第15話 武器庫(3)


 俺達は女の子に案内されながら話をする。


「貴女、名前は?」


「佳奈……」


「そう。可愛い名前ね、私には及ばないけど。ちなみに私は西園寺渚。んで、こっちのバカは氷見隼人。そのワンちゃんは狂犬」


 またバカ呼ばわりされた。


 渚が勝手に自己紹介を早々に済ませたせいか、会話が止まる。気まずい沈黙が流れた後、佳奈が俺を見て口を開く。


「……あの、さっきは、本当にすみませんでした。助けていただいたのに、あんな風に怖がってしまって」


 佳奈は律儀に子供らしからぬ丁寧な態度で謝ってくる。しっかりした子だな。


「あ、いや別にいいよ。怖がらせたのは事実だし、餓鬼に襲われた後じゃあ、仕方ない」


 狂犬は怖がられたのがショックだったのか、俺の一歩後ろに下がって尻尾を垂らして落ち込んでいる。


「あの……一つ聞いてもいいですか?」


「ん?何?」


 渚は佳奈の隣を歩きながら聞き返す。


「あの餓鬼をどうやって倒したんですか?」


 餓鬼に効果のある特殊な能力で倒した、なんて正直に言っても信じてはくれないだろう。


 あらゆる現代兵器を用いても殺せなかった餓鬼を、あんな簡単に殺したのだから。


 普通は信じない。


 だからか、渚もお茶を濁しながら答えた。


「それは着いてから話すわね。でも一つだけ言うと、私達、『ドリーマー』っていう救世主なの」


 やっぱり救世主というポイントは譲れないみたいだ。


「救世主……?」


「そう」


 渚は救世主と呼ばれて嬉しそうに返事をする。


「あ、ここです」


 案内されたのは廃墟と化したデパートだった。


 確か、地元では有名な大型デパートで有名ブランド店から雑貨屋まで幅広いジャンルの店がひしめき合っていたはずだ。


 休日となれば多くの客が押し寄せて賑わっていたであろう、その場所は。


 今となってはそんな華やかなイメージは微塵も感じられなかった。


 壁にはヒビが入り、壁の一部が剥がれ落ちてその壁の中のワイヤーが剥き出しで見えているところもある。ショーケースのガラスは全て砕け、乾いた泥が床や壁にこびりついている。


 ここはまだ餓鬼に襲われたことがないようで、血の痕などは残っていない。


 こんな所に人は隠れていたのか。


「んで、他の避難民はどこにいるんだ?」


「……」


 俺は佳奈を見てそう聞くが、佳奈は顔を伏せて答えない。


「佳奈……?」


 渚がその場を動かない佳奈に向けてそう聞く。


 何だろう。ものすごく嫌な予感がする。


 佳奈は顔を上げて。


「本当に……ごめんなさい」



「動くな!!」



 今にも泣きそうな顔でそう謝ったと同時に、俺たちは武器を持った男達に囲まれた。



「佳奈……」


 いつの間にか、俺たちの周りを囲むように銃やナイフを手に持った男達が立っていた。


 男達のラフな服装から、ただの生き残った市民だということは分かる。


 武器はどこからか盗ってきたのだろう。



 俺たちがこのデパートに入った瞬間から、物陰にでも隠れて様子を見ていて。


 そして、見事に佳奈に嵌められたと。


 そういうことか。


「よくやった」


 男のうちの一人が俺たちに銃を構えながら佳奈に近づき、佳奈の頭を撫でて褒めた。


「これは……」


「……」


 佳奈は俯いたまま男の後ろに行き、俺たちから離れた。


「おい、お前ら。大人しくしろ。


 そうすれば危害は加えない」


 男は銃を突きつけながら俺達に告げる。渚が命令されてはいそうですかと従うはずもない。


「はぁ?何様のつもりで何を言って……」


「渚。止めとけ。ここは大人しく捕まろう。まずは相手の話を聞くべきだ」


 俺は前に出ようとした渚の腕を掴み、引き止める。今は人間同士で争っている場合ではない。


「っ……わかったわ」


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