ビーチバレー対決?

 アタシは壮一と琴音ちゃんをくっつけるのに忙しいと言うのに、構わないでほしいよ。しかしそんな願いも虚しく、御門さんは一人で話を進めていく。


「春乃宮さん、アナタは今お暇ですか?お暇ですね。それなら少々、わたくし達の遊びにお付き合い下さいませんか?」

「いや、暇じゃないから。それに御門さんの遊びって、嫌な予感しかしないんだけど、何をさせるつもりなの?スイカの代わりに砂に埋まった人の頭を割る頭割り?それとも人食いサメとの水泳対決?」

「春乃宮さん!アナタはわたくしを何だとお思いですか⁉」


 だって相手は御門さんなんだもの。まあとは言え、さすがに言い過ぎたか。いくら御門さんでも、さすがにそこまで常識がない訳じゃ……


「失礼なことを言わないで下さい。それらの遊びは、前に警察からお叱りを受けて以来自重していますわ」

「そうでございます。やるにしても大っぴらには致しません!」

「足がつかないよう注意を払っています!」


 やったことあるんかい!しかもこの口ぶりだと、もしかして今でもコッソリやっているんじゃ……いや、深くは考えないでおこう。想像すると怖い。

 震えそうになるのを堪えていると、壮一がアタシ達を守るように前へと出る。


「御門さん、それじゃあ何をする気?出来れば血を見るような遊びは避けたいんだけど」

「ご安心を、ただのビーチバレーですわ。人数が足りないから、声を掛けて差し上げただけですわよ」


 何だか上から目線の物言いが癪に触るけど、何だビーチバレーか。もっと恐ろしいものを想像していたよ。御門さんにしては珍しい、ごくごく普通の提案に、ホッと胸を撫で下ろす。


「そんなわけですので、お付き合い下さいませんか?」

「今回こそ迷惑はお掛け致しません。普通のビーチバレーをするだけでございます」


 懇願してくる鳥さんと牧さん。確かにビーチバレーなら大事にはならない気がするけど、どうしよう?


「どうする?せっかくだから付き合ってあげる?」

「相手は御門さんだけど、まあこれなら」

「私も旭ちゃんが良いなら」


 壮一も琴音ちゃんも、一応承諾の意思を見せる。空太は不安そうな顔をしていたけど、「面倒だと思ったらすぐに逃げるよ」と言った後に、賛成はしてくれた。

 皆やっぱり、そこはかと無い不安はあるだろうけど、御門さんから逃げるのは難しいと思ってさっさと終わらせようとしているのだろう。


「御門さんというわけで、アタシ達は構わないよ」

「ありがとうございます、ではさっそく準備に取りかかりましょう。鳥さん牧さん……」

「はい、少々お待ちください」

「皆様、カモン!」


 え、皆様って?

 不思議に思っていると、どうだろう。ビーチの向こうから、夏の浜辺に似合わないサングラスに黒いスーツを来た怪しげな集団が、こっちに向かって駈けてきた。って、何だあれ⁉

 しかし驚くアタシ達をよそに、鳥さんと牧さんはその黒服達に指示を出していく。


「無線で連絡した通りでございます。御門様はビーチバレーがご所望です」

「直ちにセッティングを行ってくださいませ」

「「「はい、全ては御門様の為に!」」」


 声を揃えて返事をした黒服達は、突如現れた怪しい集団に呆気にとられている桜崎の生徒達を退かしてスペースを作り、どこから持ってきたポールやネットを立てて、ビーチバレー用のコートを作っていく。その手際のよさときたら……まるでどこかの兵隊のようだ。


「御門さん、何なのこの人たちは?」

「何って、ここの従業員の方々でございますわ」

「ただの従業員がここまでする?従業員というよりは、従順なシモベみたいなんだけど?」


 疑問を挟むと、それに答えるべく鳥さんと牧さんが口を開く。


「何を当たり前の事を仰っているのですか?ここは御門様の国のような場所なのですよ」

「そこで働く人は皆、御門様の家来のようなものでございます。ですよね皆さん?」

「「「はい、全ては御門様の為に!」」」


 ……つまり、全員が鳥さんと牧さんのような、従順な人達ってわけね。

 納得はしたけど、同時にゾッとする。こんなのまるで独裁国家じゃない。臨海学校に来たはずが、御門帝国って呼んでも良いような所に来ちゃったよ。見れば壮一も空太も琴音ちゃんも、その他桜崎の生徒達皆が、青い顔をしている。


「俺、今からでも帰るわ」

「バカ、ここで露骨に失礼な態度をとって、御門さんの怒りを買ったらどうするんだ?」

「消されるかもしれない。あの人ならあり得る」


 皆が皆不安な気持ちになっていく。そんな中ビーチバレーの準備は完了して、ビーチには立派なコートが出来上がった。ついでに『必勝!御門様!』と書かれた巨大な段幕も掲げられ、いつの間にやらやってきた御門さん応援団もビーチを埋め尽くしていた。


「「「頑張れ―――ッ!御門様―――ッ!」」」


 辺りは異様な熱気に包まれる。この暑さは決して、太陽のせいだけじゃないはずだ。本当なら今すぐに逃げ出したかったけど、御門さんそんなアタシ達を見逃してはくれなかった。


「それでは春乃宮さん、始めましょうか」

「あ……うん、そうだね」


 しぶしぶ頷いてコートに立つ。こうなったら勝ち負けなんてどうでもいい、即効終わらせるしかない。

 そもそも周りを御門さん応援団に囲まれたこのアウェイの中では、どのみちまともにプレーすることなんててきないだろう。同じくコートにたった壮一と琴音ちゃんに、そっと声をかける。


「もし勝ったりしたら余計に面倒なことになりそう。負けてもペナルティは無いなら……やることはわかってるね?」

「もちろん」

「うん、やってみる」


 二人ともすんなりと了承してくれる。

 何せここは御門さんが支配する土地なのだ。郷に入れば郷に従え、アタシ達は全力で負けにいった……

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