短編集

鳥さんの恋バナ

 皆様こんにちは。私は御門様の取り巻きその一、通称『鳥さん』でございます。フルネームは呼ばれることがほとんど無いので、自分でも忘れてしまいました。

 さて、そんなことはさておき。今回はなんと私が主役のお話だとか。コメント欄でどのキャラが好きかを尋ねたところ、私が上位だったらしく、その記念だそうです。もう自分でもビックリですよ。

 さて、そんな今回のお話は、本編の途中、体育祭の時に起きた出来事となっています。皆様どうか、最後まで楽しんでいってくださいませ。



 学校中が体育祭で盛り上がる中、私は保健室のベッドでうなされていました。

 実は少し前に、私は騎馬戦に出場したのですが、それには春乃宮さんも出場していました。日頃から春乃宮さんのことを目の敵にしていた御門様は、春乃宮さんをやっつけるよう命じてきて、私もそれに応えようとしたのですが、力及ばず……

 その後私は御門様に、とても文章にできないような折檻を受けて、今に至ると言うわけでございます。


「うーん。御門様お許しをー」

「鳥さん、気をしっかり持つのです。死んではなりません!」


 悪夢に魘される私を、付き添いの牧さんが励ましてくれます。そうです、こんなところで死んでしまうだなんて、嫌です……


「あなたに死なれては、今後は私一人で御門様のお世話をすることになるのですよ!そんなの、耐えられるはずないではありませんか!」


 ……あ、なんかもう、もうこのまま死んじゃってもいいような気がしてきました。ちょうど川の向こうで、お婆様が手を振っていますね。今からそっちへダッシュで行きます。


「鳥さん⁉お気を確かにー!」


 ……結論から言いますと、私は息を吹き返しました。このまま生きながらえても良い事があるかどうかわかりませんが、あのまま死んでしまうのもバカらしかったので、もう少し頑張ってみる事にしたのです。

 牧さんは今、飲み物を買うと言って出て行ってるので、今この保健室には私一人。もうしばらく、ベッドで横になっておくとしましょう。たまにはこうして、ゆっくりしていても罰は当たりますまい。

 しかしそう思ったのも束の間、不意に保健室の戸がガラリと開きました。牧さんが帰ってきたのか、それとも保健の先生が来たのでしょうか?ですが体を起こしてみると、目に飛び込んできたのは意外な方でした。


「あら、山田さん?」

「あれ、鳥さん?」


 そこにいたのは、私達の教室のクラス委員である山田さんでした。

 皆様覚えてらっしゃいますでしょうか?文化祭の時、ハードワークに耐え切れずに倒れてしまった彼でございますよ。てっきりそのまま殉職したものと思っていましたけど……


「ちょっと、勝手に殺さないでよ。あの時君と牧さんからもらった胃薬のおかげで、何とか一命を取り留めたんだって」

「ああ、そう言えばそうでしたわね。それで、山田さんはどうしてこちらへ?」

「ちょっと絆創膏を貰いに。まあ大した怪我じゃないんだけどね」


 そう言って山田さんが見せた腕は怪我をしていて、血が出ていました。恐らくどこかで転んだのでしょうけど、幸い大したことは無さそうですけど、これはいけませんね。


「ちょっと待っててくださいな。今、薬を用意しますから」

「良いよ、自分でやるから。鳥さんは休んでいる途中でしょ」

「怪我人を放っておいて眠るなんてできませんわ。いいから大人しく、治療されてください」


 普段の御門様はよくお暴れ遊ばされて、あちこちに生傷を作っていらっしゃいますから、怪我の治療はなれているのです。 

 怪我をしている腕に薬を塗って、包帯を巻いて。はいお終い。


「凄いなあ、随分となれてるね」

「こんなこと、少し練習すればだれにもできますわ」

「練習ねえ。君がその練習をするのは、やっぱり御門さんのため?」

「……はい」


 嘘を言っても仕方が無いので、私は素直に答えます。私の家は代々、御門家に遣えてきました。私も御門様のお役に立つべく、日夜傍にいて動いているのですが……


「ですが私、どうも才能が無いみたいなんですよね」

「鳥さんが?そんなはずないでしょ」


 山田さんはそう言ってくださいましたけど、私は首を横に振ります。才能があれば、御門様のご命令をちゃんと聞く事ができるはずです。だけど私は、騎馬戦で春乃宮さんに勝てと言う御門様の命を、遂行しきれませんでした。


