第六章 内なるナルの暗い語り

「お姉ちゃん…」

「どうしたの?」

「お姉ちゃんは何に覆われているの?」

歩き始めてから山に入った2人は足場の悪い山道を登り折り返し地点に来ていた。山自体はそこまで急ではないのでそこまで2人とも体力を奪われることはなかった。ナルの体力がどこから来ているのかは不明だが私は中学の頃に部活をやっていたおかげだ。

「私はね。いろいろあるけど、やっぱり両親かな」

「私も同じ」

同じ…か。その年でそこまで考えているのか。嫌いとか言うのなら分かるがナルはこの年で両親から離れたいと、逃げたいと思うほど何に覆われているのだろう。

「てゆうか両親はどうやって説得するの?」

「っ……それは…」

この話、と言うよりかは両親の事を話すと必ずテンションが下がる。明らかに動揺しているのがまるわかりだ。

「どう言ってもダメだって言われるだけだけど…」

それはそうだ。まだ11才の少女を見知らぬ人間と一緒に旅に行かせるなど、だいだいが拒むに決まっている。

「私も一緒にいてあげるよ」

私は俯くナルの頭に手の軽く乗せた。

「大丈夫」「説得する」なんて絶対言わない。そんな確証はどこにもないのだから。けれど彼女も薄々気づいているのだろう。無理だということを。

「ありがとう…お姉ちゃん」

それからどのくらいの時間がたっただろう。日がお落ちてきたような気がする。恐らく2時から4時のあいだだろう。

そうして足場の悪い森を抜けるとそこにあったのは街。本で優雅に描かれている街。とはまるで別物のスラム街だった。

「(ちょっと想定外…)」

「お姉ちゃん安心して」

そんな私の気持ちを悟ったのかナルは安心させようと笑顔を向けて不思議な事を言った。

「ここは私の家だからっ」

「(家?)」

私は頭に浮かび上がった疑問を瞬時に振り払う。ここが彼女の家と言うが明らかな嘘なのは明白だ。しなし今はそういう事にしておくべきだと思った。

「それじゃ、行こうお姉ちゃん」

私は「こくり」と頷き重い足を進めた。実際のところは森で折り返し地点に到着した時、明らかにヤバい街らしきものは遠目で見えていたので随分前から乗り気ではなかった。

実際のスラム街はテレビで見たのよりかは多少ましに見えたがゴミの散乱がすごく道の端に寄せられていてもう収集がつきそうもない。建物は木造で造られておりしかもボロボロ。修繕することすら出来ないのかボロボロの布がかけられているだけで住めるような場所ではない。

「んっ、」

スラム街に踏み入れた時から感じている異臭にまた鼻がやられた。原因はもちろん散乱しているゴミが原因なのだろう。しかしナルは平気そうに歩いている。やはり「家」と言うだけあって何度も来ているから慣れたのだろうか。

「ここはさ…もともとキレイな街だったんだって」

ナルが突然、前を向いたまま歩みを止め語り始めた。

「ある日、どこぞの若いお偉いさんが大量のゴミや死体をここに捨てて行った。その時はみんな混乱しちゃって何も言えなかったみたい。」

その声は少し震えていた。

「そして捨てて行ったお偉いさんの場所をつきとめて話をしに行ったけど断られた。けど何日も通い続けたある日、面会が許可されたみたいで話す事が出来たらしいの…。」

そしてナルは絞り出すような声で次の言葉を繋げた。

「……皆は帰ってこなかった。どんな話をしたのかはもう分からないけれど結果はすぐに分かった。なんでかって?…それからもたくさんの物がここに捨てられていったからだよ。」

「そう……みんなの遺体も一緒に」

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