6日目 休憩

 朝早くから動き回ってお腹がペコペコになったリーズたちは、森の開けた場所で火をおこし、仕留めた獲物で昼食にすることにした。

 リーズが狩った魔獣のうち、残念ながら狼は肉がなく毛皮しか取れなかったが、鹿とイノシシはそれなりに豊富な肉が取れたので、その一部をそのあたりの枝を串にしてにて、その上に塩をまぶして焼いた。

 付け合わせは、ブロスの家の畑でとれた玉葱と、練った小麦粉の生地を枝の串に巻き付けた即席パン。殆ど調理をしないワイルドな昼食だったが、これはこれで素材の味そのものを楽しめる。


「んふ~っ♪ お腹にしみるぅ~! こんなところまで冒険者時代に戻ったみたい!」

「よっぽどお腹がすいてたんだねリーズ。あんまり急いで食べるとのどに詰まるよ」

「焼いただけでもこんなにおいしいんだから、家に帰ってシェラに料理してもらえば、もっとおいしくなりそう!」

「おっと、そうきたか。リーズに期待されたら、下手なものは作れないね」


 リーズは、アーシェラと和気藹々と話しながら、両手に串をもってモリモリと肉を齧る。

 その様子は、まるで親子のようにも兄妹のようにも思え、火を挟んで向かい側から見ているブロス達を和ませた。


「ヤー、お見事お見事っ! あんなに以心伝心で動けるなんて、想像以上だったよっ!」

「村長とリーズさんは長い間会っていなかったって聞いていたけど、とてもそうには見えなかったわ」

「えっへへ~、でしょ~っ! それに、リーズが獲物を仕留めて、シェラが料理してくれる! これがリーズとシェラの、本当の連携かな!」

「そういうところも昔のままだよね、僕たちは」


 リーズと背中合わせで戦いたい気持ちもあるが、やはりアーシェラの役目は後方支援が似合っている。リーズも、アーシェラが後ろにいてくれるだけでとても心強く、安心して戦いに専念できるのだ。

 今回の狩りで、アーシェラは何となく昔からの気持ちが一つ吹っ切れた気がした。


(リーズ……なんだか村に来た時より笑顔が増えたね。いつも笑っている君だけど、やっぱり自然な笑顔が一番だ)


 勇者という重い使命を背負ってしまったリーズだったが、この村にいる間くらいはそんなことはのんびり楽しんでほしい。その為なら、アーシェラは労を惜しまないつもりだ。

 リーズが勇者になってしまってからは、アーシェラはもう自分はリーズと共に戦うことができないとひそかに劣等感を覚えていたが…………やっぱり、今の立ち位置のままの方が、一番リーズの力になれるのだ。



「さーて、じゃあお昼を食べたら、いよいよ釣竿の素材を取りに行こうか! ちょーっと難しいかもしれないけど、リーズさんならきっとできるよね! ヤーッハッハッハ!」

「必要なもののうち、釣り針はリーズさんが狩ってくれた狼の牙から作るわ。あとは釣竿と糸ね」

「うんっ、ミルカさんと一緒に釣りをする約束をしたんだから、難しくても頑張らないとね!」


 午後になり、リーズたちは獲物を解体してすこし重量を減らしたミネット号を牽いて、またどんどんと森の奥に進んでいった。

 村のすぐ近くにある森にもかかわらず、その面積は思っていた以上に広大なようで、太陽が見えなくなるとあっという間に方角が分からなくなってしまいそうだった。


「リーズさん、ここからは私が先導するわ。ブロスはミネット号を見てて」

「ヤァ、オーケー! 私は昼寝して待ってるよ!」

「見ててって言った」

「ごめんよゆりしー」


 途中、荷車がこれ以上は入れない場所に差し掛かったので、積み荷を魔獣に奪われないようブロスが見張りについた。先程狩りを行った場所よりさらに密集した木々の中を、リーズとアーシェラ、それにユリシーヌの三人だけで進む。

 ユリシーヌが目的とするものはすぐに見つかった。陽があまり届かないくらい森の中に、人間ほどの大きさの蜘蛛の魔獣が、じっとこちらを見つめていた。蜘蛛のいる周囲は大きな蜘蛛の巣がいくつも張られており、他の魔獣の骨がいくつもくっついている。


「うわっ、大きな蜘蛛だ! まさかあの蜘蛛の糸を釣り糸にするの?」

「そう、蜘蛛の魔獣――インセントグリロの吐く糸は加工すると丈夫な繊維になるの。リーズさん、蜘蛛は苦手?」

「ううん、むしろあの蜘蛛はちょっとかわいいなって思う」

「奇遇ね。私もそう思う」

「僕は…………ど、どうだろうな」


 胴体に茶色い逆立った毛を生やし、8つの赤い複眼を持つ巨大蜘蛛インセントグリロを興味津々に眺める女性二人。だが、アーシェラは魔獣の外見があまり好きではないようだった。

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