「騎馬戦で勝つことも出来ない。やっぱり私は、才能が無いんですよ」


 話してみて、少し気持ちが沈みます。しかし、ここで山田さんは、そっと私の頭に手を置いてきたのです。


「違うよ。鳥さんは自分で思っているよりも、ずっと才能がある。だって君は、あの御門さんと常に一緒にいるじゃない。それがどれだけ大変で特別なことなのか……もっと、自信を持ちなよ」


 男子と二人きりで、頭を撫でられると言うこの状況に、思わず顔がカアッと熱くなります。そして頭から手を離した山田さんは、じっと私を見つめます。


「俺さ。実は前から、鳥さんのことを凄いって思っていたんだ。御門さんのお世話だなんて、中々できる事じゃないよ。尊敬するよ、本当に」


 ……初めて、誰かに認められた気がしました。

 そりゃあ、御門様に遣えるのは突然ですけど、こんな風に頑張りを評価してもらえる機会なんて無かったわけですから。嬉しくてついつい胸が熱くなっていくのが分かります。


「山田さん……」

「鳥さん……」


 互いに見つめ合ったまま、目を逸らしません。

 何でしょうこれは?今まで山田さんの事は一クラスメイトとしてしか見えていませんでした。ですが、ですがこれは……


「鳥さん。あの、俺は……」


 何かを決意したような表情で、山田さんの唇が動きます。ま、待ってください。私、まだ心の準備が⁉なのについ次の言葉を期待してしまい、息を飲んで待っていると……


「鳥さん牧さん!いらっしゃいますか!」


 ……ええ、分かっていましたよ。そんな上手くいくはずが無いって。

 保健室の戸がバンッと開いたかと思うと、血相を変えた御門様が姿を現したのでございます。さっきまでの甘い雰囲気は、あっという間に吹っ飛んでしまいました。


「……御門さん」

「あ、あの、御門様?いったい何用でございますか?」


 私達は恐る恐る尋ねます。すると御門様は、ズカズカとベッドのそばまでやって来ました。


「牧さんはいらっしゃらないようですね。実はわたくし、借り物競争の最中でして、お題である『友達』を連れて行かなければなりませんの。鳥さんは休んでいる最中なので牧さんを頼ろうかと思ったのですが、いないなら仕方がありません。鳥さん、行きますわよ」

「えっ、ですが御門様……」


 私はついさっきまで、三途の川に片足を突っ込んでいたのですが。

 回復してきたとはいえ、まだ体は本調子ではございません。すると山田さんが私を守るように間に入ります。


「待ってください御門さん。鳥さんに無理はさせられません」

「山田さん……」


 毅然とした態度で、御門様に意見をする山田さん。その姿に、思わず胸がキュンとしてしまいました。しかし……


「お黙りなさい―――――ッ!」

「――――ッ⁉」


 吠えると同時に、御門様の目がギラリと光りました。それはまるで、人間ではなくモノノケの類いのようにも見えて。するとその瞬間、なんと山田さんは泡を吹いて倒れたではありませんか。


「や、山田さん⁉」


 私はベッドから出て、慌てて駆け寄りましたけど彼に意識はなく、まるで覇王色の覇気でも食らったかのようです。

 御門様はいったい何をされたのでしょうか?詳しいことはわかりませんが、やはりこの方には決して逆らってはいけないと言うことだけは、再認識できました。


「み、御門様……」

「鳥さん、来てくださいますね?」

「は、はい……」


 先程からの体の不調に加えて、何だか恐怖でガクガク震えてきましたけど、頷く以外の選択肢はありません。牧さん、飲み物を買うのにどれだけかかっているのです?怨みますよ。


「あの、山田さんはこのままにしておいて大丈夫なのでしょうか?」

「ああ、そう言えば何故か、急にお昼寝を始めてしまいましたね。まあ平気でしょう、怪我や病気をしたわけではありませんし」

「は、はあ……」


 とうやら御門様は、自分でも何をしたか分かっていない様子。しかしそれ故に怖い。


「すみませんね鳥さん、無理をさせてしまって。けど大丈夫です、この事でもし体調不良を訴えても、御門家自慢の医療班に連絡しましたから、何かあったら治療を行ってくれます。あなたは私の大切なお友達なのですもの、しっかり守りますわ。一生ね」


 笑顔でそう言ってくださる御門様。しかし私は、それを聞いて震え上がります。どうやら私は死して逃げることも許されないようです。


「……やっぱりあの時、三途の川を渡っていた方が良かったのかも」

「あら、何か言いました?」

「いえ、何でもございません」


 ガクガクと震える足を引きずりながら、私は御門様につれられて保健室を出ます。


 どうやら私の人生は常に、御門様に振り回される運命にあるようです……


                      

                             完

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