グリム童話っぽいもの ジュリ雪姫 前編
※この物語は、グリム童話『白雪姫』のパロディとなっています。また、『シンデレラとカボチャの煮つけ』で使用したネタをそのまま再利用しています。
ここはとある大陸にある森の中。アタシ、魔女見習いのアサヒは、幼馴染みのソウイチ王子と一緒に、お散歩をしていた。
森の中を歩きながらアタシが考えている事は、今夜お城で開かれる舞踏会の事。その舞踏会問うのは、ソウイチのお妃になる人を探すためのもので、常日頃からソウイチには素敵な結婚をして幸せになってもらいたいと考えているアタシとしては、今からワクワクが止まらない。
しかし一方、何故かソウイチは浮かない顔をしていた。
「ソウイチ、さっきからため息ばかりついているけど、どうしたの?」
「アサヒ……今夜の舞踏会のことを思うと憂鬱になってね」
うーん、せっかくの舞踏会だと言うのに、ソウイチ自身は乗り気じゃないようす。と言うのもこの舞踏会、実はソウイチに早く身を固めてほしい周りの人がセッティングしたものなのだ。
「結婚なんてまだ早いよ。好きでもない人と踊ろうとも思わないし」
ソウイチはそう言っているけど、アタシは逆に、この舞踏会を楽しみにしている。それと言うのも、実はアタシは密かに、ソウイチのお嫁さんにするにふさわしい子の目星をつけているのだ。
それは城下町に住む、コトネデラという女の子。このコトネデラ、超絶可愛くて性格が良くて家事もできて頭も良いという、町一番のパーフェクトガールなのだ。これはもう、ソウイチのお嫁さんになるためにこの世に生を受けたと言っても過言ではない!
意地悪な継母や義姉達に毎日イジメられているにも関わらず、健気で前向きなコトネデラ。きっと今夜の舞踏会には連れていってもらえないだろうけど、アタシは今夜コトネデラにガラスの靴やカボチャの馬車をプレゼントして、舞踏会に招待してあげようと考えているのだ。全てはソウイチとコトネデラの、ラブラブな未来のために!
だからソウイチ、舞踏会が嫌なんて言わないでね。
「ソウイチ、せっかくの舞踏会なんだなら、ちゃんと楽しまなくちゃ損だよ」
「そう言うけどさ……アサヒは、何とも思わないの?俺が、その……他の女の子と踊ったりしても」
他の女の子?ああ、そう言うこと。ソウイチほど格好良いと、きっと数多くの女の子からダンスを申し込ませて、踊らざるを得ない状況もあるだろう。確かにアタシとしてはコトネデラ以外の子と踊ってほしくないと言うのが本音ではあるけど……
「気にしない……て言ったら嘘になるかな。けど大丈夫。アタシ、ソウイチのことを信じてるから」
「アサヒ……」
「もちろん浮気はダメだよ。けどアタシの好きなソウイチなら、絶対にそんなことはしないでしょ。だから何も、心配してないよ」
「……そこまで言われちゃ、いつまでも駄々を捏ねててもしかたないか。分かった、舞踏会にはちゃんと出るよ。けど絶対に他の子になびいたりはしないから」
「うん、それでこそソウイチだよ!」
しめしめ。釘をさせたことだし、これでソウイチとコトネデラを無事にラブラブにできるだろう。もし舞踏会に出ないなんて言い出したら、計画が台無しだものね。
さて、そうと決まったら、早く帰って準備をしなくちゃ。まずは馬車にするカボチャを、市場に買いにいこうか?魔法の呪文も間違えないように、確認しておいた方がいいかな。そんなことを考えていると……
「ああーっ!マキさん、あそこを見てください!」
「あの方は……トリさん、あの方ならきっと、ジュリ雪姫も喜んでくださいますね!」
突然そんな声が聞こえてきた。声のした方に目をやると、木々の先に二人の女の子が立っていて、こっちを見ている。
何故だろう?この人達とは初対面なんだけど、何となく嫌な予感がする。しかしそんなの御構い無しに、二人は駆け足でアタシ達の元までやって来ると、頭を下げてきた。
「イケメンのアナタ、お願いがあります!」
「どうか私達と一緒に来て、ジュリ雪姫様をお助けください!」
いきなりそんな事を頼んできたけど、ジュリ雪姫?いったい何を言っているのかさっぱりわからない。ソウイチの力を借りたいっていうのだけはは分かるけど……
「助けるって、いったい何があったんですか?まず、アナタ達は誰ですか?」
ソウイチが問いかけると、二人は顔を上げて質問に答える。
「申し遅れました。私のことは『トリさん』、こちらは『マキさん』とお呼びください」
「私達はジュリ雪姫様に遣える、七人の小人的な者です」
「七人の小人って、君達二人しかいないけど?」
疑問を口にするソウイチ。するとトリさんとマキさんは、渋い顔をする。
「それが、本当はちゃんと七人いたのですが。まず、年下→背が低い→小人ということでスカウトしていたソラタ君とエリカ様が、やってられないと言って辞表を提出しました」
「他にヤマダさん等、三人のモブキャラがいたのですが、ジュリ雪姫様のお世話に耐えられず、現在体を壊して入院しております。ですから今いるのは、私達だけなのでございます」
動けるのは二人だけ、本編と状況は同じってことね。って、本編って何の事だっけ?まあいいや、細かいことは考えないでおこう。
「それで、そのジュリ雪姫を助けるって、どう言うことなの?」
「それは……とにかく来ていただければわかります。アナタほどのイケメンなら、きっとジュリ雪姫様も喜ぶはずです」
イケメン?そりゃソウイチは確かにイケメンだけど、それが助けることとどういう関係があるのだろう?
