決着
一方、玉座の間を出たところにある広間では、玉座の間に入らなかったメンバーが、リーズ達4人が出てくるのを待っていた。まず真っ先に出迎えたのが、ロジオンとサマンサの夫婦だった。
「ご苦労さん4人とも。よくもまぁ国王相手に、あんなことできるな」
「ただいまロジオン! それにサマンサ! ごめんね、大事な赤ちゃん借りちゃって!」
「あっはっは! ドッキリ大成功だわさ! うちのオリヴィエも、勇者様の子供役を演じられて、一生誇りに思うだろうさね! ほーら、オリヴィエちゃーん、おかえりぃ、お母さんでちゅよ~♪」
リーズが抱えていた赤ちゃんの正体は――――先日生まれたばかりのロジオンとサマンサの娘オリヴィエだった。相変わらずすやすやと眠るこの子は、いたずら好きなサマンサが、娘可愛さに渋るロジオンを説得してリーズに預けていたのだった。ロジオンとリーズが同じ髪の色だからこそできたドッキリである。
「おめでとうリーズさん! これでリーズさんも、何の憂いもなく自由に生きられるね!」
「よくやったな村長。王国の連中をやり込めるなんて、そうそうできることじゃないぞ」
「フリッツ君! それにレスカも! リーズ頑張ったよ!」
「ははは、僕はただリーズを自由にしてあげたい一心で頑張ったに過ぎないけどね。それとボイヤールさんも、こんな時まで力を貸してくれて助かりました」
「勘違いするなよ。私は王国が嫌いなだけなんだからな。これで私も、のんびり研究に没頭できる」
フリッツにレスカ、それにボイヤールも、4人を快く迎えてくれた。
彼らの周りには、衛兵や文官がバタバタと倒れている。外傷はなく、息もある。例によってボイヤールが、邪魔しそうな者たちを昏睡魔法で沈黙させたのだ。
「よーしみんな、もうこれ以上この国に愛着はないね。アロンシャムで待ってる仲間のところに帰ろうか」
「まちやがれえええぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
アーシェラがみんなを引き連れて帰ろうとしたその時、玉座の間の出入り口の方から怒鳴り声がした。
全員が振り返ってみると、ものすごい形相のセザールが、彼らの前に姿を見せた。
「どこのどいつか知らないがっ!! このまま俺に恥をかかせて帰すわけにはいかん!! 今すぐリーズを俺によこせっ!! さもなくば、決闘だっ!!」
そう言ってセザールは自分の手袋を丸めて、アーシェラ目がけて投げつけた。
仮にもここは王宮内の玉座の間の前であり、武器の携行が許されないこの場所で決闘など本来であれば恥ずべき行為だ。王族でなければ、たとえ受けたとしても死刑は免れない恐れがある。
セザールは武器を持つ王族であり、対するアーシェラは杖を持っているだけの平民。もはや恥知らずと言うレベルではないし、もっと言うと手袋が当たっても、アーシェラは平民なので決闘を受ける義理はない。
だが、投げつけられた手袋は――――――素早い動きでアーシェラを庇った人影にあたった。
「おいおい第二王子さんよ。王族以外が武器を持てない場所で決闘申し込むとか、頭おかしいんじゃないのか? しかも平民を一方的に切り捨てたとか噂されたら、末代までの恥じゃないか?」
「き…………貴様は黒騎士っ! 俺の邪魔をするな!」
魔神王討伐の戦いで、幾度も敵の攻撃から味方をかばったエノーが、ドヤ顔で投げつけられた手袋をその手で受け止めていた。
セザールは、アーシェラの名前を覚えられなかったせいで、相手を指名して決闘を申し込むことができなかった。なので、この場合手袋を受け取ったエノーが決闘を承諾したことになる。
「リーズ、アーシェラ、この場は俺に任せてくれ。前からこの脳みそが下半身にある王子をぶん殴ってみたかったんだ」
「ありがとう、エノー。やっぱり君がいると心強いな。無理しないでね」
アーシェラ達は、巻き込まれないようにその場から少し下がる。
それに対してエノーは、自分が素手で相手が剣を持っているにもかかわらず、挑発するように両腕を広げ、堂々とした態度で第二王子の前に立った。
「ほーら、どうしたセザール、俺は丸腰だぜ? その腰に吊るしてるのは重りか?」
「ぶっ殺してやるっ!!!!!」
セザールはとうとう剣を抜いた。それでもエノーはじわりじわり一歩ずつ彼に近づいていく。
「こいよセザール。怖いのか?」
「おのれぇ…‥‥貴様なんぞ怖くねぇっ!! 野郎ブッ殺してやぁぁぁるっっ!!」
セザールは絶叫し、エノーに向かって斬りかかった。
その頃玉座の間では、意気消沈した国王の周りに大勢の貴族が集まっていた。
実は国王は……以前から持病が芳しくなく、精神的なダメージもあって容体が悪化してしまったようだ。
立ち上がれない国王の周りで、貴族たちは右往左往するばかりだったが…‥‥……玉座の間の入り口の方で、何やら騒ぎが起きていることに気が付いた。
そしてすぐに…………様子を見に行った文官が、またしても血相を変えた様子で駆けつけてきた。
「も、申し上げますっ!!」
「何の騒ぎだ! 広間でいったい何が起きている!?」
嫌な予感がした宰相が詳細を報告しろと文官に詰め寄った。
「だ、第二王子殿下が…………広間で、エノー殿に決闘を申し込みました!」
「王子殿下があの場で決闘を申し込んだだと!?」
王族以外が武器を持てない場所での決闘など、正気の沙汰ではない。このような醜聞が広がれば、第二王子の名声は地に墜ちる。しかし、これもまだ序の口に過ぎない。
「そ、それで……殿下はエノーを殺してしまったのか?」
「いえ………それが」
「なんだ、はっきり申せ!!」
「剣で斬りかかった王子は……その、蹴りで剣を跳ね飛ばされ、エノーは逆にその剣で…………お、王子殿下を……逆袈裟斬りに」
「な、なんだとぉっ!!??」
腰が抜けていた国王は、我を忘れ、どす黒い顔でその場に立ち上がった。
「お……王子が斬られた……王子が斬られた……うーん」
そして、心労の余り――――その場に前のめりになって倒れ、意識を失った。
慌てふためく貴族たち。泣き叫ぶ文武百官。そして勇者たとはいつの間にか、大魔道が用意した瞬間転移魔術でどこかに消えていた。
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