「――結局、僕に出来るのはこれだけなんだよな」
アシッドスパイダー。
D+ランクの虫型魔物だ。単体の能力で言えばそれほど強くもなく、糸で絡めたり金属に対する腐食毒を吐いたりする程度。鉄製武器を持つ冒険者には厄介だが、逆にそれ以外ならある程度経験を積んだ冒険者なら苦戦しない。
(そうとも。相手はアシッドスパイダーが一体。ここにはワシを守る小型
(アシッドスパイダーが糸を吐こうが毒を吐こうが、その一手で終わり。ワシの可愛い
アルフォンソの推測は正しい。
アシッドスパイダーは魔物の中でもそれほど強くないのだ。単純な戦闘能力で言えば人間大サイズのタコゴリラ
そして何よりも、ここはアルフォンソの陣地。体長5cmにも満たないが高速で動き暗殺する
そう考えれば、心に余裕が生まれる。隙を見せるつもりはないが、軽口の一つも浮かぼうモノだ。
「ドアの修理代を支払ってもらいたいものじゃな、エリック・ホワイト。最も、失敗続きの君には支払えない額なのじゃが」
「う。その、すみません。でもそっちも誘拐とかしてるんでチャラってことで……別にクーに値段をつけてるとかじゃないんだけど、その!」
「噂通りじゃのぅ。弱気で謝ってばかり。逃げてばかりの弱虫使いというのは本当のことじゃったか」
「……はい、その、通りです」
「オータム冒険者ギルドのお荷物。五十回連続依頼失敗。追い抜かれた新人四十三名。大陸冒険者ギルド内でもぶっちぎりの最下位記録更新中。いつ冒険者を諦めて引退するかの賭けまで行われてるそうじゃな」
「うううううう」
度重なるアルフォンソの精神攻撃に心が折れそうになるエリック。事実というのがまた悲しい話だ。
「姫、このような情けない男からの<
「……まー、そのー。あーしもここまでヘタレるのはアレかなーって思う時はあるけど」
「うむ。人の価値を甲斐性や野心の高さで決めるつもりはないが、ここまで情けないとのぅ。調べた噂もある程度は盛られたものかと思ったが、これは……」
「うーん。こういう時はカッコいいことを言ってほしかったなー、っていうのが乙女心っていうか」
「色々ごめんなさい!」
散々な意見に反論もできずに頭を下げるエリック。
「まあ、ドアの弁償代は肉体で支払ってもらおうかのぅ」
「ええっ!? ジジイにアレコレされるエリっちとか、それはそれでアリアリの――」
「人間パーツの
「うん。そーだとおもった。てへぺろ」
「いや、どっちの意味でも困るけど」
「エリック・ホワイト。今逃げるなら追わずにいてやろう。これが最後通告じゃ」
「あ。それはこっちのセリフです。今すぐクーを開放するなら、許します」
「――ほう?」
はっきりと言い放つエリック。先ほど謝ってばかりの雰囲気とは大違いだ。
いいや、違う。雰囲気は変わらない。ただ、そこだけは謝るつもりはないという
思えば二人は似た者同士だ。エリックとアルフォンソ。蟲使いと
状況は何も変わらない。アルフォンソの優位は変わらない。使役する相手の数も実力も圧倒的にアルフォンソが優勢だ。アシッドスパイダー一匹程度で、
(……うん。同時に<
対してあの老人はアシッドスパイダーの動きを注視している。戦士系ジョブじゃないだろうから避けれないかもだけど、不意打ちが無理な以上<
かつてこの老人と相対した時に見た小型の
みんなの言う通りだ。エリック・ホワイトは依頼を連続で失敗し、後輩には追い抜かれ、冒険者の中でも記録に残るほどの最下位だ。逃げてばかりの弱虫使いと直で言われたこともある。
自分に胸を張る事なんてできやしない。自信なんてあるはずがない。
それでも、誰かを助けることを放棄することはしたくない。
――かつて、自分が助けられたから。
『エリっちー!』
『秒で片づけるわよ!』
『もう、しょうがないなー』
その笑顔に、その態度に。何度助けられただろう。何度躓いて、その時に思い出して頑張ろうと思っただろう。
(――結局、僕に出来るのはこれだけなんだよな)
「お前達、『あの男を殺せ』」
「『僕を守って』――」
命令を終えた速度はアルフォンソが先。複数個体に<
対し、エリックが命令する相手は単体。大雑把な命令だが、命令される側がそれを意識して且つそうしたいのなら、わずかな速度差は覆る。
エリックが命令する相手。それは言うまでもない――
「――クー!」
「もー、そんなのあったりまえじゃない!」
エリックの<
虫除けの効果を持つ香油を、スキルによる効果とクー本人の意志で跳ねのける。クーを拘束する
『
コンマ一秒で自由を取り戻したクーの十指から、糸が解き放たれた。
『
『エリックを守る』……その為に何をすればいいかを理解していれば、大雑把な命令はむしろ拡大解釈さえできる汎用性の高いモノとなる。部屋中に粘着性の高い糸を放ち、エリックに向かう
「……っ! た、すかったぁ……」
エリックの目の前まで迫っていた
「いえーい! エリっち、いえーい!」
「……いえーい」
こちらに親指を立てて勝利を祝うクーに向けて、エリックも座り込みながら弱々しく親指を立てた。
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