「エリっちって蟲使いなんだよね。何が出来るの?」
ハクショクカラカサを求めて、エリックとクーは山を歩く。
道すがら喋るのはクーで、エリックはそれに答える形で会話が進んでいた。
「サーニャ――そのダンジョンエリアの支配者やってるハーピークイーンなんだけど、めっちゃ堅物なのよ。やれ『集団で行動しろ』だの『糸で遊ぶな』だの。もー、ムカ着火ファイアアアってなったからバイビーしたのよ」
話題はクーが昔住んでいたダンジョンの話になっていた。
「だいたいさぁ、空飛べるのに穴の中に居るとかどんだけー、よ。群れないと行動できないとかメンディーんだから。グループに入らない相手は鬼無視するから空気がギスるの。マジイミフ」
エリックも単語一つ一つの意味は解りかねるが、ニュアンスで何が言いたいかを理解していた。そっかー、とかたいへんだねー、とか相づちを打っていた。魔物の社会も色々あるらしい。
「そーいえば、エリっちって蟲使いなんだよね。何が出来るの?」
そして話は唐突にこちらに振られる。急な話題変換に驚きながら、エリックは指を折りながら答える。
「えーと、虫の癒しと、虫の感覚を共有するのと、虫の情報を調べるのと、虫に命令する……かな」
「ふーん……どんな感じなの? あ、癒しは知ってるからパスね」
「<
「んー。よくわからんちん」
言われてエリックは苦笑する。蟲使いのスキルを説明して、たいていの人間はそういう答えを返す。虫の感覚って何だよ、とか。虫の情報って役立つのか、とか。
「でもあーしには効くんだよね?」
「まあ、<
「だったらぁ、あーしに使ってみてよ」
「え?」
「かけられたら『あーね』ってなるかもしれないし。ねーねー、やってみてよ―」
だだをこねるように腕を引っ張るクー。
拒否したら延々と続けそうな雰囲気に負けて、エリックはため息をついた。一度やれば納得するだろう。
「じゃあ行くね。先ずは<
言ってからクーを意識して、スキルを発動させるエリック。
エリックはクーの視界を共有していた。その視界には自分が映っている。今はクーが人間の形をとっていることもあり、目新しい感覚はない。
「ほわあああああ!? 目の前にあーしがいる! やんやんあーしかわいい!」
そして共有していることもあり、クーはエリックの感覚を得ていた。虫相手だと知性の差でこんな反応が返ってくることはないので、新鮮だ。
「ねーねー。オトコノコの体、って弄っていい? どんな風に感じるのか興味アリアリなの」
「やめー! 手をわきわきさせながら僕の体に近づかないで! 感覚共有してるから自分から近づいている感覚なんだけど!」
「いーじゃん。あーしのカラダもエリっちが弄っていいからさぁ。あ、あーしが自分ですることになるのか。ややこしーなー」
「いらない! はい、終わり!」
言ってスキルによる感覚共有を終了するエリック。
その反応を楽しむように、クーは口元を押さえてほほ笑んだ。
「にゅふん。次はー?」
「まだやるのー……?」
うんうんと大きく首を縦に振るクー。笑顔の圧に負ける様に<
エリックの脳内に、自分の
『名前:クー
種族:アラクネ 性別:女性 健康状態:■■■■
誕生日:9月6日 年齢:■■■
ジョブ:裁縫師
保有スキル:
<
<
<
<
<
<
<
<
<■■■■>:■』
読めない部分はスキルの強さの関係で読み取れない部分だ。スキルのランクが上昇すれば読めるかもしれない。
(すごいや。主要スキルがほとんどAクラス。<
スキルはその強度に応じて10段階に分かれる。最低ランクがC-で、無印、プラスと強くなっていく。Bの次はA。そしてA+の上にSランクがあるらしいが、それこそ世界に数名の伝説レベルだ。
「ねーねー、使ったの?」
小首を傾げるクー。情報を見られている側からすれば、何がどうなっているのかわからないようだ。
「うん。まあその、クーってすごいんだなぁ、ってことが分かった」
「? えへへー。もっと褒めて褒めてー」
疑問符を浮かべた表情から、すぐに笑顔に変わる。ころころ変わる表情に、エリックもつられて頬を緩めていた。
「次が最後? さっきみたいに何されたかわかんないのはやーよ」
「ええーと、それじゃあ……」
エリックは最後のスキル<
「それじゃあ『敬礼のポーズ』」
「ひゃあああああ!? あ、にゃにこれぇ!? あーしのからだ、勝手に動いちゃう!?」
クーはエリックの命令のままに右手をあげて、頭に合わせる。
(エリっちに命令されたこと以外が出来ない!? あーしのカラダ、エリっちに逆らえないの……!)
(エーテルで体中縛られて、身動き取れないような感覚……! 壁ドンされて、顎クイってされて、そのまま為すがままな感じ!)
(逆らえない……しかも命令聞くことがイイって思っちゃう! マジやばたにえん! こんなの続けられたら、あーし……!)
「じゃあ次は……」
「エリっち。もう、やらなくて、いいから」
「え? あの、うん。分かった……」
一字一句強調しながら手で生死を求めるクー。自分で使ってと言ったのに理不尽だなぁ、と思いつつもクーの訴えに頷くエリック。
クーは火照った顔を隠すようにエリックに背を向け、冷やすように手で頬に風を送っていた。
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