勇者がいなくなったとき
大混乱に陥った王国を去ったリーズとアーシェラ達は、飛鷹の月の終わりごろに、勇者の丘を囲む諸国の陣地に戻ってきた。
晴れやかな笑顔で戻ってきたリーズを見て、人々は喝采を上げ、改めて二人の結婚を祝った。
もう、リーズとアーシェラの仲を引き裂けるものは何もない。二人は愛の力で、魔神王ですら倒すことが叶わなかった、巨大な王国に打ち勝ったのだ。今後の人生は、二人でゆっくり幸せに過ごせることだろう。
「グラント、ただいま! 王国壊しちゃったけど、ちゃんといい国に作り直してね」
「ああ……勿論だとも。素晴らしい国に生まれ変わったら、また招待しよう。個人的には、決闘のない国を作りたいものだな」
「アーシェラも、ただいま戻りました。グラントさんはこれからが大変だと思いますが、僕も陰ながら応援しています」
「アーシェラ……君と仲良くなるのが遅すぎたのが、私の人生の唯一の汚点だな。私はもう、人物鑑定をするのはやめておくことにしたよ」
王都の外で待っていたグラントは、リーズ達より先に陣地に戻って、人質と言う名の歓待を受けていた仲間たちと合流していた。不仲だった1軍メンバーたちも、滞在中に腹を割って話し合ったことで、かつての仲間たちとの絆を取り戻していた。これから彼らは…………故郷をあるべき姿に戻す戦いが待っている。
「みんな……! 集まってくれて本当にありがとうっ! リーズは、これからもみんなと仲良くしていくから! ずっとずっと、元気でいてね!」
こうして、約1ヶ月に及ぶ式典は幕を閉じた。仲間たちは、リーズとの別れを惜しみつつ、兵士たちを率いて自分たちの国に帰っていく。そしてリーズとアーシェラも…………エノーとロザリンデを連れて、山の向こうの開拓村に帰る。
それと、新たに開拓村に加わりたいと申し出た冒険者たちが、30人ほどついてくることになった。
もうすぐ村では農作業が始まる。今年から、村は更ににぎやかになりそうだ。
さて、リーズがいなくなった王国は、大変なことになっていた。
病気がちだった国王は、第二王子がエノーに斬られて亡くなってしまったことにより、失意のうちに息を引き取った。そしてすぐに…………第一王子派と第三王子派、さらにはいくつかの公爵家が王都内で対立。勇者という求心力を失った元1軍メンバーの貴族たちも、己の利益をこの機に乗じて増やすべく立ち上がった。
のちの歴史で言う「王国内戦」の幕開けである。
貴族同士、そして王族同士、血で血を洗う大混乱は数か月にわたって続き、その間に第一王子と第三王子は互いに暗殺された。
そしてとうとう…………王国領の辺境を抑えていた、グラント率いる国軍が、治安維持を名目に王都とその周辺の貴族領に攻め入った。
「我らは第一王子殿下の遺志を受け継ぎ、王女様を戴く官軍である! 自分たちの私利私欲のために王族を殺し、王国の地をボロボロにした賊軍どもを許すな!」
グラントがそう宣言すると、もともと全体の7割近くの兵力を有していた王国正規軍が、貴族たちを一気に駆逐した。この時のためにグラントは、中小諸国が反乱を起こしそうだという名目で国境に軍を配置していて、しかも裏では中小諸国に物資や資金を援助する見返りとして、内戦への不干渉と、幼い王女の即位を認めることを約束させたのだった。
最終的な内乱の終結には1年を要したが、腐敗の元凶となった王侯貴族は例外なく始末され、唯一生き残った王女が無事に王位についた。
その後もグラントは、元1軍メンバーたちと協力して強引に国を立て直すことに成功。その功績を讃えられ、宰相となった。のちに彼は、その剛腕ぶりから「鉄血宰相」と呼ばれ、歴史に名を刻むことになる。
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