第16話 武器庫(4)
なんとか渚を説得し、俺たちは大人しく捕まった。縄で体をキツく縛られ、コンクリートの柱にくくりつけられる。
狂犬は俺の影に戻す所を見られるとまたややこしい事になりそうなので、俺達と同じように縛られるふりをさせておく。男達のうちのリーダー核らしき三十代くらいの男が一歩前に出て話しかけてくる。
「お前ら、今度は何の用だ?」
それはこっちの台詞なんだが。
「何の用って……俺は佳奈が餓鬼に襲われてるのを見て、助けて、ここに連れてきてもらっただけだ」
この男達は何が目的なんだ?
まず、そもそも俺達が縛られる理由がわからない。
俺達は縛り付けられるようなことをした覚えがない。男は俺の言葉に強く反応し、拳を強く握り苛立ちを持って話す。
「もう、その手には乗らねぇぞ……お前らのせいで、俺らは……俺らは……そしてなんだ!?今度は俺たちから何を奪うって言うんだ!
こうなったのも全部お前達のせいだろ!」
男は不満が爆発したように怒鳴りながら、威嚇のつもりなのか、銃を突きつける。
「ちょっと待て、話が見えないんだが。俺らが何したっていうんだ?」
「っ!とぼけてんじゃねぇ!!」
「ぐぁっ……!」
男は怒りに任せて腕を振り、銃で俺の頬を殴った。口の中を切ったようで、口の中で鉄の味がじわじわと広がる。
「お前らが俺らの食料を奪わなければ、こんな事にはならなかったんだ!!俺らの食料を返せ!」
俺達はこの男達から食料を奪ったことなんてないし、そもそもさっき会ったのが初めてのはずだ。
「そうだ!返せ!!」
他の男達も賛同し、怒りを込めて叫ぶ。
この誤解は今すぐ解かないと。
「何か、人違いをしていないか?俺達はお前達から食料なんて奪ってっ……」
「隼人」
俺の隣でずっと黙っていた渚がそっと口を開く。
「この縄を、解いてくれない?」
男達に気づかれないように、小声で話す。
「別にいいが、一体何する気だ?」
「要は、この人達に私達の無罪を証明したらいいのよね?なら、任せなさい」
渚は自信に満ちた目で俺を見る。そんな渚はとても頼もしいけど、不安要素は捨てきれない。
ずっと黙っていた分、余計なことを話して今よりもっと悪い状況にならなきゃいいのだけど。
「……でも」
「私を信じなさい」
ほんっとに、どこからそんな自信がわくのだろうか。
「……わかった。お前に任せる。
狂犬、縄を喰いちぎれ」
俺は狂犬に命じると、狂犬は影となって狂犬を縛っていた縄を抜け出し、俺達を縛る縄を食い千切った。
「おいっ!何を勝手に……」
「私の名前は西園寺渚!!
貴方達の救世主となる者の名よ!黙って私の話を聞きなさい!!」
渚は潔く立ち上がると男達の声をかき消すほど大きな声で叫んだ。
そして、床に落ちていた非常食の缶の一つを手に取り、その原材料の表記を見ると、目を閉じる。
「……ふっ……」
渚が手に力を入れると、渚が持っている缶と同じものが渚の周囲の空中に生まれ、ガラガラと音を立てて地面に落ちた。
一個や二個ではなく、何十個も。
「なっ……」
地面に落ちた缶は渚の足元に山を作り、渚は目を開けて男達を見据える。
男達は驚きに、かける声を失い目を剥いている。その目線に渚は満足げに頷き、続ける。
「この通り、私達には食料を奪う理由がない。これで満足かしら?」
そうだ。
渚の能力を使えば、食料に困る事はないし、食料を誰かから奪い取る必要もない。
『創造世界』の力を使えば食料なんていくらでも複製できる。
昨日もこのやり方で食事をとったから、間違いない。渚曰く、その物質を理解していなくても成分さえ認識していればいくらでも創り出せるらしい。しかも、『創造世界』 の力で複製したものはちゃんと質量もある。
今回の場合、複製した缶の中身は食べることができるし、味もちゃんと付いているはずだ。確かに、こうして渚が俺達の無罪を証明するのが手っ取り早いよな。
「いや、そんな事で騙されねぇぞ!!そんな手品で!お前達はっ……」
「あら、まだ理解できないの?これが手品に見えるなんて、やはり凡人には理解し難いことかしら。まぁ、その残念な頭では理解できなくて当たり前ね。
でも、足りない頭でよく考えなさい。食料を創り出せるこの私が、貴方達の食料を奪う必要があるのかしら?」
渚は相変わらずの上から目線で、納得のいかない様子の男達を問い詰める。
「そ、それは……」
「まぁ、疑われても仕方わないわね。なら、私達がそいつらから食料を取り返してあげるわ。
それで文句はないわね?」
「ほ、本当か?」
男達は渚からの思わぬ提案にまたも驚く。
「えぇ、本当よ」
渚は強く頷いて、そして話を続ける。
「まだ信じられないというなら、私が不正できないように人質になるわ。
そこの馬鹿……もとい、隼人に取り返しに行かせるから」
俺を指差してそう言った。
って。
俺がいくのかよ!!
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