たった一人の学園生活……になんてさせはしないから
臨海学校も今日で終わり……何だか遊んでばかりだった気がするけど、今はそれは置いておこう。
最終日はあっという間に時間が過ぎていって、もう夜。だけど決して、後は眠るだけと言うわけではない。アタシ達が今いるのは、夜のビーチ。どうして夜にこんな所にいるのかと言うと、実は今夜はアタシ達桜崎生の為に、御門さんのお母さんが花火を打ち上げてくれているのだ。
真っ暗な夜空に、色とりどりの花火が咲きほこる。アタシはその綺麗な光景を、壮一と琴音ちゃん、それに空太と一緒に眺めていた。
「綺麗な花火だねえ。御門さんのお母さんも、たまには良いことをしてくれるんだね」
こんな綺麗な花火を見せてもらっているのに、少々失礼な言い草ではある。
ビーチには桜崎の生徒が数多く訪れていて、海上から打ち上げられる花火を眺めては、その幻想的な光景に見とれていた。見とれていたんだけど……
「おーほっほっほ!」
聞こえてくるのは、そんな幻想的な雰囲気をぶち壊しにしてしまう笑い声。目をやると、いつの間に作ったのだろうか?一昨日はなかったはずの巨大な
「おーほっほっほ、素晴らしい。ほら見てごらんなさい、鳥さん牧さん。こんな美しい花火ですわよ。おーほっほっほ!」
「「はい!その通りです、御門様!」」
気が散って仕方がないけど、この花火を用意してくれたのが御門さんのお母さんと言うことを考えると、今回ばかりは文句も言えない。何とも言えない空気になって、隣で同じように御門さんの事が気になっている空太と顔を見合わせて、互いにため息をつく。
「何だか御門さんが、某マンガに出てくる宇宙の帝王みたいに思えてくるよ」
「そうね。ちょうど両サイドにザボンとドリアンに該当する、鳥さんと牧さんもいるしね」
たぶん迷惑度ではそれにひけをとらないだろう。
あーあ、せっかくの花火なのだから雰囲気を作って、壮一と琴音ちゃんをラブラブにしてあげられたらって思っていたのに。チラッと目をやると、やはり壮一も琴音ちゃんも花火より御門さんの方が気になってしまっているようで、二人とも苦笑している。
仕方がない、今回は諦めるか。そう思っていたけど……
「春乃宮さん、春乃宮さん……」
不意に後ろから手を引かれる。振り返るとそこには、エリカちゃんの姿があった。
「あ、エリカちゃんも来てたんだ」
「はい。それより、お姉ちゃんがすみません。あれじゃあ気が散って、花火どころじゃ無いですよね」
「え?そ、そんなことないよー」
一応そう答えたけど、きっと気を使っての嘘だと言うことはバレバレだろう。だけどエリカちゃんはそんなこと気にする様子もなく、笑顔でこんな事を言ってくる。
「あの、皆さんさえよければ、ちょっと離れた所で花火を見ませんか?私、穴場を知っているんです。そこならさすがに、お姉ちゃんの声も聞こえませんよ」
「え、そんな場所あるの?」
よく考えたらエリカちゃんも、このリゾートのオーナーの娘なのだ。きっと何度もここを訪れているのだろうから、この辺りの事にも詳しいのだろう。
「どうする皆?」
そう尋ねると、壮一と琴音ちゃんが答える。
「それじゃあお言葉に甘えて」
「案内をお願いしても良いかな?」
「はい、任せてください」
エリカちゃんはご機嫌な様子で、アタシ達を案内していく。そうしてやってきたのは、海岸の隅っこにある岩場。確かにここなら御門さんの声も聞こえないし、花火もよく見える。
「こんな所があったんだ。ありがとうエリカちゃん、連れてきてくれて」
「これくらいどうってことないです。昨日は私が色んな所に連れて行ってもらいましたから、そのお礼ですよ」
はにかんだように笑うエリカちゃん。だけどその笑顔を見て、空太がポツリと呟く。
「あのさ、余計なお世話だってわかっているけど。君、俺達以外とも積極的に関わった方が良いんじゃないの?臨海学校中は一緒に行動できたけど、アサ姉達は高等部だからいつも一緒にいられる訳じゃないし。クラスの人達とも仲良くなった方が良いと思うけど」
「ちょっと、空太。いきなりなんてこと言うのよ⁉」
そりゃあそれができれば良いだろうけど、皆は御門さんを恐れて声すらかけられないでいるのだ。言ってることは間違ってはいないだろうけど、簡単にできたら苦労しないよ。
けど、空太を咎めようとしたアタシを、エリカちゃんは優しく制した。
「良いんです、私、今までずっと、どうせ仲良くするのなんて無理だって思って、クラスの人達と関わろうとしてこなかったんです。けど皆さんと過ごしてたら、やっぱり誰かと一緒にいるのって楽しいって思えてきて。日乃崎さんの言う通り、これからは自分から、皆と仲良くしていきたいです」
「エリカちゃん……」
どうやらこの数日の間に、人と遊ぶことの楽しさに目覚めたみたい。学校では御門さんの妹と言う印象があるから、仲良くすることに躊躇されることもあるかもしれないけど、この子は良い子なのだ。頑張ればきっと、ちゃんと友達を作っていけるだろう。
「頑張ってねエリカちゃん。御門さんの呪いになんて負けないで」
「うちのお姉ちゃんは呪いなんですか?……そうかもしれませんね」
そりゃあもう、平将門にも引けをとらない迷惑な呪いだ。だって御門さんだもの。
でも決して挫けちゃダメだよと激励していると、空太が再び口を開いてくる。
「学年は違うけど、俺は今年度いっぱい中等部なんだから。困ったことがあったら愚痴くらいは聞いてやってもいいから」
「え、良いんですか?」
「仕方ないでしょ。先輩なんだから、ちょっとは後輩の面倒くらい見るよ」
ほんのり照れ臭そうな様子の空太。素直じゃない、ぶっきらぼうな物言いだったけど、エリカちゃんの事を放っておけないという優しさが、確かに感じられた。空太はちょっとツンデレな所があるから素直に言えないけど、なんだかんだ言って良いやつなんだよね。
「なにさアサ姉、ニヤニヤして」
「ちょっとね。アタシの弟分は優しいなって思って」
「はぁ?訳分かんないよ。って、頭を撫でない。またそうやって子供扱いして!」
空太は手を振り払ってきたけれど、それでもアタシは頭を撫でるのを止めない。するとその様子を見て、壮一や琴音ちゃんも笑みを浮かべる。
「まったく。空太は素直じゃないんだから」
「けどちゃんと面倒見るだなんて、優しいね。さすが空太くんだよ」
「何なのさ、ソウ兄や琴音さんまで?」
むくれた空太を見ながら、アタシ達はほっこりとした気持ちになるのだった。
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