第五章 決心した少女ナル

2人はこのキレイなアサガオ畑を並んで歩いていた。空は初日と比べると少し雲が多くあったものの雨が降る感じはなく、いい感じに太陽を隠していた。

星空を日の出をナルと共に見て互いの事をほんの少し知って、それだけなのにこの時間は結構好きだった。

「お姉ちゃんの家はどこなの?」

突然話しかけられたことに対する多少の驚き顔をなんとか隠して答える。

「知りたいの?」

「うんっ」

後ろで手を組んだナルは一歩前に踏み出し目を直視してくる。

「知らない方がいいと思うよっ」

ほっぺに人差し指を当てて軽く押す。するとナルは少し膨れた様子で「むぅ~っ」とするがそれ以上は何も言おうとしない。そのあたり年の割に大人だと思う。

「そっちの家はどの辺なの?」

「ん~っとね」

そう言いながらスカートの左ポケットから直径10cm程の円形ガラスを取り出し右手の人差し指をかざした。その後、ガラスがどう変化したのかは手が邪魔で見ることが出来なかったけれどすぐにポケットへと戻し振り向いた。

「あっちだよ」

と、今朝太陽が昇って来た方角を指さした。それは今私たちが歩いている方角と同じ。

「歩いてる方向一緒だったね」

「そうだね~」

「ところでお姉ちゃんはこれから何をするの?」

「っん~とね~(なに…か、)」

なにがしたいのだろう…。夢であった異世界に来ることが出来て、新たな私を構築することができる場所があって、私は……いったい、魔法が使いたいのかな。けどそれだけじゃない気がする。他にもっと大切な、やりたい事があると思う。

「…本当にやりたい事を見つける旅をするよ」

「旅?」

ナルは私の言った意味が理解できないというように聞き返す。

「そう。今までいろんなもに覆われていた私を解き放つ、さいっ…、私にとって最高の旅をね」

「覆われていた…」

少女のトーンが急に下がり囁くような音量で言った。

「なんだか楽しそう…」

先程とはまるで違う。声に活気に溢れた高揚感が感じられる。

「楽しそう!楽しそう!私も行きたいっ!!行ってもいい?!」

その高揚感が爆発したのか私の前に立ち叫ぶようにお願いしてきた。それは子供が自分の意思で勝手に決めてしまうのとはまるで別物。そこには両親を説得する覚悟も度の厳しさも。少なからずわかっている様子だった。その覚悟の様子に私は度肝を抜かれてしまった。この年でどう生きてきたらここまでの覚悟を持てるのだろうか、と。

「ふふっ…両親はいいっていう?」

その覚悟を試したかったのか自分でも分からない。けれど意地悪心をふんだんに含んだ言葉を投げかけた。だがナルはそれに動じることはなかった。

「言わない!絶対反対する!…けれどっ…だけど!…私はもう覆われたままの私でいたくない!新しい私に…全てを解き放った私になりたい!もう!……だっ……て…」

ナルは涙を流して叫んだ。言いたいことを少なからず言い放ったのだろう。しゃがもうとしたその少女を私はそっと抱き寄せた。

「!……おね…ちゃん」

「……」

何をいえばいいのか、それは分からないし分かっても決して言おうとはしなかっただろう。言ったところでそれは慰めになるだけだ。それこそが私がこの世で嫌うことの1つなのだから。

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