3枚目の手紙

 ロジオンは懐から取り出した紙を、まだ開かず、見せびらかすように二人の前で扇いで見せた。


「10日くらい前に、アーシェラが手紙を送ってきた。それも緊急の用事に使う術式郵便だ」

「やはり、ロジオンのところに来ていたんだな」

「お前らが信用なさすぎるせいで、あいつメッチャ怒ってただろ」


 リーズには一言の相談もなく逃げられ、アーシェラにはリーズを守ってやれなかったことを詰られ、そしてロジオンからは仲間を見捨てた恨みを吐かれる。

 かつての仲間に信用されていないということが、エノーの心を痛めつけるが、それもこれもすべて彼が自分でまいた種である。


「ま、約束通り聖花を持って直接訪ねてきたんだ。俺のところに来た手紙を見せてやるよ」


 そう言ってロジオンは、エノーに手紙を手渡した。そこにはこう記されていた。


『ロジオンへ

 忙しいところ申し訳ない。この手紙を、緊急で君に送る。

 今、リーズがこちらに来ている。このままでは、リーズの身にどんな危険が及ぶかわからない。

 王国にいるグラントさんとエノーに手紙を送ったから、この手紙が着いた後くらいに、エノーとロザリンデがリーズを迎えに来るはず。手土産に聖花を持ってくるように言ってあるから、きちんと約束を守ったと判断したら、僕のところに向かわせてほしい。

 ボイヤールさんには話はつけてある。もし何かあったら、構うことはない。しばらく君も安全な場所に身を隠すといい。サマンサさんにも、体に気を付けるように言ってあげてね。

 すべてが無事に終わったら、また連絡するよ。迷惑を掛けた埋め合わせは、また今度するから。


 また逢う日まで。

 アーシェラ・グランゼリウスより            3/3 』


 二人が目を通した手紙は、グラントやエノーに届いた手紙と違い、ほぼ具体的にロジオンに協力を求める内容だった。ただし、文脈からは「君がリーズに居場所を教えたんだから、最後まである程度責任もて」ともとれるニュアンスが漂ってはいるが……


「もしお前たちが以前と変わらずに、手段を択ばずにごり押しする気だったら、俺はお前にアーシェラの居場所を教えない気でいた。アーシェラの居場所を教えて、リーズを後押ししちまった身としても、責任を感じてるからな」

「ああ、少しでも信じてくれるだけで十分だ。それに……今更だが、俺もロザリンデも罪滅ぼしがしたくてな」

「協力していただけますか?」

「ほう? なんだそれは、聞くだけ聞いてやろうか」


 この後3人は、いったんロジオンの邸宅に帰り、ボイヤールも交えて話をすることにした。

 エノーとロザリンデが、自分たちだけではなく、かつてのメンバーの一人のリシャールを同行させていることについて説明すると、ロジオンは若干渋い顔をした――――――しかし、彼を連れてきた目的を語ると、渋い表情が驚きに変わり、そして最後は面白そうな商品が入ったときのような、鋭い笑みを浮かべた。


「ほほう、なるほどな。完全に信用はできんが、面白そうだ」

「これが俺なりの罪滅ぼしってやつだ。まるでガキ大将に戻ったような心持だが、悪くない」

「私も聖女失格ですね。ふふふ、ですがなぜでしょう、わくわくしてきました」


 今頃公子リシャールは、何も知らずに悠々と花を手折っている頃だろう。

 渋々同行を許した……と見せかけた、彼の本当の使い道について、知らぬは当人ばかりだ。


「ありがとうロジオン。サマンサに会えないのは残念だったが、また今度寄るよ」

「悪いなエノー。カミさんそろそろ臨月なんだ。今は念のため実家に避難してるが、生まれたら赤ん坊見せてやるよ」


 こうして、エノーとロザリンデはアーシェラとリーズの居場所の情報と、密かな協力者を手に入れることができた。今日はこのまま宿にもとまらず、目的地に向けてひた走ることになる。

 大通りで女性冒険者と、どこかのいいところのお嬢さんたちを侍らせて歩くリシャールを、二人は何とか説得して出発準備させると、馬にまたがりアロンシャムの町を後にした。


「やれやれ、せっかくいいところだったのに。ま、どうせこの町の女なんか所詮顔だけさ、一回遊べばそれで十分だ」

「ホントにお前、何しに来たか忘れてないだろうな?」

「もちろん、将来の伴侶を迎えに行くために決まっているだろう!」

「…………」


 エノーとロザリンデは、お互い顔を見合わせて小さくため息をついた。

 後々必要とはいえ、この自己中男と一緒にいるとストレスがたまる。戦闘の腕は一流なのに、もったいないとすら感じられる。


「ところでリシャールさん。あの丘に、かつてパーティーに所属していて、途中で戦死した人たちのの記念碑があるのですが、お花の一本でも添えていったらいかがですか?」

「戦死した連中の? いやはやロザリンデ、聖女様だからって途中で死んだ弱い奴らに情けなんてかけてやる必要はないよ。むしろ勇者パーティーの恥だから、そんな奴らの名前なんて消してやればいいのに」

「そう………‥」


 その後彼らは、ほぼ無言で馬を走らせた。

 目指すはアーシェラの元故郷、旧カナケル王国地方。もう人が住んでいないはずの、まさに世界の端っこにリーズがいるようだ。

 果たして、彼らを待つものとは…………

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