「どうするソウイチ?」
「うーん、事情はさっぱり分からないけど、困ってるのなら放ってはおけないかも。とりあえず、行くだけ行ってみよう」
うん、ソウイチならきっとそう言うと思ったよ。それならアタシだって反対しない。
「それじゃあ、早いとこ行っちゃおう。そのジュリ雪姫、待ってるんでしょ」
「そうでございますね……って、アナタもついてくるのですか⁉」
「何?アタシが一緒じゃ不味いの?」
万が一、トリさんとマキさんが悪い人だと言う可能性もある。大事な舞踏会の前に、ソウイチを危険な目に遭わせる訳にはいかないから、目を放さないでおこうと思っていたんだけど……この反応、怪しい。
「ねえ、何かアタシ達に隠してない?」
「そ、そんなことありませんよ」
「そ、そうでございます。勿論アナタが着いてきても、一向に構いません。ただし!」
トリさんとマキさんは互いに目をあせたかと思うと、声を揃えて言ってくる。
「「くれぐれも、邪魔だけはしないでください!」」
「う、うん。分かったよ」
そりゃアタシだって、困っている人を助けるのに、邪魔なんてしたくないけど。しかしこんな風に言われては、どうも引っ掛かってしまう。
結局トリさんマキさんに案内されながら森の中を進んでいくけど、その途中ソウイチにそっと囁く。
「ソウイチ、何かあったら、即逃げるよ。何か嫌な予感がする」
「実は俺も。けど、旭は必ず俺が守るから」
さすがソウイチ、頼もしいことを言ってくれる。
けど、無理だけはしないでね。もしソウイチに何かあったら、アタシはコトネデラに会わせる顔がないんだから。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
トリさんとマキさんに連れられて、やってきたのは森の奥にある一軒の家。それから中に通された私達は、寝室へと案内された。
「ソウイチ王子、アサヒさん、この方がジュリ雪姫にございます」
そう言った鳥さんの視線の先にあるのは、一台のベッド。そしてそこには、一人の綺麗な女の子が、仰向けになって、すやすやと寝息を立てていた。
「この子がジュリ雪姫?助けてくれって言われても、ただ眠っているだけに見えるけど」
ソウイチが頭にハテナを浮かべる。だけどその疑問に、マキさんがすかさず答えた。
「そう、眠っているのでございます。ただしこれは、普通の眠りではございません。一度眠ったら二度と覚めることの無い、呪いなのでございます」
「呪い⁉じゃあジュリ雪姫は、一生眠り続けちゃうって事?」
「その通りでございます。実はジュリ雪姫は、口にしたものを眠らせる、呪いの毒リンゴを食べてしまったのです」
「ああ、このまま眠り続けるだなんて、御いたわしいジュリ雪姫」
そう言えばそんな呪いがあるって、聞いたことがあるような気がする。アタシだって魔女の端くれ。この手の知識が全く無いわけじゃないのだ。しかし生憎、呪いの解き方までは知らないんだよね。
「アレ、でもわざわざアタシ達を連れて来たって事は、もしかして呪いを解く目途は立ってるの?」
「はい、左様でございます。ジュリ雪姫にかけられた呪いを解くにはアナタ……ではなく、ソウイチ王子の助けが必要なのです。どうか力をお貸しいただけないでしょうか?」
「そうだね、そんな話を聞いたんじゃ、放ってはおけないし。俺に何かできると言うのなら、力になるよ」
さすがソウイチ、困っている人を見捨てないだなんて、優しい。しかし次の瞬間、トリさんとマキさんの目がギラリと光った。
「『力になる』、確かにそう仰いましたね!」
「言質は取りました!あとになってダメだなんてのは無しですよ!」
えっ、ええっ⁉急に何言いだすのこの二人は?ソウイチは別に助けないつもりなんてないだろに、なんでわざわざこんな風に念押ししてくるの?
なんだかとても……とっても嫌な予感がする。そしてその予感は、次の発言で現実のものとなった。
「実はジュリ雪姫の目を醒まさせるには、誰かがキスすれば良いのです!」
「さあさあソウイチ王子、チュッチュとやっちゃってくださいませ!」
「「はあっ⁉」」
そろって声を上げるアタシとソウイチ。キスって、ソウイチがするの⁉このジュリ雪姫に⁉
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