何かを思うエリカちゃん
ここでアタシの考えた作戦を説明しておこう。
それっぽい理由をつけてアタシと空太とエリカちゃんが、壮一と琴音ちゃんの元から離れ、オシャレなカフェで二人きりにしてあげる。つまり、デートをさせてあげようというものだった。
エリカちゃんと一緒に買い物に行きたいって言ったら、壮一は疑いもせずに見送ってくれると踏んだのだ。カラオケで歌っている途中で急きょ思いついたアイディアだったけど、上手くいって良かった。
エリカちゃん、だしに使っちゃってごめんね。お詫びに本当に、可愛い服の一つでもプレゼントするから。
こんな風に強引に連れ出してしまったものだから、エリカちゃんはちょっと困惑している様子。そんな彼女に、アタシはそっと語り掛ける。
「ごめんね、いきなりこんな事に付き合わせちゃって」
「それはいいですけど……やっぱり何かあるんですよね?」
「あ、分かっちゃう?」
実はエリカちゃんには詳しい説明はしていなくて、何かあったらアタシに話を合わせてって言っていただけだったんだけど。やっぱりこの子は鋭いようで、ただ服を買いに行きたいだけじゃないとって、すぐに見抜いたようだ。
「当然だよ、アサ姉強引だったもの」
「こら空太!……ごめんねエリカちゃん、これにはちょっと事情があるのよ。でも、決して悪いようにはしないから」
「はい、その辺は心配していませんけど、いったい何なんですか?」
首をかしげて尋ねられる。やっぱり気になっちゃうよね。
うーん、本当は言わない方がいいのだろうけど、こうして協力してもらっている以上、何も説明をしないというのも失礼か。まあエリカちゃんの事だから、きちんと口止めしていたら、壮一や琴音ちゃんに洩れる心配はないだろう。
「実はねエリカちゃん、連れ出した理由って言うのは……」
「聞かなくていいよ、くだらない理由だから」
「空太!くだらないとは何よ!」
思いっきり睨んでやったけど、空太は澄ました様子。一方エリカちゃんは、ますますよくわからないと言った顔になっている。
「ごめんね、空太が話の腰を折っちゃって。そうだねえ……百聞は一見に如かず。説明がてら、ちょっと様子を見に行ってみようか」
そう言ってアタシは踵を返して、元来たカフェの方へと引き換えしていく。
「え、戻っちゃうんですか?」
「戻るとは少し違うかな。確かにさっきのカフェに戻りはするけど……エリカちゃん、絶対に壮一や琴音ちゃんに見つかったらダメだからね」
「はあ……」
「ごめんね、アサ姉が変な事を始めちゃって。でもこれが平常運転だから、あまり気にしないで」
と言うわけで、アタシ達は再びカフェへと向かう。とはいえ中に入ると言うわけじゃ無い。近くまで来てみると、壮一と琴音ちゃんはオープンテラスに席を取っていて、少し離れた所からでもその様子を見る事ができた。
「エリカちゃん、空太、隠れて」
「は、はい」
「りょーかいりょーかい」
見つからないよう近くの建物の影に隠れて、二人の様子を窺う。壮一も琴音ちゃんも、注文した飲み物を口にしながら、何やら楽しそうに話をしている。
「うんうん、良い感じ。何を話しているのかは聞こえないけど、良い雰囲気じゃないの」
「はい、まるでデートみたい……あ、ごめんなさい」
突然謝ってくるエリカちゃん。けど、何でこのタイミングで謝るの?首をかしげていると、エリカちゃんはおずおずと口を開く。
「あ、あの。春乃宮さんは良いのでしょうか?風見さんと倉田さん、だいぶ仲良く見えますけど?」
「何言ってるの、良いに決まってるじゃない。実はね、元々二人をデートさせるために、エリカちゃんや空太を連れ出しちゃったんだ」
「えっ?」
「ごめんね、でもわかって。これも壮一と琴音ちゃんを、ラブラブにさせる為なの。壮一ったら紳士なんだけど、その分奥手みたいで、あんなにお似合いだっていうのに中々進展しないんだもの。だからちょっと強引にでも、二人きりにさせて距離を縮めさせようって思っているんだよ」
連れ出した理由と、二人をくっつけようと画策している事を話していく。お似合いの二人をくっつけたいという子の気持ち、エリカちゃんなら分かってくれるよね。
だけどエリカちゃんは何やら困惑した様子で、アタシとオープン席に座っている壮一を交互に見る。
「え、ええと、でも。春乃宮さんは風見さんの事が好きなんじゃなかったんですか?それに風見さんの方だって……」
「うん、もちろん。アタシは壮一の事大好きだよ。だって親友だもん。だからその親友の為に、こうして陰ながらサポートしてるってわけ。おっ、何を喋ったのかは聞こえないけど、二人とも笑いだした。よし、いけ!そのまま手くらい握っちゃって!」
「アサ姉、やってることが完全に覗き魔だよ。警察に通報されそうになったら、すぐに逃げるからね」
空太が呆れたように言ってるけど、大丈夫。そんなヘマはしないから。一方エリカちゃんは依然として納得がいかない顔で、空太に話しかける。
「あの、日乃崎君。春乃宮さんはこう言ってるけど、風見さんって……」
「お察しの通り。俺もアサ姉のポンコツ具合には手を焼いているんだけど、いつもこんな感じなんだよ」
何やらまた空太がアタシの悪口を言っているけど、今はツッコまない。下手に騒いで、壮一と琴音ちゃんに気付かれちゃったらマズいからね。
「アサ姉ったら、自分の事はどうでもいいくせに、あの二人の事となると御門さん並みにおかしくなるんだから。もうちょっと、自分の事にも目を向けてくれてもいいのに。あと、俺の事にも……」
「日乃﨑君、もしかして……」
エリカちゃんが何かを言いかけたけど、すぐに口を噤む。そしてアタシはそんな事よりも、カフェにいる二人に夢中だ。だけどとうとう空太が痺れを切らしたように、アタシの手を引っ張ってくる。
「アサ姉、いい加減もう満足でしょう。ソウ兄達には服買ってくるって言ってあるんだから、ちゃんと買っておかないと怪しまれるよ」
「うん、それもそうだね。まああの二人はもう放っておいても大丈夫そうだし、アタシ達はゆっくりお買い物をしようか」
「やれやれ。大丈夫じゃないのはアサ姉の方だよ」
空太が悪態をつきながら歩き出し、その後ろをアタシとエリカちゃんがついて行く。だけど歩いている途中、エリカちゃんがアタシをじっと見ている事に気が付いた。
「何、エリカちゃん?」
「……何でもないです。それより、早く行きましょう。いくら風見さん達を二人きりにさせたいからって、遅くなりすぎたら夕方の点呼時間に間に合わなくなっちゃいますよ」
そう言ってエリカちゃんは速度を上げる。
何だろう?何でも無いと言った割には、ちょっと気になる表情だったけど……まあいいか。
アタシは考えるのを止めて、二人を一緒に街を歩いて行くのだった。
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