20日目 団結
リーズが村に来てから20日目――――開拓村は朝から緊張した気配に満ちていた。
リーズとアーシェラが、村人全員を村の中心の四阿に集め、事情説明と協力を求める。
二人が昨日のデートで結ばれたと知って、大いに喜んだ村民たち。だが、同時にアーシェラの口から、リーズを連れ戻しに来る一行が今日の昼には到着する見込みだと伝えられると、俄かに色めきだった。
「ヤァヤァ村長! 本当にギリギリだったねぇっ! でも、二人が一緒になれば無敵さっ! どうってことないよ! ねぇゆりしー!」
「ブロス、油断は死を招くわ。村長、私たちに出来ることはない?」
「ありがとう二人とも。もちろん、君たちにもやってもらいたいことがある、頼めるかな」
「ヤーッハッハッハ! もちろんだとも! こんな面白いこと、仲間外れは許さないよっ!」
「まかせて。任務は確実に遂行する」
村長とリーズのわがままで協力を求めているようなものなのに、ブロス夫妻をはじめとする村人たちは例外なくやる気に満ちていた。
村の危機でもあるのは確かだが、全員明らかにこの状況を楽しんでいる。アーシェラとリーズがみんなに慕われている何よりの証拠だろう。
「リーズお姉ちゃん! おめでとうっ!」
「あらあらリーズさん、よく頑張りましたね。後押しした甲斐が有りましたわ」
「ミーナちゃん! それにミルカさんも……! 本当にありがとうっ! リーズ、頑張るね!」
「ふふふ、今回は村人の指揮は私が取りますから、お二人は思う存分戦ってくださいな♪」
「あ、珍しくお姉ちゃんがすっごくやる気だ!」
「こんなことは、今回で最後ですよ。次からは、副村長……いえ、村長夫人のリーズさんにやってもらいますからね♪」
「夫人だなんてそんなぁ……えっへへへ~」
リーズとすっかり親友になったイングリッド姉妹。
普段釣り以外やる気のないミルカは、この日はお茶会の時以上にやる気満々。平和を好むミーナも、拳を握って鼻息を荒くしている。よっぽどリーズを取られたくないようだ。
そして、やる気全開なのはブロス一家やイングリッド姉妹だけではない。
「村の平和は私が守る。当然、二人の愛も守ってみせよう」
「わぁ! レスカ姉さん、今のセリフカッコいいよ!」
「そ、そうか! もちろんフリ坊も私が守るぞ!」
レスカとフリッツのふたりも……
「今日は上等な小麦があるから、連中をやっつけたら白パンで祝杯と行こうじゃないか!」
ディーター一家も……
「負けるなよ村長!」
「私たちが付いているからね!」
「王国なんかクソくらえだっ!」
その他の村人たちも一斉に気炎を上げた。
開拓村がこの地に築かれてから、約一年以上に渡って共に艱難辛苦を耐えてきた彼らの団結度はすさまじく、相手が王国の……それも元勇者パーティーの最強に近い実力者3人であっても、決して逃げ出そうとする者はいない。
そんな彼らの献身に、リーズは感極まって泣きそうになった。
「みんな、ありがとう…………リーズはっ! この村に来て本当に……本当に良かった!」
王国と違い、見え透いた下心も、ドロドロした陰謀も、ぎちぎちに縛る礼儀作法もない。
そして、この村には温かみがある。どこまでも続く大自然がある。そして、愛する人がいる。
リーズは、もう心の底からこの村を愛してしまった。だからもう――――彼女に王国に帰る気はない。リーズの帰るべき場所は、もうここにある。
「よし、そうと決まれば準備開始だね! ブロス、ユリシーヌは「お出迎え」をお願い。ミルカさんとミーナは「歓迎」の用意を。それ以外の人たちはレスカさんの指示に従って、各自の分担を怠らないように!」
アーシェラがパンパンと手を叩くと、各人は一斉に動き出した。
もともと村人たちは、訳ありではあるが優秀な人材ばかり。簡単な指示だけで、己のなすべきことを理解できる。今こそ、彼らが本気を出すべき時が来た。
「さてリーズ、僕たちも急いで「いろいろと」準備をしようか」
「うんっ! シェラは絶対にリーズが守って見せるんだからっ!」
「ははは、それもいいけど……今日くらいは僕にも見せ場が欲しいな」
太陽は徐々に登っていく。
決戦の時は、刻一刻と近づきつつあった。
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