは別に、少々クマができたくらいでは、幻滅したりしませんわよ。だって……
『御門ちゃん、愛してる。御門ちゃん、愛してる』
こんなにもわたくしの事を、愛してくださっているのですもの。ああ、わたくしだけの南先輩……
しかしここで、エリカがある事に気が付きました。
「アレ、この動画って、エンドレスで流してるわけじゃ無いんだ。でも南先輩、さっきから同じ事しか言ってないような気が……」
ああ、その事ですか。きっと南部先輩、わたくしを前に照れているのか、ちょっぴり口下手になっているようですわ。だけどそれでも、こんなにも情熱的に『愛してる』と言ってくださっているのですから、やっぱり嬉しいですわ。しかしエリカはその説明に納得がいっていないのか、頭にハテナを浮かべながらスマホを覗き込みます。すると。
『御門ちゃん、愛してる。御門ちゃん、愛してる。御門ちゃん、愛してる。愛してる愛してる愛してるアイシテルアイシテルアイシテルア˝ア˝イ˝イ˝ジジ…デデ…ルルル……』
「きゃあ――――っ!」
あらあら、どうやらエリカには、刺激が強すぎたみたいですわね。だけどダメよ、スマホを放り投げたりしては。
「な、なにこれ?呪いの動画?」
「何を言っているのです?これはわたくしと南先輩の、愛のメモリーですわ」
「画面に映っていた人って、本当に南部先輩?聞いた話ではもっと爽やかな人だって思っていたけど、後半は目が虚ろになってゾンビみたいなオーラを出して、まるでオバケみたいだったんだけど」
「何を失礼なことを……ああ、エリカったらわたくしに彼氏ができたものだから、焼きもちを妬いているのですね」
「違うから!」
ふふふ、隠さなくても分かります。わたくしはあなたの姉ですもの。それとももしかして、南部先輩にわたくしを取られるのが寂しくて、あんなことを言ったのでしょうか?可愛いですわねこの子は。
「良いではありませんか、ちゃんとわたくしのことを、『愛してると』言ってくださっているのですから、他の事はどうでも。と言うより、どうやら南部先輩は、それ以外の言葉を喋る事ができなくなってしまったみたいですけど」
愛は盲目と言いますけど、きっと南部先輩はわたくしにメロメロになるあまり、他の事をすっかり忘れてしまったのでしょう。
もう、忘れん坊さんなんだから。でもそんな先輩もス・テ・キ♡
「ダメ、お姉ちゃんには話は通じない……鳥さん牧さん、これはいったいどういうことですか?南部先輩、どうしてああなっちゃったんですか?」
「エリカ様、落ち着いてくださいませ。私達は南部先輩を彼女さんと別れさせた後、どうやったら御門様と付き合ってもらえるか考えました」
「本当は彼女さんと同様に、お金に物を言わせたら話は簡単だったのですけど、御門様がそれでは嫌だと駄々をこねたのでございます」
当り前ですわ。お金目当てで交際なんてされても、嬉しいはずが無いではありませんか。
「ですがいくら南部先輩がナンパな方でも、正攻法では御門様と付き合ってくれるはずがありません」
「それで私達はすがるような気持ちで、雑誌『月刊黒魔術』に書いてあった呪い……いえ、おまじないを試してみたのです」
「今『呪い』って言いましたよね!お姉ちゃん、お姉ちゃんは良いの⁉先輩があんなオバケみたいにっちゃったんだよ。それで本当に満足できるの⁉」
エリカは声を大にして叫びます。私はそんな妹を諭すように、そっと頭を撫でました。
「良いですかエリカ、人は見た目ではないのです。例えどのような状態になっても、愛し合う二人が一緒にいられると言う事は、それだけで尊いものなのです」
「もっともらしく言ってるけど、さすがに限度があるよ。それにそもそも、本当に愛し合ってるかどうかも怪しいし」
「お母様も仰っていましたわ。『私も若い頃は、黒魔術で次々と男をとっかえひっかえしていたザマス』と」
「お母さん昔そんなことやってたの⁉そんなの知りたくなかった!」
おぼつかない足取りで、フラフラと後ずさりするエリカ。そんな危なっかしいこの子の背中を、鳥さんが支えます。
「別に驚かれることはありません。これは御門家の女性の性だそうですから」
「―——―ッ!じゃあ私も?」
青い顔をするエリカ。すると今度は、牧さんが言います。
「もしエリカ様も好きな男性ができたら、声を掛けて下さいね。私達も協力は惜しみませんわ」
「いっ……いや―――っ!」
これはいったいどうしたことでしょう?エリカは目に涙をためて、支えてくれていた鳥さんを振り払いました。
「や、止めて。絶対に余計な事はしないで。私の好きな人に、呪いなんて掛けないで下さい。うっ、うわ――ん。もうこんな家ヤダ――ッ!」
エリカはそう叫ぶと、どこかへ走っていってしまいました。難しいお年頃なのでしょうか?
「まあ、エリカもいずれ、わたくし達の言っている事が分かる日が来るでしょう」
「できればそうならない事を祈り……いえ、そうですね。エリカ様ならきっと」
「それより今大事なのは、明日のわたくしのデートですわ。早く着ていくお洋服を選びませんと。ふふっ、何せ明日は、ただのデートではありませんからね。わたくし、南部先輩とより深い関係になるつもりですのよ」
「ええっ⁉御門様、それって……」
驚く二人を一瞥し、私は空に浮かぶ星……ではなく雲を指さします。
「わたくしはあの雲に誓いますわ!明日のデートでは、南部先輩と『春ルン』『樹里タン』と呼び合う関係になると!」
関係になると……なると……なると……
わたくしの声が空に響きます。
鳥さんと牧さんは一瞬キョトンとした顔になりましたけど、すぐに思い出したように場を盛り上げ始めます。
「そ、そうでございます!明日は勝負の日でございます!」
「さすが御門様、健全です!」
「そう言うわけですから、気合入れていきますわよ!おーっほっほっほ!」
春ルンと樹里タン。そう呼び合うわたくし達の姿を夢見ながら、笑い声を上げるのでした。
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