見つけた

 エノーとロザリンデたちが旧街道を進んで4日目の夜。

 峻険な山脈を越え、彼らはようやくなだらかな地面があるところまで下りてくることができた。ここまでくれば、リーズやアーシェラがいるという村までもうすぐだろう。

 地面には馬車の轍がくっきりと表れており、この先に人が住む場所があることを示唆しているかのようだった。


「ほぉ……流れ星がきれいだな」

「ええ、まさかこんなところでこんな光景に巡り合えるなんて、思ってもみませんでした」


 かつて宿場だった廃屋から出て、夜空を見上げるロザリンデ。その姿に気が付いたエノーも、彼女の隣に立ち、空を彩る白い筋の雨に感嘆した。


「私もつい先ほど気が付きましたが、ピークはもう過ぎているようですね。ふふ、もっと早く気付ければよかったのですが」

「そうだな……。俺も前に、リーズやアーシェラ、それにロジオンや……亡くなったツィーテンの姉貴と一緒に、流星群を眺めていたことがあった。あんなにきれいなものを見たのに、今日まで二度目を見ることはなかったんだな」


 二人はしばらく流れ星を眺めていたが、ふとエノーはなぜロザリンデがこんな夜遅くに外に出たのかを聞きに来たことを思い出す。


「君が外に出たのは、これを見るため……というわけでもなさそうだが」

「……リーズかアーシェラさんに、影送りの術での交信を試みます。いきなり訪ねて、面倒なことになると困りますから、どちらかに予告をするのです」

「ほほう! そんな便利な術があるのか!」

「結構しんどいのですけどね……それに、術を使っている間の私は完全に無防備です。リシャールさんは昏睡の術を掛けてお休みしていただいてますが、ひょっとしたら術が早く解けてしまう可能性もありまして」


 従者なしでの野営生活が続いたせいか、リシャールは日を追うごとにイライラが募り、本性を隠さなくなってき始めていた。

 それこそ初めのうちは(ロザリンデに手を出そうとすること以外は)貴族としての自覚があるからか、比較的自重していた態度をとっていたが、次第に豪華な食事がしたいだの、蜂蜜入りの水が飲みたいだの、心地よい寝台で休みたいだの――――無理と分かり切っている欲求をぽつりぽつり口にするようになった。

 リシャールとしては我慢できている方なのだろうが、かつてこんな生活が続くのが当たり前だったエノーにとっては、我儘以外の何物でもなかった。現にロザリンデは本格的な野営は初めてにもかかわらず、エノーを信じて付き従ってくれている。

 特にこの日の夜は、リシャールからのアプローチがいよいよ露骨になってきたので、ロザリンデは昏睡の術を使って彼を無理やり眠りに落としてしまったというわけだ。


「わかった。君の身の安全は俺がしっかり守ってやる。君は一足先に、リーズの無事を確認してくれ」

「ありがとうございます。お言葉に甘えますね、エノー」


 背後の安全を恋人にゆだね、ロザリンデはその場で術に意識を集中させた。まるで自分が鳥になったかのように、彼女の意識が影となって大地の上を走る。

 暗い闇夜に沈んだ世界は何も見えず、どこまで行けばリーズたちがいるのか少々不安だったが…………やがてロザリンデの意識は、人の気配をつかみ取った。


(ここが、アーシェラさんたちが住んでいる村?)


 住民が寝静まっているからか、家と思わしき構造物の数々には明かりがともっておらず、村の全貌がどうなっているのかよくわからない。

 しかも、まばらに建っている家々には、なんと術防御がかかっているらしく、建物中を覗き見することすらできない。ロザリンデにとっては完全に想定外であった。


(これでは…………リーズがどこにいるのか分かりませんね)


 それだけでなく、村の入口付近に影を飛ばしたときから、どこからか誰かに見られているような気もする。影の状態では生身の体のように動かすこともできず、視界も不明瞭。これは一旦あきらめるべきか――――彼女がそう思っていたところに、暗闇の向こう側から人影が二つ、こちらに歩いてくるのが見えた。

 背が高い方はクリーム色の髪の毛。そして背の低い方は紅色の髪の毛。間違いない、この二人は…………


「ロザリンデ……! 何でここにっ!」

「お久しぶりですね、勇者様」


 ロザリンデは、とうとう勇者リーズと再会した。

 一年ぶりに見たリーズの姿は――――王国にいた頃と比べて、格段に輝いていた。

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