「よっわ」
――でも、こんな『蟲使い』の自分だからこそ繋がった絆がある。
――それを、手放したくなかった。
……などと意気込んでは見たものの。
「よっわ」
エリックとエンプーサの戦闘力は比べるまでもなかった。
エリックがカマキリを操れると分かっている以上、エンプーサはカマキリを退去させ、そのままエリックを押さえ込むだけで済む。勝負は数秒で決着がついた。
「アラクネや森の聖人を仲間にしているんだからそれなりには、って思ってたんだけど何それ? 拍子抜けしたわ」
「……ええ、まあ。はい」
返す言葉もございません、とエリックは答える。自分の上に馬乗りになるサキュバスを見上げていた。豊満な胸、整った唇、柔らかそうな太もも。すみません男の子なんで色々目がいっちゃいます。
「ほんと、ザコ。まだ前に来た連中の方が抵抗できたわよ。心も血も精も肉も、美味しく頂いたけど」
「……血? サキュバスが血液を吸うって初めて聞いたんだけど」
「私は特別なのよ。人間のありとあらゆるものを喰らうの。そうしてあの子達を産むよ」
あの子達、というのはカマキリの事だろう。エンプーサの眷属と言った所か。
「美味しい契約だと思ったけどアラクネや聖人に攻撃されるわ、アンタみたいなクズに自慢の<
お返しに、アンタにはたっぷり奉仕してもらうわ。夢から覚めない方がよかった、って思うぐらいに」
「奉仕って……いや、その」
サキュバスに奉仕。
ナニすればいいんだろうといろいろ想像するエリック。桃色な妄想が色々浮かぶ。
『さあ、足を舐めなさい』
『犬のように鳴きながら舐めなさい。私の許可なく、人間の言葉を喋ってはダメよ』
『へたくそ。まあいいわ、次はココよ。私を気持ちよくさせなさい』
そんな桃色妄想に耽るエリックの耳に、エンプーサの言葉が届く
「先ずは逃げられないように手足を切り落として――」
駄目だ、本気でやばい。妄想は一気に吹き飛び、どうにかしないといけないと慌てるエリック。
「クー、『起きて』!」
エリックは叫ぶと同時に<
「ひゃわああんん、
……前にもクーに注意されたが、命令はクーの肉体と精神にあまりよろしくない影響を与えるようだ。エリックもできるだけ使いたくなかったが、色々ピンチなので仕方なかった。
「へ? 俺様イケメン勇者は? あまフェイス聖騎士とショタ盗賊とツンデレ剣聖は? あれ、夢? にゃあああああああ!」
何やら恥ずかしい夢を見ていたのか、頭を抱えてごろごろと地面を転がるクー。なお前に戦ったままなのか、下半身蜘蛛状態である。悶えるたびに六本の蜘蛛の脚がじったんばったん地面を叩いていた。
「あの、クー。起きていきなりで悪いんだけどたすk――」
「エリっちを殺してあーしも死ぬ!」
「落ち着いて! いや、このままだと本当にみんな死にそうだから!」
「って! 何エロイことしてるのよエリっち! そこ退け痴女!」
ほぼ全裸のサキュバスに馬乗りにされているエリックを見て、怒りの声をあげるクー。そのまま糸を放ち、サキュバスに解き放った。エンプーサは血の翼を広げ、空気を叩いてエリックから離れる様にそれを回避する。余裕の回避に見えるが、
「……うそ? 人間如きのスキルで<
エンプーサの内心は驚きで揺らいでいた。ありえない。目の前の現象が理解できない。そんな心理だ。
相反するスキルの効果が重なった場合、スキルを使った者同士の
(ありえない。いくら虫専用のスキルでアラクネに対して威力が強化されているにしても、
ありえるとすればアラクネがあの人間を心から信頼していて、抵抗なしで命令を受けたぐらい。でも魔物が人を信頼するなんて、それこそありえない!)
魔物は強い。一般的な人間よりも圧倒的に。
エンプーサはエリックの弱さを知っている。そして人間社会で負け組と言ってもいい扱いを受けた心の傷を持っていることも知っている。そんな人間を信頼? 自分よりもはるかに弱く、落ちぶれて社会的に利用できない相手を?
まだエリックが特殊な
(うーあー。イケメンに囲まれてたらいきなり現れたエリっちに誘拐されてベットで組み伏せられるとかマジアウト!
<
まあ実際は、クーとエリックの信頼……というよりは毎日エリックの
しかしエンプーサにはわからない。夢魔の呪縛を振りほどくほどの人の
「……そう、私を謀ったのねファーガスト。まさか存在しないはずの【
蟲使いなんてジョブで騙していたけど、貴方のジョブは
「え? あの」
「そうよ。私の<
でも魂はともかく、まだ肉体は未覚醒のようね。なら今のうちにその
エリックが持っているであろう特殊な
「……どしたの、あの痴女?」
「さあ……? あの、落ち着いてもらえます? あとできればネイラも起こしていただけると――」
「怒りを抑えて冷徹にならないと勝てない、っていう忠告かしらミスター
いいわ。貴方達に<
え? え?
戸惑うエリック。戦意を膨らませるエンプーサ。
「さあ、その魂を頂くわ!」
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