第三章 初めましてのピンチ

どのくらい時間が経っただろうか。

見上げる空は夕暮れを過ぎ点々と星が輝いていた。

「きれい…」

高層ビルが立ち並ぶ都会に住んでいた彼女にとって、星空だけを見ることなんて不可能だ。だからよけいに美しく見えたのだろう。

寝そべったまま美しい星空を見る。

自然の月明かりと星々の小さな明かりは自然そのものを、身体中で感じているようで気持ちがよかった。

「んっ……」

隣には小柄な少女らしき子供が私にくっつくようにして寝ていた。

「なにしてるの?…」

とりあえず声をかけておくが、

「…ま、起きるわけないよね」

いつからここに居たのかは分からないし、名前も何も知らない。けれど嫌な気持ちにはならなかった。むしろ可愛いと思ってしまった。

そっと紺色のブレザーを脱いで少女の上にかけてあげる。

すると、

「寒い~」

こんどは私の方が寒くなってしまった。さすがに夜中なので夜風は冷たい。昼間とは大違いだ。

いや、そもそもとして膝よりかなり上まであるスカートとワイシャツ一枚では夜中を外で過ごすこと自体が無理な話なのだ。

我慢すれば出来ないこともないのだが。

とはいえ今更、少女からブレザーを取るのも気が引ける。

「風邪はほっとけば治るからね」

しかしこの考えが風邪をひく典型的な考え方だと言うのは理解している。

にしても今一番知りたいことがわからない。それは時間。

教室に居た時は夜六時。しかしこっちに来た時は昼と思うほど明るかった。経験はないが海外に行った時の時差ボケを経験している気がした。

深い溜息が出る。

暗く月明かりだけの空間は静かで溜息だけが大きく聞こえる。

「んっ…っ。お姉ちゃん?」

「あ、起きた?」

この返しにまるで姉のようだ、と思い笑いそうになる。

にしても、「お姉ちゃん」と言う言葉はどうも引っかかる。

起き上がった子はやはり女の子だった。見た目だけで判断すれば小学五・六年生と言ったところだろうか。

にしてもどうしたものだろうか。何を尋ねればいいのか分からずに女の子から目を逸らし空を見上げる。月明かりが一瞬、太陽のように明るく見えた。

「ねぇねぇ~お姉ちゃんは誰?どうしてここにいたの?」

言葉遣いは小学五年生と言うよりかは幼く聞こえたが今はどうでも良い。それよりも問題なのはどう説明するか、だ。

下手なことを言えばこの異世界での生活はすぐに終わる。

しかしホントの事を言って「ナイショだよ」なんて甘い言葉を言っても言わないなんて保証はない。

だいたい言うに決まってる。

しょせん人間なんてそんなものだ。

「(どうしよう…)」

結構本気で困った。

「(家出?こんな所まで?家は?この辺家一件も見えないけど……散歩?家は?どうやってきたの?…)」

考えれば考えるほど言い返しに対応できなくなる。

「(やばい…)」

そして見上げたまま月に向かって私は言った。

「名前はアリサ。昼寝と考え事のためにここにいるよ」

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