「ちょっと待った!」
「ちょっと待った!」
手錠に繋がれたエリックが叫ぶが、一歩遅かった。
「いきなりエリっちに何してくれるのよ」
「そうだぜ。ケンカならいつでも買うぜ」
「
クーの糸が縛り、ネイラの拳が穿たれ、ケプリの泥の玉が押し潰す。コンマ一秒でカインは倒れ伏していた。
いきなり殺人犯扱いされたかと思うと、一秒も経たないうちに犯人扱いしてきたカインが三人にKOされていた。流れるようなコンビネーションである。
エリックは三人の気配に気づいて制止を掛けようとしたが……間に合わなかった。額を押さえ、絞るように声を出す。
「あー……。うん、皆躊躇しなさすぎ」
「なんでエリっちは怒らないのよ。明らかに濡れ衣じゃん」
「まあその、あまりのことに呆然としていたというか……」
頬をかきながらエリックは倒れているカインを見る。泥団子を動かそうと必死にもがいているが、びくともしない。
「なんだ、この土!? 土の精霊でどかせねぇだと!」
「そう。それが
「何言ってるんだ、チビッ子?」
「すみません
「いやだから待って。ええと、とりあえず殺さない方向で」
おお慈悲深き
「くそっ、俺に逆らうとどうなるかわかってるのかエリック! 早くどかさないと後で怖いぞ!」
「ええと……いきなり犯人扱いしたのはどうして?」
「ああん!? お前以外にあり得ないんだよ。あんな殺し方するなんて」
「人を殺したことなんてないけど……どんな殺し方だったの?」
全くもって濡れ衣だが、誤解があるなら解かなくては。その意味を込めてカインに問いかける。
「国防騎士の情報によるとなぁ、被害者は全員蟲の毒でもがき苦しんだ跡があったんんだとよ」
「……はい?」
「毒を使う蟲を操って苦しんでいる所を殺したんだろ……ぐぺ!」
「それ以上しょーもないこと言ったら踏むわよ」
「いや、もう踏んでるから。クー」
首のあたりに強い衝撃を受けたカインは、そのまま沈黙する。怒りの表情を隠すことのないクーは、そのまま足をどけずにカインに向けて叫ぶ
「エリっちが人を殺せるわけないじゃないの。決めつけで殺人犯とか頭おかしいんじゃないの!」
「蟲の毒で死んだんだからこいつの仕業で決まりだろうが!」
「あー、もう頭来た! このまま力込めて――」
「クー、ストップ! 落ち着いてー!」
「エリっちにそんな疑い掛けられて落ち着いてられないわよ! ジョブじゃなくエリっちを見ろ! どいつもこいつもー!」
エリックに羽交い絞めにされ、どうにかカインから足を話すクー。
「ほら、僕が蟲使いでいろいろ言われるのはもう仕方ないから」
「仕方なくない! エリっちがエリっちとして見られないのが仕方ないわけないじゃないの!」
「そうだな。大将の本質を理解されないのはムカツクぜ」
「
エリックの中ではもうどうしようもない現実として諦めた事項を、クーとネイラとケプリは真っ向から否定する。
そんな現実は間違っている。そんな現実は殴って変えたい。たとえエリックの言葉でも、いいやエリックの言葉だからそこだけは認めない。
「いやでも」
「でももかももなし! とにかくエリっちが通り魔とかあるわけないから!」
「まあそれはそうなんだけど」
けど、の言葉にクーの機嫌が一段階悪くなったのを感じたエリック。あとが怖いなぁ、と思いながらカインに問いかける。
「カイン、さっき言ってたことは本当なの?」
「ああん? お前が犯人だって事か」
「蟲の毒でもがき苦しんだのを国防騎士が調べた、って所なんだけど」
「おうよ。兄貴からの確かな情報だ。今から自首するか? なら俺が付き添ってやるよ。依頼料ははした金だが、今を揺るがす連続殺人鬼を捕まえたって言う名声は美味しいからな」
泥の玉に押しつぶされながらも尊大な態度をとるカイン。ある意味大物である。
「欲望駄々洩れだな、コイツ」
「というより、この状況で良くそう言えたものです。
「しないからね。いや、それより今は――」
カインの態度に半眼になるネイラとケプリ。エリックが自分に逆らうはずがないと高をくくっている態度だ。強気で押せばこの状態を解除し、そうなればこっちのものだという態度がアリアリである。
流石にエリックもこの状態でカインを開放して言う事を聞く気はない。
というか、そんな余裕がなかった。エリックは急ぎカインのポケットから手錠の鍵を見つけ、急ぎ外す。そのまま皆を連れて移動しようとし――
「国防騎士だ!」
その前に冒険者ギルドの扉が開かれる。一枚の書類を持った騎士が高らかに宣言する。
「エリック・ホワイト! 汝には昨今街で発生している連続殺人の容疑がかかっている! これは正式なオータム国防騎士の逮捕状だ!
汝を連行する! 抵抗するならこちらもそれなりの態度をもって示させてもらおう!」
国防騎士。国により構成されたこの町の治安組織。その実働部隊。
それがエリックを捕まえに来た――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます