第1.5部:過去という名の重し
プロローグ:価値なき幸福
自分の幸せと感じる事が、他人も幸せに感じるとは限らない。
他人が幸せに感じている事で、自分も幸せになれるとも限らない。
世の中に普遍的な幸せがあるというのなら、それはただ一つ――――自分の好きなように暮らせるか、ただそれだけのこと。
リーズ・ストレイシアは王国下級貴族の四女である。
彼女は、王国貴族の中で見れば「ギリギリ人間扱いできる」人物だった。
そんなリーズは、ある日女神の神託を受けて勇者となり、魔神王を倒したことで世界に平和をもたらし、莫大な富と名声を手に入れた。それに加え、今を時めく王国の王子と婚約し、栄光ある王族の一員となる。
恐らく世の中にこれ以上の幸せなど、あろうはずもない。
だからこそ王国は、なぜリーズが富と栄光をすべて捨てて逃げてしまったのかを理解できなかった。
好き好んで最高の幸せを放り投げるというのは、天地がひっくり返ってもあり得ないはずなのに…………現実問題として、勇者リーズは逃げ出してしまっている。
リーズにとって、それ以上の幸せがこの世にある――――
そんな可能性なんて、彼らは微塵も考えなかった。
そして二人にとっても、かつては理解しがたいことだった。
悪意があったわけではない。
すべてリーズにとっての為になると思っていたからこそ、彼も彼女も、リーズに価値のない幸せを押し付けたのだった。
リーズが心の底では嫌がっていたことはわかっていた。でもそれは、リーズがまだ「子供」だからで、
いずれ彼女は自分の立場と責務を理解し、それにふさわしい幸せというのをいつか理解すると思い込んでいた。
ところで、今二人は…………本当に今の境遇が幸せなんだろうか?
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