6日目 連携

 アーシェラと息ピッタリのところを見せる、と張り切るリーズに対し、すぐ傍をついていくアーシェラは、笑顔ながらも心の中ではかなり不安が渦巻いていた。

 先日の大型魔獣の襲撃でもそうだったが、魔神王を倒す実力のあるリーズに対し、アーシェラは戦力としてあまりにも非力だった。彼にできることはリーズたちの能力を強化することと、敵の能力を下げることくらいであり、ブロス夫妻のような華麗な連携などもってのほかだ。

それこそ、戦闘中の連携だけなら、かつてのメンバーの一人だったエノーの方が、よっぽど息の合った戦い方ができるだろう。


(でも、僕は僕なりに……出来ることをするしかない)


 無理に気負うことはない。アーシェラにとって、もう手が届かないほど強くなってしまったリーズと肩を並べて戦えるだけでも大満足だ。


 一方、リーズもリーズで、完全に前向きに考えているわけではなかった。


(この前あの大きな魔獣を倒した時……シェラはちょっと悲しそうな顔をしてた。でもねシェラ、リーズはシェラと戦えるだけでもとても嬉しいんだから!)


 もともと長い付き合いだったからか、リーズはアーシェラが自分と一緒に戦えないのではないかと悩んでいると気が付いていた。

 リーズはあまりにも強くなりすぎた。だからといって、アーシェラにとって自分が遠い存在だと思ってほしくなかった。


 奇しくもリーズとアーシェラは、心の中で同じようなことを考えていたのだった。


「ねぇシェラ、さっきブロスさんが言っていたけど、魔獣は人の気配を感じると向かってくるんだよね?」

「そう、気配はもとより、音とか臭いとかでも向かってくるよ。普通の野生動物とは正反対だね」


 リーズは改めて周囲を見渡した。

 木々が生い茂る森は昼間でもやや薄暗く、背の高い草むらは襲ってくる獣の姿を隠してしまうだろう。だが、木が邪魔なのも姿が見えにくくなるのも……襲ってくる方にも言えることだ。


「じゃあね、リーズは試したいことがあるから、攻撃強化と速さ強化をかけてっ!」

「…………なるほど、何となくリーズがやりたいことが分かった気がする。念のため防御強化もおまけしよう。怪我をしたら大変だからね。ブロスとユリシーヌも、念のため周囲を警戒して」

「わかった」

「アヤヤ、何するか知らないけど、いつでも戦えるようにしておくよ!」


 アーシェラは言われた通り、リーズに攻撃強化と速さ強化、それに防御強化の術を掛ける。

術は範囲で掛かるので、リーズだけでなくアーシェラとブロス夫妻にも効果が及んだ。


 術が全部かかったのを確認したリーズは、その場で大きく息を吸い―――――


「ぉおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!!!!」

「うっ!?」「ヤハッ!?」「っ!?」


 森全体に響くような大声で叫ぶ。

 アーシェラ達は、堪らず指で耳に栓をした。


 するとどうだろう、しばらくもしないうちに、前方から草をかき分けて駆け寄ってくる音が複数聴こえてきた。しかも、こちらに向かってくる速度もなかなか早い。


「ヤヤヤッ! あれ、サルトカニス森オオカミじゃね!?」

「リーズ! 前から来ているのはオオカミだ! 囲まれないようにね!」

「わかったっ!」


 どうやらリーズの大声で、近くにいたオオカミの魔獣の群れを呼び寄せてしまったようだ。だが、これこそリーズの狙いであり、あえて大声を出すことで、森にいる魔獣をこの場所に集めて一網打尽にしてしまうつもりのようだ。

 魔神王すら倒す実力のあるリーズだからこそできる荒業である。


「そーれっ!!」


 もともと凄まじく足が速いうえに、アーシェラの強化がかかっているリーズにとって、野生の魔獣が集団で襲って来ようと大した敵ではない。


(シェラの力をすごく感じる!! 身体がすごく軽い!!)


 白いふさふさの毛並みを持つ狼の魔獣が、草むらからリーズに飛び掛かるも、リーズは残像が残るほど素早く動き、食いつかれる前に剣を一閃した。

 久しぶりにアーシェラと共に戦う喜びは、リーズにとってどんな強化術にも勝るのだろう。いつも以上の良い動きができたリーズは、10体以上いたオオカミの群れを、1分もしないうちに全滅させてしまった。


「リーズ、また別の方から魔獣が来ている! 戻ってきて!」

「うんっ! 今行くよっ!」


 深い木々と背の高い草むらの中という戦いにくい場所にもかかわらず、リーズはまるで身軽な猿のように、密集した森の中を縦横無尽に駆け回った。その動きは、地元のレンジャーであるブロス夫妻ですら感服してしまうほどだった。


「すごいわね。リーズさん、とっても生き生きしているわ」

「ヤッハッハ、間違いないね! あの動きは明らかに村長と一緒に戦えるのが楽しいって感じだ!」


 その後リーズは、狼の魔獣だけでなく、鹿やイノシシといったそれなりに大きな獲物を次々と仕留めていった。戦いが一段落した頃には、ミネット号が満載になるほどになっていたという。

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