第七章 元凶に最凶のプレゼントを送りに行こう

そうしてナルの言葉が言霊のようにその場を包み込んでいくなか、アリサが今までに聞いたこともない歩行音のような音が聞こえた。

「お姉ちゃん!来てっ!」

その音がナルにも聞こえたようで強引に手を引っ張り全力で走り出した。私はその速度に転びそうになるが何とか速度を合わせて足場の悪い道路を駆け抜けた。

「ナル?どうしたの?」

「静かにして…お願い……」

その声はいつもとは比べ物にならないほど低く真剣で震えているのが分かった。そして走りながらある言葉を口にした。

「ル・モンド・ミュエ」

やはり聞き覚えのある言葉を口にして走り出した。初めて出会った時に聞いた《アリュマージュ》と同じ言語だ。《ル・モンド・ミュエ》これもフランス語で《無音》や《音のない世界》といった意味を持つ。ちなみに《アリュマージュ》は点火という意味。どうやらこの世界はフランス語を言うことでその意味を魔法として使うようだ。今ので言えば《無音》という意味であるから私達2人は現在音を一切出さない状態であるといえる。なぜ音が聞こえないという仮説を持たないのかというと私達が走るときに踏まさる水溜まりの「ピチャ」と言う音が聞こえるからだ。

そうして走るとある1件の家と言っていいのか分からない木造のボロ家に入り奥へ行き地下へと続くであろう隠し扉を開けて私に「入って」と促した。

地下は穴を掘って木材で囲われている形になっていて30人くらいは入れるスペースで明かりはロウソクが10本ほど用意されていてナルはすぐに1本取り出して火を灯した。

「ここは?」

私は当然の質問を投げかけた。

「ここは私達の隠れ家で、彼らが来た時の集合場所であり避難場所でもあるの」

「誰もいないけどそろそろ来るの?」

「……えっ?!」

ナルはここに来るのに必死だったようで道中、周りで何が起こっていたのかなんて見る余裕がなかったのだろう。私も魔法の発生言葉がフランス語である事に驚きはしたものの路地で何が起こっていたのかは微かながら見ていた。

「探してくるから待ってて!」

「待ってよ」

階段に脚をかけて手を伸ばし扉に手をかけるナルの片足首を掴んで止めた。

「お姉ちゃん……」

「……ここで今、何が起きてるのか教えてくれる?」

ナルは私が初めて見せる少し真剣な表情に何かを感じたのか階段から体を離し座って話し始めた。

「今ここに来てるのはさっき話したお偉いさん。また戦争で使って壊れた道具とかゴミとか死刑にした罪人とかここに捨てに来たんだよ。」

「けど1番怖いのはこれから。自分の視界にここ(スラム)の人が目に入ると「厄が移る」とか言って簡単に殺すんだよ。容赦も躊躇いもなくね。……じゃあ来なければいいのに…」

またもや涙目になりつつある。ナルは死に対して感情がとても動きやすいようだ。

「それでナルは探しに行こうとしたんだね」

「そうだよ。今にでも行きたい!早くしないとあの子達がっ!……」

「おね…ぇ…ち、ちゃん?」

泣いている私をそっと抱きして背中をトントンと叩き慰めて頭にポンっと手を乗せた。

「ナル。私は皆の場所に行くよ」

「お姉ちゃん?」

その言葉は力強かった。けれどそれが故に分からなかった。急に私を抱きしめて慰めて。さっきは探すのを止めたのに急に皆の場所に行くなんて言い出して。お姉ちゃんは何がしたいんだろう。さまざまな思いと考えが私の思考を埋めつくした。

「ナル?」

「つえっ?」

訳の分からないことだらけで頭が回らない。

「ナルがどうしたいのか、どうするのかは自分の判断でね。私が動いたからじゃないからね。全ては己の判断で」

お姉ちゃんはまた頭にボンと手を置き階段を登り扉を閉めた。

「お姉ちゃん……」

私はその後ろ姿をを見るだけで動くことも出来ずに涙だけが1滴、地に落ちた。

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