「お? 勢いが減ってきたな」
エリック達が血騎士と戦っている頃、カイン・バレッドは『
「お? 勢いが減ってきたな。俺様の努力が実った結果か?」
血騎士の数が減ってきて、余裕が生まれるカイン。そろそろ撤退することを考えていたのだが、この勢いなら押し返せそうだ。
まあ実際は、エリックの方に血騎士が向かった為にカインに向かう数が減っただけなのだが。
「行くぞ、アコニ」
「黙れクソ。一緒に死ね」
アコニと呼ばれら少女――『
「ふははははは。生意気生意気。ベッドの中とは大違いだ」
「あれは接触行為による脳内物質分泌の結果だ。人体は化学物質に逆らえるようにできていない」
「だったら俺に勝てない事も理解しているわけだ」
「いつか殺す」
背中越しに悪態をつくアコニ。その言葉には明確に殺意がこもっている。
カインに拾われてから、夜通しイロイロされた後に冒険者登録をされた。犯罪者であることは分かっているようだが、無理やりねじ込んだらしい。
「んなもん、バレなきゃいいんだよ。ま、バレたら切り捨てるけどな」
そう言って笑うカイン。親の権力と自分のジョブの恩恵を最大限に生かし、ワガママを通す。それがこの男だった。
その後、何度か冒険者として共に行動し、カインを狙う女性からは『新しい女かぁ。まあよろしくね』と歓迎されているのかいないのかわからない言葉を投げかけられ、さらにこの男がクズであることを知った。
「今は利用してやる。いずれスキをついて殺し、金品奪ってやる」
アコニがカインについていく理由は、彼の持つ経済だ。逃亡するにせよ資金がいる。冒険者と言う仕事を隠れ蓑にして、いつかカインを殺して逃亡資金を稼いで逃げる。
「そうね。そういう娘は何人もいるわ」
「ま、頑張るんだね。カイン様は簡単に殺せないから」
黙っていたのにそれを察した
(それ以降、ずっと殺そうとしているのに――)
飲み物に毒を混ぜても、水の精霊で浄化される。食べ物なら火の精霊で。風に毒を混ぜても風の精霊で弾かれ、針刺しで体内に毒を注入しようとしたら土の精霊に阻まれる。
今もスキを伺っているが、何をどうやっても毒を与えることはできそうにない。
「ぶっ殺す」
「おう。やってみろ。全力で抵抗してやる」
「いつか苦しませて殺してやる」
「それまでに何度俺に抱かれるかだな。お前、スキルの使い過ぎでぶっ倒れ過ぎなんだよ。加減を覚えろ」
生きる事に目的を見出せなかった『毒使い《ポイズンマスター》』は、いつしかカインを殺すことを目的に生きていた。金を奪って逃げることが目的だったのに、その事は既に脳内にない。
カインは『
(こういう人生行き詰ったガキをオトすには、これが一番王道だな。
今は貧相だが、成長したらいい感じになるだろうぜ。あとスキルも超便利だ。適度に調教して、子飼いの暗殺者にするのもいいかもな)
カインがクズであることには変わりはなかった。
「そんじゃ貴族街に入るぞ。貴族たちが生きていれば恩を売って、死んでたら物奪う」
「火事場泥棒か。クズだな」
「お前だって金はいるだろうが。毒もただじゃねえんだろう?」
そう言われれば反論できない。ともあれ貴族街に足を踏み入れたカインは――その光景に驚く。
「なんだぁ?」
「どうした? 何を驚いているのかが分からん」
アコニはカインが驚く理由に見当がつかなかった。目の前にあるのは、美しい街並み。ゴミ一つ落ちておらず、国防騎士が周囲を見守っている。そんな絵にかいたような『貴族の住む街』だ。
「いや、おかしいだろ? 外はあんだけの混乱だぞ。あの騎士らがここまで来たんなら、こっちも荒らされてないとおかしいだろうが。
何もないのがおかしいんだよ」
一般人が住む街中は、魔物が責めてきて町の終わりを思わせる空気だ。
なのに一つ区域を隔てた貴族街は、何の変化もない。
「冒険者か? ……いや、バレッド家の者か。
聞けば冒険者という遊びに興じているようだが……その服の汚れはこの街には似合わないな」
カインの姿を見て、国防騎士の一人が声をかけてくる。捕縛してくるつもりはないが、警戒はされているようだ。
「いや待て。あんたらあの赤い騎士とか知らないのか? 街中に伝達魔法で心臓捧げないと死ぬとか聞こえなかったのか?」
「? なんだねその物騒な話は? そのような連絡は受けていないぞ」
おいおいおい。
カインは疑問に思ったが、それ以上は何も言わずに踵を返す。
「どういうことだ。クズ」
「わからねぇ。だが、貴族街に何かあるのは確かだ。
いったん戻って情報整理だ。事と次第によっちゃ、貴族街で暴れるかもしれないからな」
平和を保たれた貴族街。そこにこの襲撃に関する何かの意思があるのなら――
「ソイツを解決すれば、俺様は大英雄間違いなしだな。運が向いてきたぜ!」
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