やってきたその人は……
白熱していたビーチバレーが終わる。
応援団は歓喜の声を上げ、事態を見守っていた桜崎の生徒達はホッと胸を撫で下ろす。アタシ達はわざとらしくないよう接戦を演じながら最後には負けるという接待バレーを、見事にやりきったのだった。
「おーほっほっほ!勝ちましたわよー!」
「おめでとうございます、御門様!」
「本気を出せば春乃宮さんなんて、手も足も出ません!」
好き勝手言ってくれているけど、もうどうだっていいよ。
「おーほっほっほ!ですが牧さん、少し違いますよ。わたくしはまだ、全力を出していません」
「「本当でございますか、御門様⁉」」
「ええ、実はわたくし……変身があと二つ残っていましてよ」
「「流石でございます、御門様!」」
……あと二回変身ができるのか。できれば一生拝みたくないよ。
勝利に酔い、ご満悦の御門さん。一方アタシ達も、ようやく終わってくれたことに安堵していた。
「三人ともお疲れ様。大変だったね」
空太が労いの言葉をかけてくれる。確かに大変だったけど、御門さんの機嫌を損ねてしまうよりはマシだろう。
「良かった良かった。大事にならなくて良かった」
「まさか従業員全員が御門さんのシモベだったとはね。勝ってしまった時のことを思うとゾッとするよ」
もしも勝ってしまっていたら。その時は御門さんがヒステリックを起こして、シモベたちを使って何をしていたか。恐ろしい所へ来てしまったものだと、改めて思う。
それにしても、今日が桜崎の貸しきりで本当に良かった。だってあの御門さんとその取り巻き達の奇行を見たら、きっと桜崎の品位を疑われてしまうだろう。そうならなくて本当に良かった。
「御門さんも、自分のしていることがおかしいって思わないのかな?このビーチを見ても、あんなおかしな人は御門さん以外にはいないっていうのにね」
いったいどんな思考の元動いているのだろうか?元は乙女ゲームのキャラだけど、きっとスタッフはインパクト重視でキャラ作りをしたのだろうなあ。まさかその世界に転生したアタシのような人がいるなんて考えていなかっただろうから無理無いけど、もうちょっと人に迷惑をかけない性格にしてほしかったよ。
しかし、そんなことを考えていると……
「アサ姉、さっき言ったこと、ちょっと違ってるかも。どうやら御門さんの他にも、常識を逸脱したおかしな人がいたみたいだよ」
「はあっ⁉」
空太の言葉に、思わず耳を疑う。何を言ってるのかなこの子は?
「まさかあ、冗談言わないでよ。御門さんみたいなおかしな人、いるわけ無いじゃん」
「だったら良かったんだけどね。アレを見てみなよ」
疑わしい思いで空太の指差す方向に目を向けて……絶句した。何あれ⁉
「旭ちゃん、アレって……」
琴音ちゃんも思わず呆気にとられている。視線の先にあったのは、ビーチにあるにしてはあまりにも不自然な……赤絨毯だった。
まるでどこかのランナーウェイのように、いつの間にか赤絨毯が長く敷かれていた。
更にその周りには、御門さんのシモベと同じ格好をした黒服の男達がたむろしている。そして極めつけは、赤絨毯の上を歩いている一人の人物。それはゴージャスなドレスに身を包み、綺麗なブロンドヘアーをなびかせた女性だった。
「旭、あの人って……」
「うん、間違いないと思う」
赤絨毯を歩いているのは、アタシや壮一の知っている人。先導する黒服の男は、赤絨毯をこっちに向けてきて、私達の近くまで女性を誘導してくる。
するとそのおかしな一団に気がついたのか、このままビールかけでもしそうな勢いだった御門さん達もそっちに目を向けた。
「おや、あそこにおられるのは……」
「あの方は……間違いございません」
鳥さんと牧さんが、絨毯の上を歩く女性を見る。そして御門さんも、その人を見て驚きの表情を浮かべる。
「あれは……お母様⁉」
……うん。御門さんと同じくらいおかしな人、その正体は御門さんのお母さんなのである。
御門さんのお母さん。実はゲームあな恋では出番がなかったのだけど、御門さんだってなにも空気中から突然出現したわけじゃ無い。この世界には当然お母さんが存在しているわけで、他にもゲームでは設定だけあった御門さんの妹なんかもいるんだけど……おっと、妹のことは今はいいか。問題は目の前にいるこの人だ。
御門家の現当主にして、御門さんに負けないくらいぶっ飛んだ人。それが御門さんのお母さんなのだ。
アタシ達が呆然と見つめる中、赤絨毯はすぐそばまで伸びてきて。やってきた御門さんのお母さんは、桜崎の生徒達を一瞥して言った。
「ごきげんよう、桜崎学園の生徒の皆さん。娘の受理が、いつもお世話になっているザマス」
瞬間、それを聞いたほとんどの人が耳を疑った。
御門さんのお母さん……それは台詞の語尾に『ザマス』とつける、とっても個性的な方なのである。
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