第二章 始まりの前兆

体は未だに動かずに固まったままだ。

けれど今はそんなことよりも目の前に広がる景色が全てだった。アサガオ(ヘブンリーブルー)が下一面に隙間なく咲きはるか遠くに見える低い山々。それに架かる薄い雲雲。

住んでた地域では見たこともない。幻想的と言える美しい景色だった。

「きれい……」

意識などしていなかった。気づけばそう呟いていた。

「えっ…ちょまっ!……いでっ!…っ~」

突如、体感したことのない引っ張られるような感覚に襲われ背中から思いっきり体全体が地面に打ち付けられた。

「いったあぁ~~」

背中はともかく頭まで打ちうずくまる形で地面にのたうち回ってしまう。長髪の髪が軽いクッションとなったのが幸いだ。しかしそのせいでキレイに咲きほこるアサガオが彼女の周りだけ折れてしまいせっかくのいい景色が一部台無しになってしまっている。

「も~、なんなのさ~痛いし」

だんだんと痛みが引いていき和らいでゆく。

それと同時にため息がでる。

この広大で美しい景色に対する喜びのため息。気づけば体を大の字に目をつむりアサガオに埋まっていた。

そしてたまに来る風が心地よい。長い髪が小刻みに揺れて皮膚に触れる。前までなら鬱陶しいと思っていたかもしれない。


けれど今は違う。

居る場所が違う。


それだけでここまで意識が変わる。よけいに落ち着いてきた。


呼吸が深くなる。

意識がさらに遠くなる。


そしてもうそこに意識はなかった。

「ねぇ… ゃん」

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